Route.Ⅰ Good End……?

 私は何も言い返せなかった。

 押し黙った私をみて、あいつはつまらなそうに、

「だったら、俺のためにやるしかねーじゃん」

 そう吐き捨てたのだった。


 私は唇を噛んで、言葉を飲み込んで、あいつの言う通り必死に、あいつに尽くした。あいつのために努力したのだ。

 その甲斐あって無事に第一志望の大学に合格した。

 しかし、ずっと目の前であいつが囁く。

「遊んでる暇なんかねーぞ。俺のためにさっさと次のことを頑張れ。さてと、次は就職だ。たくさん勉強して、いろいろ経験しなきゃなんないからな。あ、同時に恋愛もちゃんとしておけ。なんたって俺のためだからな」

 それからあいつの言う通り、大学で出会った人とお付き合いをはじめ、恋愛を学び、別れて、公務員になるべく勉強をし、また別の人と恋愛をし、役所に就職して、その人と結婚して、仕事をして、子どもを産んで、全部全部、あいつのために、生きた。


 いつでもどこでも何でも、あいつのために生きた私の人生は、あいつに出会ったその日に終わっていたのだ。

 私はあいつに——『将来』に殺されたのだ。

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