第9話:晩ご飯
その日の夜はノワール家が全員集まっての晩ご飯となった。
普段はレオンが執務で欠けていたり、魔法学園に通っている長男が欠けていることも多いのだが、今日はアルが魔法適正を知ることができた記念の日だということで全員が集まったのだ。
レオンとラミアンに長男のキリアン・ノワール、次男のガルボ・ノワール、そして末っ子長女のアンナ・ノワール。
上座にレオンが座り、その隣にラミアン。逆側にはキリアンが座り、隣にはガルボ。
アルはガルボの向かいでその隣にアンナである。
食事が始まると最初にアルへ声を掛けたのはキリアンだった。
「アル、これから魔法の勉強が大変になると思うがしっかりと学ぶんだぞ。何か分からないことがあればエミリア先生もそうだけど、僕にも声を掛けてくれよ」
「ありがとうございます、キリアン兄上」
「ふん! とは言うものの、レベル1しか持ち合わせていないのであれば役立たずではないか。このような奴がノワール家にいるとは、まったくもって不愉快だな」
そして、全員が集まる場で悪態をついているのはガルボだった。
「おい、ガルボ! アルに対してその態度はなんだ? 今日は祝いの席だぞ?」
「祝いって、魔法適正を確認するのは通過儀礼ではないか。それを何を持って祝いだというのだか」
「……す、すみません、ガルボ兄上」
「お前たち、静かに食事もできないのか?」
そこに声を掛けたのはレオンだった。
ガルボも当主であるレオンには頭が上がらないのだろう、口を噤み食事だけを楽しむことにした。
「……あの、アルおにいさま、おめでとうございます」
最後にアンナが小さな声で祝福の声を掛けてくれた。
その言葉にアルは笑みを浮かべてアンナの頭を優しく撫でる。
「ありがとう、アンナ」
「えへへ、アンナもまほうてきせいをかくにんするのがたのしみだな!」
「うふふ、アルは今日から早速、私のお手伝いをしてくれたのよね?」
「すごい! アルおにいさますごいね!」
「洗濯物に光属性を与えただけなんだけどね」
「……アルよ、魔法適正を確認して、すぐに光属性を使ったのか?」
話の中で驚きの声を漏らしたのはレオンだった。
家族の前では常に冷静な姿勢を見せているレオンの態度に全員の視線が集まった。
「えっと、はい。洗濯物全てに光属性を」
「……全てに? ラミアン、それは本当なのか?」
「うふふ、本当ですよ、あなた。アルはとても器用に魔法を使いこなしてくれましたよ」
「……エミリアもすぐに基礎属性を使えるようになったと言っていたが、あれはひいき目でも何でもなかったのか」
「本当にすごいよアル! 僕だって基礎属性を使いこなせるようになるまで一日は掛かったのに、その日でだなんて!」
「アルおにいさま、すごいです!」
「……ちっ!」
もろ手を挙げて喜んでいるキリアンやアンナとは正反対に舌打ちをするガルボ。
しかしレオンの目があるからか、悪態をつくことはなかった。
「この調子なら、すぐに基礎魔法や組み合わせにも進めそうだね」
「はい! そしたらすぐにでも――」
「アル!」
興奮したアルが口走ろうとした言葉を、レオンが大声で遮った。
何が起こったのか分からなかったアルは口を開けたまま視線をレオンへ向けて固まってしまう。
「あ、あなた、どうしたのですか?」
「んっ? いや、なんでもない。アルよ、魔法の勉強、頑張るんだぞ」
「……は、はい」
冷静になり、アルは気づいてしまった。
レオンはこの場で口にしてほしくないのだ。
(やっぱり、剣術を学ぶだなんて知られたくないことなんだろうなぁ)
過去の産物である剣術。
どれだけの実力を身につけたとしても、それが剣術というだけで揶揄されてしまい、全く評価を得ることはできないのだろう。
そう考えると、アルが進もうとしている道はとても険しく、そして孤独な道なのかもしれない。
その後の食事は厳かに進み、時折アルが魔法を使った時の話で盛り上がり終わりを告げた。
部屋に戻ったアルはベッドに顔を埋めると今日一日のことを思い返していた。
「……はああぁぁぁぁ、疲れた。一番疲れたのは晩ご飯だったなぁ」
レオンの迫力に押しつぶされそうになりながらの食事は到底リラックスできるようなものではなく、むしろ疲労を溜めることになってしまった。
すぐにでも目を閉じて眠りにつきたいところなのだが、今日は少しばかり興奮しているので体を動かしたい気分なのだ。
「……よし、裏庭に行こう」
食事が終わってすぐの時間である。
すでに日も落ちているということもあり、誰もいないだろうというのがアルの予想だった。
静かにドアを開閉し、足音を立てないように裏庭へと移動する。
実のところ、洗濯物に魔法を掛けている時に外壁に立て掛けられている少し長めの物干し竿が目に入っていた。
それを剣の代わりにして素振りや型の練習でもできればと思っていたのだが――裏庭には予想外の人物がアルを待っていたかのようにして立っていた。
「……あ、あなたが、どうしてここに?」
「お待ちしておりました、アルお坊ちゃま」
そこにいたのは、裏庭で掃除をしていたメイドだった。
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