FOUND MY WAY

けなこ

第1話 僕達の分岐点


みこと.高校3年】



祈りの為のロウソクも暑さで変形してしまい、

火を灯す事が出来無い。


…君は何の為に生まれてきたの?


…幸せを願う事さえ手伝ってくれないの?



暑さで脳まで溶けそうになってるのに

動く事が面倒で、直射日光を浴びたまま

ベンチに寝転んでいた。




「死にたいの?」


近くで声がした。

僕に言ってる…のかな。近くに誰も居ないはず。


何故か日陰になって目を開けると、

日傘をさした人。僕を不思議そうに見てる。


「ここで寝てたら死んじゃうよ?

この病院のみんなにも迷惑だと思う」


日傘で僕に影を作ったまま、隣に座って話し出す。


「飲み物いる?脱水症とか熱中症…

ほら、冷たいお茶あげる」


汗まみれの身体をゆっくりと動かし

ベンチに座り直すと、日傘と水筒を持たされ…

にっこり笑って去っていってしまった。



ここは僕の父、小児科と内科の病院。

母親も昔は看護師だったし今も手伝ってる。

僕も…将来は継ぐ。

その為に医学部を受験する予定だ。



彼の笑顔…何処かで見覚えがあるような…

目も鼻も口も…

あらゆるパーツがバランス良く並んで、

冷たくなりそうな顔なのに

それらで作られた笑顔は暖かだった。

笑顔が懐かしく感じた…


本気で脳が溶けたかな…

思い出せないだけなのか、気のせいか…



貰ったお茶を飲んでみた。

喉を冷やし涼しさが体内に浸透していく。


彼に救われたのかも。


……名前を聞けば良かった。


病院の屋上から室内に入ると汗が引き、

汗を吸い込んだ制服ごと冷たくなって

身体にダメージを与える。


日傘と水筒、返さなきゃ。


受付の人に彼の容姿を伝えて探していると訊ねると

多分 '木村 耀てる' という名前で、

内科に来ていたはずだけど

会計も薬の受渡しも済んでいるから

帰ったんじゃないか、と教えてくれた。



うちの病院は、大学病院程大きくないけど

入院も一応出来る設備があって

個人病院の割には大きい。

目の前にバス停もあり利用してる人は多い。


バス停、彼の姿…

'木村 耀'という名の彼の姿は無かった。


そのままバスに乗って帰り、

明日からの夏休み…帰ってもまた1人の夕方か…

…外には夏休みに入って楽しそうにはしゃぐ学生。


僕はこれから何を目指せばいいんだろ…





『受験で忙しいし、私達別れよう?』


『…そうだね。お互い受験に集中して…

ゴメンね。会う時間…全くなくて…

今までありがとうね』



昨日の会話を思い出しては少し落ち込む。


夏休みの計画、受験勉強が主だとしても、

付き合ってればそれなりに会う計画を立てて

デートもしたいと思うはず。普通。

僕は普通の事ができなかったから

別れたいと思われるのも当たり前…


高校生活、彼女もいたし、好きだった。


けどダンスも好き。ゲームも好き。

何より親の病院へ行って、手伝いと称して

子供達と遊ぶ事が大好きだった。



10歳上の兄は病院を継がず、

ゲーム、IT系に勤めてる。


別に跡を継げ、って言われた訳じゃないけど

…僕は小さい頃から自分で

継ぐものだと思っていたし、公言していた。


それが今になって、

ダンスか医療かゲーム関係か…

将来の事を決める時期が来て

悩んでしまう。


…往生際が悪い自分にも呆れる。






受験勉強の為の勉強道具をリュックに詰め、

借りている水筒にお茶を入れ使わせて貰う。

日傘も持ってバスに乗る。


昨日の彼に会えるかな。

…昨日通院したから今日は来ないかな。


おとといの彼に会えるかな。

…おととい通院したから今日は来ないかな。


……1週間後。

そろそろ通院で…今日こそ返せるかな。



病院の空いてる部屋で勉強をして、

息抜きに子供達と遊ぶ。

そして彼の姿を探す日々が続いていた。




「大きい子がいるなと思ったら、君かー!」


プレイルーム。

背中から大きな声を掛けられて、

子供達と一緒に積み木を高く積み上げていたのに

びっくりして崩してしまった。


「「「あーーあー!」」」


子供達と一緒になる彼の叫び声。


「あ!ゴメン!また作るから!

けどちょっと待ってて!

お兄ちゃんこの人に返す物持ってこないと」


「え?別にいいよ。遊んでからでも」



彼も子供達と遊ぶ事に慣れてるようで、

一緒に積み木をしたり

ぬいぐるみで皆んなに話しかけたり。

何十分も思い切り遊んで、

みんな良く笑い、僕も思い切り笑えた。




「みんなー、先生が会いに来るから

部屋に帰って待つ時間だよー」


15時になり、回診の為に看護師さんが

プレイルームから子供達を病室へ誘導する。



残された僕と彼。

彼はさっきよりもニコニコな笑顔で

こっちを見てるから少し照れる。


「…木村 耀さん?で合ってるかな?

受付の人に聞いたんだ。

水筒と日傘、返さなきゃと思って。

ありがとう。この前は助かりました」


「…何かあったの?この前」


「え、まぁいろいろ…」


言いたくないから濁そうとしたけど…


「いろいろ?言ってみて?

…ろうそくで何を祈ろうとしたの?」


助けてくれたし…隠す程でも無いか…



「…あの日、…別れた彼女への懺悔プラス

彼女がこれから幸せに…ってのと…

いつもの様に、子供達…病気が治って

早く元気になりますように…って……」


「やっぱり優しいんだね。尊は」


…僕の名前を知っていた。

子供達からはお兄ちゃんとしか呼ばれ無い。


「けど…淋しいな。結婚の約束までした仲なのに、

僕の事忘れてるし…彼女がいたとは…」


淋しいといいながら、嬉しそうな笑顔の彼。


彼と結婚の約束?そんなはずは無い。彼は男だし、

18年の人生の中で、誰とも結婚の話なんて…



"ぼく、テテと結婚する!"


幼い頃、この病院で一緒に遊んでた女の子。

彼女は喘息で、よく入院してて…


彼女はテテで…



「テル…テテ??」


「あ、思い出してくれた?

…もうすぐ結婚できる年齢になるね」



…遠い昔の記憶、今何となく思い出した…

…女の子だと思っていたテテが、

目の前にいる彼で…?


結婚の話…まさか信じてる訳ないよな…

信じてたら少し怖い…



…けど……テテが僕に向ける笑顔…



なぜ こんなに目が離せないんだろう。


なぜ こんなに心臓が早く動くんだろう。





なぜ 僕は、


彼にキスをしたいと思うんだろう。



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