〜異世界召喚事故は大変危険ですのでおやめ下さい〜 三界見聞録〜海の書〜
真偽ゆらり
第一部
邂逅編 その者……
第1話 その者、救世主です? by狐っ娘
鬱蒼と生茂る森の中を駆け抜けます。
髭面達の隙を突いてなんとか逃げ出せましたが、捕まってしまっては元も子もありません。
なんとしても逃げるのです。
時期が春先なのは不幸中の幸いかもしれません、逃げ切った後で凍死する心配がないのです。それに冬眠明けの獣達もいるので食料の心配もないです。
狩りはしたこと無いですがなんとかなるです。
ハッ! 今物音がしました。
自慢の大きな狐耳が音を捉えたので間違いないです、追手の髭面達が近いですね。
狐耳をペタンと倒し、三本ある自慢の尻尾を足の間を通して抱え込み、しゃがんで出来るだけ身体を小さくするのです。
私は不本意ながら発育が遅めで、ち、小さい……のでこうしていれば植物の影に隠れて見つかるはずはないです。
「クソ、あのガキどこ行きやがった!」
「島から出られるはずはない、見つかるのは時間の問題だ。しかし、お頭が起きる前に逃げるとは運の良いガキだ。お頭が起きてれば朝の占いで逃げる事は叶わなかったはずだ」
「なあ、どやされんの覚悟して戻ろうぜ。
お頭起こして、あの
「だ、誰が
私はもうすぐ十五の
し、失礼しちゃうのです、私はあと半年もしない内に十五になって成人するほぼ
それに私の成長期はきっとまだこれからの筈なのです。母様みたいなツルペタボディではなく伯母様みたいな背が高くおっぱいの大きい魅惑的なボディに、伯母様の様なガサツな内面ではなく母様の様なお淑やかな内面を兼ね備えた
ひとこと言わないと気がすまな——
「「「あ、いた」」」
「あ……」
——いのです……やってしまいました。
どうしましょう、見つかってしまったのです。
まさかあの髭面達がこんな高度な心理戦を仕掛けてくるとは思わなかったのです……思わず引っ掛かってしまったのです。
気まずい沈黙が流れているこのわずかな時間に何か手を考えないと……って逃げればいいんでした。
「「「は! 待て!」」」
動き出した髭面達が追ってきます。
ふふん、獣人の身体能力を舐めないで欲しいのです。あ、でも服に付いたヒラヒラが走るには邪魔ですね。
私の着ている服は特別な素材で編み込んで作られた長袖のワンピースに軽鎧風の装飾を施したモノなのです。ただ、それだとちっとも可愛くなかったのでフリルとかフリフリでヒラヒラの布で軽鎧風の装飾を覆い隠してもらったのです。
それがさっきから枝とかに引っかかって走りにくいことこの上ないのです。
「こうなったら、
からの、フリルブーメラン!」
フリルとかの布を引きちぎって、丸めて投げつけてやりました。ブーメランではないです。
「うわ、なんだ?!」
「くそ、鬱陶しい」
「ブーメランじゃねぇじゃねぇか!」
おお、空中で広がって上手いこと髭面全員に当たりました。と、自分の投擲に感心している場合ではありませんでした。今のうちに距離をとるです。
「おい、捨てるな! 布切れは全部拾え!」
「なんでだよ! 逃げられっだろうが!
テメェ、まさかそんな趣味が……」
「そうか! このヒラヒラがあった方が高く売れるかもしれねぇってことだな!」
私の投げたフリルを喜んで拾ってます……なんか髭面達がよりおぞましい存在に見えてきました。
いえ違いますね、
おぞましい事には変わりないですね……。
しかし、それならばこの可愛くない軽鎧風の装飾も足止めに使えるのです。
走りながら服の装飾を外し、ばら撒きます。
「おい、なんか外したぞ! これも拾うのか!」
「いや、無視だ! これはいらない」
「風で飛んでかねぇから、後で拾えばいい!」
あ、あれ? 私の身に付けていた物なのに拾いすらしませんでした。
拾っている間に振り切るつもりだったのに、作戦失敗ですね。いえ、それ以前にあまり距離がとれてないのです……何故なのです。
問題は脚の長さでした。歩幅が違い過ぎて引き離せません。これでは逃げきれないのです。
こうなったら魔法を使うしかないですね。
魔法の勉強はさぼ……後からまとめてやろうと思っていたので上手く出来るか分かりませんがやるしかないです。
両手を胸の前に持ってきて、少し離した手の間に魔力を集めて詠唱します。
は、走りながらだと魔力を集めるのすら難しいです……これでは三回に一回は成功する魔法も失敗してしまうのです。
おまけに走りながら詠唱したせいで息も上がってきました。
ここは集中して一気にやるです!
「
集中する為に目を瞑り走っていたら太い木の枝か何かにぶつかりました。
鼻が痛いのです。
走りながらの魔法は危険ですね。私が。
……はて? さっきまで唱えていた魔法はどこへいったのでしょう。
「魔法がどっかいったのです!?」
「「「へぶっぁ?!」」」
振り返って見ると、木と木できた草結びに髭面達が激突してひっくり返ってました。
「ね、狙い通り! なのです」
髭面達が起き上がって来る前に逃げるのです。
森を走り抜けると綺麗な砂浜の入江でした。
白い砂浜に、今よりもっと小さい頃に
こんな綺麗な海、初めて見たです。
普段見るような港やゴツゴツとした石や岩ばかりの海岸と違う海がそこにあったのです。
これはしばらく眺めていたいですね。
「ふふふ、ようやく追い詰めたぞクソガキ!」
「もう逃げられんぞ」
「お頭を起こすまでもなかったな」
しまったのです! 追いつかれました。
これでは袋のネズミ、いえ渚のキツネです。
渚のキツネ……自分で言っておいてなんですが、中々良い響きですね。
などと考えている場合ではないのです!
このままではまた捕まってしまうのです、なにか手を……手を……もう無理なのです。
私は絶望のあまり、ペタンと座り込んでしまいました。立っている気力もないのです。
この髭面達三人をどうにかできたとしても、島を出て帰る方法がないのです。それに、他に捕まっている人を見捨てて逃げるわけにも……誰か……誰か助けてなのです……。
堪えきれなくなった涙が砂浜に落ち吸い込まれていく、そんな時でした。
私の背後で何か光った気がしたのです。
「な、テメェ女! どっから現れやがった!」
「なに気にするな。そこのお嬢さんもお嬢ちゃんも怪我したくなかったら大人しくついてこい」
「よく見ろ、結構な上玉だ」
「あら〜こんなおばさん捕まえてお嬢さんだなんてお上手ねぇ〜」
涙目で振り返った目に映ったのはエプロン姿で、笑みを浮かべ目を細めているお姉さんでした。
歳は私より少し上か同じくらいで、私の理想とするメリハリのある体型でおっぱいも大きめです。
伯母様みないな下品なほど大き過ぎないおっぱいで、お淑やかそうな雰囲気なのです。
私の目指すべき
見たことのない素材の襟付きの白シャツに頑丈そうな青生地のタイトなパンツにフリル付きエプロンでスリッパを履いたこの人は何者なのです。
「お、おばさんだと?! 嘘だ! いくつだよ」
「馬鹿野郎! 女性に歳を聞いて正確な年齢が返って来るわけねぇだろうが!」
「二十代はありえない、高くて十代後半の若く見える民族じゃねぇか?」
「ふふふ、お上手ねぇ〜、もうすぐ五十になる三児の母です」
「「「「嘘!?」」」」
思わず髭面達と声が重なってしまいました。
母様や伯母様みたいに目尻にシワは無いし、私と変わらない肌のツヤとハリなのです。
「お姉さん、
そうは見えないくらい若いのです」
「あら〜ありがとうね、キツネ
ふふふ、本当に頭に狐耳がついてたのね。
あら〜泣いてたの〜ふふふ、そういうこと」
このお姉さん撫でるの上手いのです。
でも、なんだか雰囲気が変わりました。
同じ目を細めて笑みを浮かべる表情なのに、笑顔が冷たい感じがします。
「おい! さっさと——」
「は?! おい! どうし——」
「あが……や、やめ……」
瞬きをして涙がこぼれ落ちた瞬間でしょうか、頭を撫ででいたお姉さんが髭面達を砂浜に沈めていました。最後の一人なんて頭を片手で掴んで持ち上げてギリギリと締め上げています。
「ふふふ、なんだか調子が良いわ〜肌のツヤやハリなんて十代の頃に若返ったみたいよ〜。
あら〜? 顔のシワが無かなってるわね。
もしかして若返ったのかしら?」
右手で締め上げながら、左手で自分の顔に触れて肌のハリとかを確かめてます。
締め上げられている髭面が泡を吹いてますが、気にもとめていません。
私は助かったのです?
「ひっ?!」
ホッとしてため息をついていると、お姉さんが顔だけをグルリとこちらに向けたので変な声が出たのです。
私ではなく、私の後方を見ています。
締め上げていた髭面を解放し、こちらに歩いて来たのです。
変わらない笑みを浮かべながら歩いて来るのですが、雰囲気が怖いのです。
もしかして助かってない? と、思って身構えたのですがお姉さんは通り過ぎてから立ち止まり何かに話しかけます。
そこには何も無いはずなのです。
「ふふふ、おばさん……今はお姉さんかしら……
お姉さん、覗き見は感心しないわ〜」
そ、そこに何かいるのです?! 振り返って見ても、頬に右手を当てて喋っているお姉さんの後ろ姿しかいないのです。
「ふふふ」
お姉さんは右手を伸ばし、見えない何かを掴みました。私には何も見えません。
「反省なさい」
身体の芯まで凍て付きそうな恐ろしい声と、硬い何かを砕き、握り潰す音が聞こえました。
恐怖のあまり息をするのを忘れていたのです。
「ふふふ、もう大丈夫よ〜キツネ娘ちゃん。
キツネ娘ちゃんだとちょっと長いかしら〜そうだネ
私に呼吸を思い出させてくれたのもお姉さんでした。さっきまでと違って優しい声で安心します。
頭を撫でる手が
三児の母と言ってたのも本当なのだと思えてきたのです。
でも一つ言っておかなくてはいけません。
「私はネコではないのです! キツネなのです!
それに名前はミーオなのです!」
「ふふふ、じゃあ〜ミーちゃんね〜」
なんだかネコっぽさが拭い切れてない気がするのですが……これ以上何を言っても効かなさそうなのです。
「もう、それでいいのです……」
「ふふふ、良かったわ〜。
ところでミーちゃん? あなたの他にも捕まっている子がいるんじゃないかしら〜?」
捕まってる人はまだいるのです。その事を伝えるとお姉さんは撫でるのをやめ、私の走ってきた森の方を見つめました。
「ふふふ、だったら助けないといけないわね〜。
人攫いの人達は〜殲滅でいいかしら?
このお姉さんはいきなり現れて私を救ってくれた救世主なのです。
でもそれは私から見た一面に過ぎないのかもしれないのです。
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