第44話:魔獣とは
応接室に移動した五人だったが、そこには当然と言うべきか、ノワール家で初日の模擬戦を行った時と同じようにラミアンが笑顔で待っていた。
「……母上? 今回は座学なのでマジックウォールはいらないですよ?」
「うふふ。楽しそうだから来ちゃったのよ」
「……はぁ」
こうなってしまっては何を言っても聞かないことは知っている。
アルはそのままリリーナとクルルを椅子に座るよう促したのだが──なぜだかラミアンの両隣に案内されてしまった。
「……母上?」
「アルのお友達と交友を深めてもいいじゃないの、ねえ?」
「あの、私はとても嬉しく思います!」
「わ、私なんかがラミアン様のお隣にだなんて、よろしいのでしょうか?」
「もちろんよ。それでは、魔獣についての講義でしたよね、始めましょうか」
「……エミリア先生、チグサさん、よろしくお願いします」
二人に問題がなければそれでいいかと自分を納得させたアルは、エミリアとチグサに講義を進めるように促した。
「分かりました。では、まずは魔獣とは何かを説明したいと思います」
魔獣とは、人間よりも昔から地上に生きているとされている。
誰が生み出したのか、どこからやって来たのか、それはいまだに解明されてはいない。
一説では世界各地に点在しているダンジョンから溢れ出てきたのでは、と言われているが確証には至っていない。
魔獣は、人を喰らう。
故に、人間の仇敵とされており見かけた魔獣は必ず討伐するというのが全人類の共通認識となっている。
ただ、魔獣は人間の糧にもなっていた。
魔獣から剥ぎ取れる爪や牙、皮や肉、多くの素材が人間の生活の中で加工されて利用されている。
特に魔力透過性の高い魔獣の素材を使った
「……人間も魔獣も、互いに共存していると言えるんですかね?」
「その見方は人それぞれでしょう。先ほども申し上げましたが、魔獣を討伐すると言うのは全人類の共通認識です。魔獣素材を利用して生活を成り立たせている者も、魔獣と共存しているというわけではありませんからね。あくまでも利用している、という認識でしょう」
「そうですか。エミリア先生やチグサさんも、魔獣素材を利用した魔法装具を持っているんですか?」
今までの話に出てきた話題では、以前に聞いていた魔法装具にアルは食いついていた。
「私は持っていますが、チグサさんはどうですか?」
「いえ、私は持っていません。魔法装具は高級品ですから、私には分不相応でございます」
「エミリア先生、魔法装具を持っているんですね!」
「さ、さすがは、かの有名なエミリア先生だわ」
リリーナとクルルが尊敬の眼差しをエミリアに向けている。
「そんなに凄いことなのか?」
「アル様、魔法装具は物によっては一財産に匹敵する様な代物もあるのですよ?」
「貴族家だからお金の感覚がおかしくなってるんじゃないの?」
「いや、すまん。単純に無知だっただけだ」
クルルの物言いはラミアンがいる中では問題になりそうだが、それくらいで怒るようなラミアンではないので笑顔のまま講義に耳を傾けていた。
「確かに、授業の中では魔法装具について触れていませんでしたからね」
「母上、ノワール家に魔法装具はあるのですか?」
「あるわよ。ただ、使用を許されているのは代々当主のみとされているから、今だとレオンだけですね」
そうなると、レオンの次の当主はキリアンになるのだからアルが目にする機会はないと思っていいだろう。
「魔法装具が高級品になるのには理由があります。それは、魔力透過性の高い魔獣というのは、品質に比例して強敵になっていきます。素材を確保するのに、誰かが犠牲になることも少なくありません。誰かが命を賭して手に入れる素材から作られるからこそ、高級品になるのでしょうね」
「そうですか。……ちなみになんですが、学園が保有しているダンジョンで魔法装具にできそうな素材を手に入れることはできますか?」
「ア、アル様!?」
「ちょっと、何を言っているのよ!」
「えっ? なんか不味いことでも言ったか?」
何気ない質問だったのだが、リリーナとクルルからは驚きにも似た声が発せられた。
「まあ……手に入らないわけではないけれど、それには結構な下層まで潜らなければ無理だと思いますよ」
「そ、そうですよ。一年次の最高進出記録は八階層です!」
「それも、アルのお兄さんであるキリアン様が達成した記録! 私たちがそれ以上に潜れるわけがないじゃないのよ!」
「……な、なんだか、すまない」
頭を掻きながら申し訳なさそうに謝罪したアルだったが、二人に挟まれたまま笑顔を浮かべているラミアンは、一層の笑みを浮かべていた。
「──アル」
「は、はい、母上」
「いいのではないですか?」
「……な、何がでしょうか?」
「一年次の最高進出記録である八階層を超え、さらに魔法装具として使える素材を手に入れる。目標とするには面白そうではないですか」
「「「「……え、ええええええぇぇっ!」」」」
「……」
リリーナやクルルだけではなく、エミリアやチグサですら驚きの声をあげた中、アルだけは無言のまま期待に満ちた瞳でラミアンを見つめていた。
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