勇者が女(おばさん)で何が悪い!?

神原 怜士

第1話 プロローグ!?

 ようやく辿り着いた”魔王城”その最上部。


「開けるよイサミン。」

「はい。先輩!」


 鈍い音を立てて扉が開く。広い部屋の奥。その玉座に座る”いかにも魔王”と言う雰囲気を醸し出し、二人を待ち構える男。


「よく来たな…。下賤げせんな人間よ…。」


 ゲームでもよく耳にするであろう台詞を言うなんて、何と言うお人好しな魔王なんでしょう。自らが動き人々を全滅させるだけで、この世界を支配できたはずなのに、私達のようなを、この城に辿り着けるくらいに強くなるまで放置する男が支配した世界なんて何の価値があるのだろう。


「ふふふ…女…。お前達とやらはどこにいる…。」

「はぁ!?何言ってるのさ。私が勇者。貴方の言う人間の希望よ」


 すると、魔王はこちらを二度見しているような仕草を見せる。


「は?お前…頭おかしいのか?」


 いやいや…。頭おかしいのは魔王そっちでしょう。ゲームだって勇者の性別を男女使い分けれたでしょ?まぁ作品によりますけど…。


「たわけた事を言うな!などとは認めん。認めんぞ!」

「だあああああ。なんで女が…勇者やっちゃいけないんですかーーーーー!!!」


―――それは、私が覚えている限り1年前に遡ります。


「なぁ頼むよイサミン。」

ですか?先輩。」


 私達はごく普通の会社のOL。近藤 イサミ24歳と、工藤 香奈カナ28歳は、出身も大学も違うけれど、私が入社早々に上司である工藤先輩の誘いで、ヲタクのイベント「コミケ」にコスプレ参加させられた事がきっかけで、毎年2回は必ずこのやりとりをしている真っ最中です。


「先輩…。私普通の生活がしたいんですけど…。」

「だって~イサミンはいつ見てもスタイル良いじゃない。胸は出てるし顔も綺麗だし、私も衣装の作り甲斐があるわぁ。」


 コスプレ衣装は全て工藤先輩の手作りで、私を選んだ理由は私の身体つき。工藤先輩は中学・高校とバレーボールをやっていて、身長が170センチと大きいのです。しかし胸の小ささにコンプレックスを持ち、自分では男装をメインにやっていたそうです。だからこそ低身長で胸の大きな私を最初に見た時の興奮たるや、今でも忘れません。


「そ・れ・にー。私はこの支部を任された貴女の上司なんですよ。業務命令です。」

「それ…去年も使いました…。そして主任に怒られたの忘れてないですよね」


「あらー。な…何のことかなぁ…ふふふ」

「惚けないでください…。とにかく、今年は行きません。」


 毎年の事なので、私自身「この後の展開」で、結局折れてしまう事は目に見えていた。


「先輩…電気付けました?」

「え?点けてないけど…?」


 妙に明るい天井を私達は見上げてみる。そこには見た事も無い丸い模様が、光り輝きながら円を描くような動きをしている。


「こ…これは…、魔法陣キタ―――!!」

「何それ?先輩」


 異様な雰囲気に、私は思わずそこから逃げようとしましたが、今私達がいるこの「給湯室」のドアが固く閉ざされてビクともしません。


「あ…開かない!」


 私は何とかドアを開けようと必死でドアノブを回しました。しかし、ドアノブはグルグルと360度回転してしまい、手ごたえが無い。小窓も無いため外の様子を見る事もできない。先輩は目をキラキラと輝かせて天井の「魔法陣」と言う得体のしれない模様を見続けている。


「先輩も手伝ってください!やばいですって」


 工藤先輩は何かを呟いている。


(あれだよ…絶対アレ。異世界に召喚されちゃうんだわ。凄い!魔法とか使えるのかな。それともどこかの貴族?あ…死んでいないから転生にはならないか…)


 私は再度天井を見上げる。よく見ると天井の「魔法陣」は、徐々にその位置が


「あり得ません!絶対おかしい!」

「イサミン…覚悟を決めなさいよ…私達は選ばれたのよー」


 先輩は既に何かを悟ったかのような顔をしていた。もう使い物にならない。私だけでも逃げよう。そう思いながら最後まで抵抗していた私ですが、ついに先輩と共に光に飲み込まれていきました。


「ん~」


 光が止み、私はようやく目を開けると、そこは薄暗い部屋で、見渡すと微かな炎の光と、周囲を6人の髭を立派に生やしたお爺ちゃん軍団が一定の間隔で何かをブツブツと呟いている。聞き耳を立ててみるが、何を言っているのか分からない。


「xxx,xxx,xx,xxx,xx,xxx,xxx,xxxx,xxx,xxx,xxxxxx,xx,x,xxxxx,xxxx,xxxx,xx」

「xxxx,xxxx,xxxx,x,xx,x,xx,xxx,xxx」

「え?」


 一番正面にいるこれまた髭を立派に生やした中年男性と更に若い女性が一人。現代ではありえないファッションセンスな正装をした二人は、これまた何かを呟いている様子でしたが、全く言葉が聞き取れなかった。


「本当に異世界…来てしまいましたのね…」

「先輩!?」


 私の隣でまるで存在感無く、感動で言葉を振るわせる先輩の姿もしっかり確認ができた。


「せ…先輩…ここ…どこ?」


 私はかなり小声で聞いてみる。


「ん?知らない。」


 先輩が知らないのに、私が知るはずない…か。私は自分自身の浅はかな考えを改めた。今分かる事は、この場所は給湯室ではない。周囲にいる8人の男女は、誰一人として分からない言葉を使っていると言うことから、日本でもない事がわかった。


 私達…これからどうなっちゃうの!?

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