ハードル競技で13秒7……


 席取り合戦の末、クリームヒルトの隣は、佐田さんがジャイケンを勝ち抜いて座っていました。


「本当にさっきはごめんね、私考えもなく……だから謝りたくて、何としても貴女の席の隣に座りたかったの」

「気にしなくてもいいのよ、恥ずかしいことではないし」

「貴女、芯は強いのね」


 クリームヒルトは笑うしかなかった……確かに強くなくては、アスンシオンまではやってこられなかった……


「誰でも強くなれるわよ、それより教えていただけると助かるのだけど、稲田先生ってどんな方?」


「私がはいっている同好会の顧問なのだけど……そうね……変わっているわね……」

「あれだけ綺麗なのに彼氏もいないみたいだし……でも仕方ないか……目がつり目だし……」


「そうだ、変なものが好きよね……きつねうどんとおいなりさんを、いつも食べているし……おあげが好きみたいよ……」


「皆から密かに狐女史って呼ばれているのよ、もっとも私もおいなりさん好きだから、狐女になるのかしらね」


 狐女史ね……美子様にこんな、いかがわしい女を近づけてはいけないわ……


 中学二年といえど超人(ユーベルメンシュ)、状況判断などは素晴らしいものがあります。

 しかも佳人待遇側女、そのパープルゴールドにグリーンゴールドのラインが入ったチョーカーが、持ち主の警戒感に反応を始め……急速に空気がざわめいています……


「なんか寒いわ……風邪でもひいたかしら……」

 と、佐田さんがいうので、ハッとしたクリームヒルトではありました。

 いけないわ……気をつけなくては……魔力が起動してしまう……もっと勉強しなくては……


「気のせいよ、それより次は何の時間?」

「いけない!体育よ!吉川さん、運動着、持ってきている?」

「持ってきているけど……」


 更衣室があるのですね、この聖ブリジッタ女子学園山陽校中等部には。

 でも……


「これ、本当に履くの?」

 学販ブルマに抵抗を感じるクリームヒルト。

 そこは白人さんですから、足は長いし、お尻も胸もそれなりに成長が早い……抜きん出てスタイルがいい。


「羨ましいわ……」

 クラスメートがまじまじと見ています。

「そんなに見ないで……恥ずかしくなるから……」


 ジュニア用ブラジャーをしているのは、クラスの七割程度、まだまだ膨らんでいない胸の持ち主は、結構いますよね……

 でもクリームヒルトはフロントホック……


 佐田さんが、「やっぱり外人さんなんだ……」などと差別じみた事を云っています。


 とにかく今日は陸上とかで、ハードル競技との事。

 中学女子規格の高さ七六.二センチ、インターバル八メートル……


 よく考えたらクリームヒルト、初めてなのです。

「私、初めてだわ……」などと言いながら、皆の試技をじっと観察していました。


「吉川さん、初めてなの?」

 と、女子体育教師が声をかけてきたので、

「そうなのです、出来ましたら一度手本を見せて頂けますか?」

 大人のような応対に、すこし唖然とした顔の先生ではありましたが、「こう飛ぶのよ?」

 と、飛んで見せてくました。


「できそう?」

「やってみます」


 さすがに超人(ユーベルメンシュ)、というよりチョーカー持ち。

 何やらナノマシンが助けてくれたような気もしましたが、見事なものですね。


 二回ほど皆で走って、記録にトライすることになったが……

 十四秒一……中学二年の女子としては、歴代記録に入る記録を叩きだしてしまいました。


「すごい!吉川さん、早い!」

 歓声が起こります。

 こんな状況に、あまり出会ったことのなかったクリームヒルト、なんか嬉しくなりました。


「もう一度走ってみない?」

 先生に云われて、チョット気分が良いクリームヒルト、嬉しそうな顔で、

「じゃあ走ってみます!」


 超人(ユーベルメンシュ)といえどまだ子ども、眩しいほどの笑顔ですね。

 十三秒七……


 教師は思った……言葉も無いわ……この娘、ヒョットして天才?

 そんな教師の考えなど知ってか知らずか、クリームヒルトはこの体育授業でクラスに溶け込んだのです。

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