マリオネット・ローグ

夜野 灯

プロローグ

  薄く張られた小窓から夕日が差し込んでいる。

 明かりのない工房では、外からの光だけが頼りだった。


 木材を基調とした部屋には、埃の積もった机や小箱が所狭しと並んでいる。   

 その上には、手や足、胴体などが置かれていた。


 本物ではない。


 それはどれも、精巧に作られた人形の一部だった。


 これから命を吹きこまれる身体は、触ってみると、ほんのり暖かい。

室温のせいなのか、それとも師匠の力なのか。

 それでも私にとって、この子たちは確かに生きている。


「いいかい、トト」


 名前を呼ばれて、振り返る。


 いつの間に作業を終えたのか、師匠が後ろに立っていた。

 人形を持つ私を、抱きしめる。木と葉っぱの匂いが、胸いっぱいに広がる。


 長い黒髪が垂れてきて、私の頬や耳をくすぐった。


「人形には心がある。私たち人形師は人と同じように彼らの想いを重んじ、共に歩かなければならない」


 かさついた指が、頬を撫でる。


「人形はただの道具ではない。私たちと同じ人の心を持った者たちなんだ」

「君だけはそれを忘れてはいけないよ」


 師匠の言葉に頷くと、柔らかく微笑んでくれた。それはどんな笑顔よりも優しくて、私はこの笑顔を一生忘れないことだろう。



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