第24話:初めての授業

 駆け込んできたのは眼鏡を掛け、無駄に主張している胸が男子生徒の視線を奪っている女性教師。


「み、皆さん、遅くなりました~! ……あれ、どうしたんですか?」


 何があったのかを全く理解していない女性教師は頭を抱えているアルと、口を開けたまま固まっている他の生徒を見て首を傾げている。


「……あの~? 皆さ~ん?」

「えっと、その、どこから説明したらいいでしょうか」


 前に出ていたアルが説明するしかないだろうと思い先ほどまでのやり取りを一から説明したのだが、女性教師の表情はとぼけた様子から徐々に青くなっていき、最終的には顎がガクガクと震え出してしまった。


「えっ、ちょっと、なんでそんなことになってるんですか!?」

「それは俺たちが聞きたいのですが……その、あなたがFクラスの担任教師でいいんですか?」

「あっ! はい、そうですよ! 私はFクラスの担任教師でペリナ・スプラウストです! よろしくね~!」


 話題を変えると気持ちが切り替わったのか明るく自己紹介をしてくれた。

 すぐに切り替わるものなのかと内心で呆れながらも、アルは席に戻ろうとしたのだが――


「あっ! あなたは確か……アル・ノワール君ですね」

「はい、そうですが?」

「……うん、あなた、Fクラスの学級長ね」

「……はい?」

「それじゃあ授業を始めますよ~」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってください、スプラウスト先生!」

「何かしら?」


 さも当然という感じで話を進めようとしたペリナだったが、さすがにアルは口を挟んだ。


「い、いきなり学級長はないと思います! ちゃんと立候補や多数決を取ってですねえ――」

「問題ないと思いまーす!」

「アル・ノワールで問題ありませーん!」

「面倒事を引き受けてくれるならなあ」

「先生ナイスだわー」

「……ということで、授業を始めますよ~」

「……マジかよ、おい」


 これ以上何かを言えばまた問題になってしまうと判断したアルは、溜息をつきながら席に戻った。

 その途中ではニヤニヤと笑っている生徒もいたが何も言わない。

 席に着くと、唯一心配そうにやり取りを見ていたリリーナが声を掛けてきた。


「あの、アル様、大丈夫なのですか?」

「まあ、やるしかありませんね」

「私にできることがあれば言ってくださいね?」

「ありがとうございます、リリーナ様」


 お礼の言葉に優しく笑ってくれたリリーナを見て、知り合いになれて本当に良かったと心の底から思っていたアルだった。


 初日の授業が始まると、すでにエミリアから教えられている内容の復習のようなものだった。

 他の生徒も家庭教師や自習をしてきたのだろう、全員がつまらなそうに講義を聞いている。

 本来ならこのまま講義が終わるはずなのだが、ペリナから驚きの内容が口にされた。


「皆さんもこれくらいの内容は話に聞いているでしょう。ということで、魔道場で実戦をしてみましょうか」


 この発言にはアルを含めた全員が唖然としていた。


「あの、スプラウスト先生?」

「どうしましたか、リリーナさん」


 誰も質問をしないこともあり、今回はリリーナが手を上げて発言をする。


「初日は講義のみと伺っていますが?」

「それは誰から聞いたのですか?」

「兄上や姉上たちからです」

「そうですか。ですが、それは過去の授業ですね。今年からは新しい学園長の意思の下、より実戦を重視した授業内容に変更されているんです」


 笑みを浮かべながら淡々と説明していくペリナに対してリリーナは気後れしている。


「……実戦を重視した授業と言いましたが、具体的にはどのようなことをするのですか?」


 助け舟を出したのはやはりアルだった。


「具体的にと言われてもねぇ……魔法でドンパチ?」

「抽象的過ぎますって!」


 とぼけたような発言にさすがのアルも声を大きくしてしまったが、他の生徒は面白そうだと立ち上がり始めていた。


「魔法でドンパチだってよ」

「そんなこと家でもできなかったぜ?」

「しかも実戦ってことは対人戦か?」

「いやー、こわーい! きゃははー!」


 そして周囲の声は大きくなり、ペリナが第五魔道場へ移動するようにと伝えると一斉に移動を開始した。


「これ、本当に大丈夫なのか? リリーナ様はどう思いますか?」

「……正直に申し上げますと、危ないと思います」

「ですよねぇ」


 魔法操作に自信があるからこそ全員が異を唱えることもなく移動したのだろうが、寸止めや威力の調整などができるかどうかはまた別の話だ。

 人に撃ったことがないということは、人に対しての調整も学んでいない可能性も高く、最悪の場合だと怪我人が出てもおかしくはない。


「スプラウスト先生! いきなりの実戦なんて、中止すべきです!」

「うふふ~。でも、アル君とリリーナさん以外はやる気満々のようですよ? それと、実戦の相手は私なので安心してくれて構いませんから」


 生徒を追い掛けるようにペリナも教室を後にする。

 アルは歯噛みしながらもこの場に残り続けるわけにもいかず、心配そうなリリーナと共に第五魔道場へと向かうのだった。

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