第21話 神の一撃。
砲撃先座標を入力し終えると、魔石からの魔力が砲身に装てんされた射撃用の魔石に充填されていく。砲門は左右にそれぞれ5機。充填魔力は私の持つ最初の魔石内から5割。実質1砲門につき、魔力の1割が充てられる事になる。
威力の検証をしたわけではなく、ぶっつけ本番の付け焼き刃。今回の検証で威力が分かれば、強弱の調整は可能。そう思っていました。
「右舷全砲門解放!セイントビーム発射!」
私は意を決して引き金を引く。砲門に充填された魔力が一斉に解放され、
「うわっ!」
「きゃあああ!」
私も思わず声を上げてしまった。しかし、それだけではなかった。今度は激しい閃光と共に衝撃波が襲ってくる。船内は男女問わず(女性は私達しかいないけど)悲鳴が上がる。
「な!何が起こった!?」
慌てて状況を確認する。衝撃波の正体は間違い無く着弾したあの光線。見た目はほぼ核弾頭に匹敵する威力を放ち、衝撃波で対面側の味方軍が築いていた砦の城壁まで、一部損壊させる威力となっていた。
「あっちゃー。やっちゃいましたね。って、こちらも被害状況を教えて。一応耐衝撃用の
さすがは先輩。少し動揺は見せながらも冷静に対応している。私も負けてはいられない。すぐに命中した敵方の状況を確認しようとする。しかし…。
「がふっ…」
突然の
(何?これ…。)
私はあまりに唐突な状況に立っていられなくなり、その場に座り込んでしまった。
「おぃ…。だい…じょ…か。し…か…りしろ」
聴覚も耳鳴りがずっと響いてしまい、船長と思われる声が遠く聞こえる。
(あぁ…これ…レベルアップだ…。)
昨晩、この作戦を練っていた時に議題に上がっていた。それは飛行艇の主砲で倒したモンスターの経験値は入るのだろうか。と言う問題。
―――数時間前。
「ねぇイサミン。」
「なんですか?先輩」
「今、主砲用の魔力を溜めてもらってるじゃない?」
「そうですね。がっつり持ってかれてますよ。私の魔力」
「この魔力を使った主砲なら、私達に経験値とか恩恵が来るのかな?」
「…分からない。」
ゲーム上であれば、主人公を補助する形の砲撃は、経験値の対象になっていた。そしてここは本当にリアルのファンタジー世界。自分の魔力で相手を倒すのだから、倒した魔物の経験値は自分とそのパーティーメンバーに注がれるはず…。つまり、大量の経験を取得し、一気にレベルアップすれば、魔王退治も楽々のチート作業になる。
「理論上は…そうなんだけど…ね」
―――そして現在。
「がはっ…。がはっ…。」
「い…いさみんも…感じている…よね。」
体中の激痛に悶えながらも、私は先輩の方に視線を合わせると、そこには汗だくになってコンソールを操作する先輩の姿が目に映った。
「お前さん達大丈夫か?特に勇者殿はお連れ様よりも苦しそうじゃが?」
船長が心配そうな眼差しを向けている。
「あ…は…はい…。ちょっと…眩暈がした…だけで…す…ので…」
何言ってるんだろう私。そう思いながら、ゆっくりと立ち上がってみる。少しずつではあるが体の感覚が戻って来るのを感じるし、体の奥底からドンドン力が沸き上がるのを感じる。
「ステータス」
私は自分のレベルがどのくらい上昇したのかを確認してみる。
(レベル…289…)
「え?」
自分の目を疑いたくなる。普通のゲームならレベル99で止まるのがセオリー。それが限界突破して3桁になっている。この世界では3桁までレベルが上がるのだろうか。それとも、勇者としての特典でこうなっているのか、私は検証すべきと考えました。
(先輩…先輩…。)
私は先輩に『
(ん?イサミンか。どうした?こっちで通信なんて、何か聞かれてマズイ事なの?)
(はい…先輩も…レベルアップしました…よね)
(ああ…うん。もう収まったけど、アノ日より酷い状況よね。イサミンもそんな感じ?)
(はい。それで…先輩のレベルは今、いくつになりました?)
先輩は私の質問に、自身のステータスを確認する。
「ステータス」
(ん~レベル99。カンストっぽいね。能力も飛躍的に向上してるし、スキルポイントもかなり取得できてるよ。イサミンんは?)
私は少し返事に困りましたが、しかし先輩に嘘を言っても最終的に見られてしまうので、正直に話す事にしました。
(私は…レベル…289…。)
(な…なんだって~!?いや、嘘言ったって、後で確認できるから信用するけど…99で終わりじゃないの!?)
(多分…勇者の特典…かもしれない。多分、そうじゃないと魔王は倒せないんじゃないかな?)
(あ~…それ言われると、なんかそれっぽくなっちゃうなぁ…。ん~って事は今から倒す相手って、まさかの中ボスって事は無い…よね。)
(ん~先輩がゲームにありがちな事言い始めると、大体合ってるんだよねぇ)
(と…とにかく、今は目の前の敵をぶちのめすのみ…よ)
計算上、国境付近の魔物軍団はおおよそ7割が壊滅状態。中には師団長を失い潰走を始めるところも出始めていた。後にこの記録は『神の一撃』として、この世界の歴史に残るのでした。
「いざ!敵の本拠地へ!!」
私達を乗せた飛空艇は、一路敵の本拠地である首都を目指して前進する。
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