第14話:異種闘法戦2
西田が、模擬剣を手にメイジャと向かい合う。
「……始めの合図は、どうするんだよ。またコインか?」
「ああ、そうしよう……安心しろ。同じ手は使わん。一度見せれば、十分だろう?」
メイジャが再び、魔術で銀貨を作り出す。
今度はそれを、西田にもよく見えるように、親指で弾き上げる。
小気味いい金属音を奏でながら、銀貨は宙を舞う。
そして重力に囚われ落下を始め――地面に落ちた。
瞬間、西田は渾身の力で地を蹴った。
構えは
西田は技を知らない。だが――だからこそ、知っている。
自分の知らない技術を使用される事が、戦闘においてどれほど致命的なのかを。
事実、シズは自分の強みを何一つ活かせず負けた。
だからこそ「振りかぶり」の必要ない、最速で繰り出す事が出来る突きを放った。
メイジャにペースを握らせない、したい事をさせない為の。
そして西田の刺突は――
「……惜しいな」
空を切った――足捌きと、上体を反らす動作で躱された。
読まれていたのだ。技で大きく劣る西田は、対手に技を出させない事が肝要。
ならば当然、速攻を狙ってくると。
「まだだ……!」
だが西田は止まらない。
更に前へと一歩踏み込み――突きを打ち終えたばかりの剣で、そのまま斬りかかる。
神気の加護を帯びた西田の膂力であれば、剣を一切振りかぶらずとも押し付けるだけで、岩を断ち切る事すら可能だ。
刃引きされた模擬剣であっても、その威力は絶大。
「……『
だが――模擬剣は、メイジャの体に触れられなかった。
前触れもなく出現した、淡い光の、六角形の結晶群。
それらが、亀裂を帯びながらも、西田の斬撃を逸らしていた。
「つくづく大した闘気だが――惜しかったな」
メイジャが一歩前へと踏み込み、貫手を放つ。
狙いは首――圧し切りの間合いでは避けられない。
だが――西田も、避けるつもりなどなかった。
速攻は失敗に終わった――ならば次に狙うは捨て身だ。
貫手をあえて受け、左手を剣から離して、メイジャの腕を掴む。
メイジャには諌められた戦術だが、西田にとっては数少ない手札の一つなのだ。
貫手が西田の喉に刺さる。
だがその指先が、喉の奥にまで
――捕らえた。逃さねえ。このまま、へし折ってやる。
西田の膂力であれば、握力だけでも人間の腕が圧壊出来る。
しかし――不意に、西田の喉に激痛が走った。
ただ痛むだけではない。
意に反して喉が強張り、呼吸が出来ない。
指先から闘気を打ち込む事で、対手の身体機能を阻害、または過剰強化する。
武闘家のスキル、『秘孔術』である。
ともあれ西田は最早、メイジャの腕を握り潰すどころではない。
なにせ息が出来ないのだ。
左手に力を込めるどころか、立っている事すら叶わない。
模擬剣を取り落とし、声にならない呻きを上げながら、その場に崩れ落ちる。
「……検分役を決め忘れていたが、まだ何か出来る事があるか?」
メイジャの問い――西田は顔を上げる事すら出来ないまま、小さく首を横に振る。
「よし……なら、じっとしてろ」
メイジャが屈んで、西田の首筋に触れる。
それでようやく西田は呼吸を再開出来た。
「……と、まぁ。これがお前達の現状だが」
メイジャは平然と立っている。
一方で西田とシズは憔悴しきった表情で、地に膝を突いたままでいた。
惨敗だった。
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