第12話 謁見(えっけん)中編
「シリヌス公国の首都までどれくらいかかるんだろう?」
私達はその日、町で購入したいくつかの地図を見ながら、作戦会議を行っていた。
「まさかここまで地図に正確性が欠けているとは…」
地図は基本、旅の商人が行商で使うために使用され、道中で休める場所を示すマークと、国境までの距離を漠然と書いただけで、国土の広さに関しては地図によってまるで違っていて、一体どの国が1番広いのかも分からない状態でした。
「昔の日本と同じね。自分の国が1番大きいと勝手に想像して、他国を小さく書いた地図があったもの。」
「先輩は戦国物が好きでしたね。」
私達が地図を探していた
土地勘が無いだけなら、馬車などの地元公共機関を使えば、大体の日数で到着できてしまいます。しかし、自分達で現地へ行く場合、目測を見誤ると早く着き過ぎる可能性もある。
空いた時間でついでにレベル上げをすれば、到着時の最悪なパターンにも対応できると判断したのです。
「馬車だと何事も無ければ4日かかると聞いたけど…。4日目のどのタイミングで到着はまでは分からなかったなぁ。朝出発で3泊するってことは、移動に1日8時間…道中で馬を休めたりしなければいけないから…。」
そもそも馬が常に全力で走るわけがなく、馬車を引きながらだと車よりも遅い時速で進む事になる事は分かり切っている。馬の時速を10~12Kmと仮定し、移動時間を合計8時間、その中で休み時間を2時間差し引いた時、6時間移動で約60~70Km。3日で約180~210Km程度。これに4日目を加えた距離だと、4日かけて東京から仙台まで行けるかどうかだろう。
「う~ん。新幹線だと2時間くらいで行ける距離…だよね。イサミン」
「そうなんです先輩。車でも7時間もあれば行けるんですよ…。仮に飛行系魔法を取得できたらそれこそ、1日あれば今いる町から隣国の首都まで行けちゃう事に驚きです。」
この世界で言うところの惑星全体で考えたら、日本だけで魔王軍と戦っているイメージになってしまう事が、私達には衝撃でした。
「なぁイサミン。もしかすると、この世界の人間が住んでいる大陸自体が、ものすんごい小さい島であって、他の大陸に行けば魔族は普通に存在してたりするんじゃないのか?」
「ん~地図の感じだと、ちょっと違うみたい。」
私は地図を指差す。
「今、私達がいるこの町と隣国の首都が、ただ近いだけなんじゃないかな。んで、最前線である国境までが非常に長い。相手もそんな状態だから開戦までに時間が掛かっているんじゃないかって思うの。最初に攻められた国は、地図ではどれも非常に広く書かれているから、国土が広すぎて敵の侵攻を知るのが遅れた。だから最初に狙われたのかなって…」
「なるほど…国土が広ければ、それだけ国境の警備は甘くなる…か。となればもっと広い地図が欲しくなりますね。もしかすると、彼らの本拠地に直接攻める事も可能かもしれないし…。」
私達の世界には『桃太郎』や『金太郎』と言った鬼を退治する物語を題材にした絵本があったけれど、どれも鬼の本拠地に直接乗り込んで退治しているところを考えれば、私達も同じ事ように直接本拠地に乗り込み壊滅させることで、この世界の平和はすぐに訪れることでしょう。
「あ~でもRPGでそれはご法度だよね。イサミン。シナリオ完全無視じゃん?」
「あはは…。先輩、そうは言いますけど…私達はガチでこっちの世界に来ちゃってるんですから、シナリオなんて無いでしょうに…ってそれだ!!」
「!?何?急に…。どうしたの?イサミン」
私は自分のスキルを確認しました。
「…。はは…はははは。」
「な…何よ。気持ち悪い…」
「先輩…。私達のスキルって最初からいろいろ選べるようになってるよね。」
「え…ええ、そうだけど?」
「もし…スキル自体…作る事ができるなら…。私達は本当の意味で『チートキャラ』になるんじゃない?」
先輩はそれを聞いた途端、自分もスキル欄を呼び出して何かを考えだした。それは無理もない話です。私達はゲームの世界を体験していて、固定概念に囚われすぎてしまっていたからです。
「ん~私達だけのオリジナルスキルってわけね…。でもただ造るだけでは、この世界にもし神がいたとするならば、その逆鱗に触れないかしら…」
「私達が神になれば…問題無くない?」
「イサミン…。うちの会社に入った時にも、セキュリティシステムの欠陥をいきなり指摘したりしたよね…。どこからその発想が出てくるのよ…。」
「先輩、あれはあれです。入室と退出の管理しているのに同時入退室に関しては一つのカードで良いなんて、結局誰が後ろから入って来たか分からないじゃないですか。」
先輩だって私が思いつかない事をやってくれるのです。私が出来ない事は無いのではと思っています。私は勇者として可能な限りこの世界を守る手段を考える。先輩は私よりも恩恵が無いとはいえ、現代の経験を生かせば、少なくともこの世界の人間よりか、私に近い存在にはなれる。
「私達の力でこの世界を救う事こそが、元の世界に帰れる可能性がある唯一の方法なら、まずは私達が何をすることができるのか、その限界を見極める必要があると思いませんか?」
「これは…もうほとんどゲームクリエイターと同じ…かな。面白くなってきた。んで?大統領との謁見はどうする?イサミン」
「受けてみようと思います。でもその前に国王様にご報告ですわ。ホウレンソウ。会社の基本ですから…ね。」
私達は早速、王都神殿へ向かう事にしました。
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