異世界から来た幼女が私を性的な目で見ている

ありきた

1話 公園で幼女と出会った

 私は本堂ほんどうかなで。ただの高校一年生だ。

 なんの変哲もない退屈な高校生活を送っている。


 ――と、思っていた。


 学校帰り。コンビニで買った飲み物を片手に一人寂しく歩いていると、通学路にある公園のベンチに腰かける幼い女の子が視界に飛び込んだ。

 純白のワンピースに身を包むその少女もとい幼女は、プラチナブロンドの長髪と色白の肌が印象的で、アニメやゲームでも見たことがないほど整った容姿をしている。

 思わず足を止め、息をするのも忘れて見惚れてしまう。

 すると向こうもこちらに気付き、私の方へ一直線に駆け寄ってきた。


「あんた、名前は?」


 明らかに年上である私に対し、敬語も使わずいきなり名前を訊く。

 甘い考えかもしれないけど、子どもだから仕方ないとすんなり受け入れる。

 改めて間近で観察すると、本当に美しい。

 ただ、耳の形が気になった。

 人の身体的特徴を言及するのはいかがなものかと思うが、俗にエルフ耳と呼ばれる長く尖った形状をしている。


「ちょっと、聞いてんの? あたしの言葉、ちゃんと通じてる?」


「あっ、ごめんっ。えっと、私は本堂奏。君は?」


 中腰になって目線を合わせつつ質問に答え、こちらも同じ問いを投げた。

 辺りに保護者らしき人物は見当たらない。

 まだ夕方とはいえ小さい子が一人で出歩くのは危ないので、迷子ないしはそれに類する状況であるなら家まで送ってあげる必要がある。


「なるほど、カナデね。あたしはファルムよ。どうしてもと言うなら、ご主人様と呼ばせてあげてもいいわ」


「え、嫌だよ」


 なにが悲しくて初対面の幼女をご主人様と呼ばなくてはならないのか。

 普通にファルムちゃんと呼ばせてもらうよ。


「そ、そう、ならいいわ。なかなか無礼な人間ね。下等生物のくせに生意気よ」


「うん、君の方が生意気だよね」


「本題に移るわ。耳の穴をかっぽじって黙って静かにありがたく聞きなさい!」


 もう無視して帰ろうかとも思ったけど、さすがにかわいそうなので言う通りにする。

 私の方が大人なんだから、小学生の失言ぐらい軽く許してあげよう。


「一目見た瞬間、あんたに惚れたわ! あたしの世話をさせてあげるから、家まで案内しなさい!」


 いろんな意味で驚いた。

 要求通り集中して静聴していたため、一言一句違わずしっかりと聞き取れている。

 見た目だけは超絶かわいい幼女が、私に一目惚れ?

 世話をさせてあげるってなに?

 家まで案内って、私の家ってこと?

 頭の中はあっという間に疑問符で埋め尽くされた。


「黙ってないで返事をしなさい。あんまり調子に乗ってると痛い目に遭わせるわよ」


 いや、黙れって言ったのは自分じゃないか。

 大人げなく声を荒げそうになるのを堪えつつ、許しが出たので発言させてもらう。


「とりあえず、君は迷子なの? 家まで送ってあげるから、住所教えてくれる?」


 見ず知らずの幼女に住所を訊ねるのはいささか躊躇させられるが、悪用するつもりはないし、なにより一刻も早くこの子から離れたい。

 私は聖人ではないので、いずれ我慢の限界というものが訪れる。

 

「ここがどこかも分かってないけど、迷子じゃないわ。住んでいた家は違う世界にあるから、教えたところで無意味よ」


 なるほど、小学生にして中二病を患っているらしい。

 推定年齢は十歳ぐらいだから、まだごっこ遊びとして受け入れてあげるべきだろうか。

 どちらにせよ、一向に事態が進展しない。


「理解できないって顔ね。低能なあんたにも分かりやすく説明してあげる。あたしは異世界から来たハイエルフよ。あんたの家に住んであげるから、さっさと連れて行きなさい」


 分かりやすい説明とやらは、にわかには信じ難い内容だった。

 ラノベの読みすぎで現実と創作を混同してしまっているのかと心配になる。

 ただ、なぜか腑に落ちてしまう。

 現実離れして洗練された容姿とエルフ耳、そして彼女が身にまとう神秘的な雰囲気が、『異世界から来たハイエルフ』という文言の信憑性を高めている。

 完成度の高いコスプレかもしれないし、私も私でラノベに強く影響されているのかもしれない。むしろその可能性の方が高いはずだ。

 にもかかわらず、私の心は先ほどの説明で納得している。


「住むって言われても、私の家は狭いよ?」


 通学のため、学校から徒歩圏内にあるアパートで部屋を借りている。

 ボランティア精神の強いおばあさんが経営をしており、なんと家賃は無料だ。

 水道や光熱費は別だけど、一人暮らしの学生には非常にありがたい。

 安全に暮らせるようにという計らいで入居できるのは女性のみ、問題を起こせば即退去という条件付きである。

 おかげで退屈ながらも平穏で不満のない高校生活を送れているというのに、公園で拾った幼女を連れ込んだと知られれば追い出されても文句は言えない。

 あと、ファルムちゃんに告げたのは言い訳ではなく、純然たる事実だ。

 ワンルームのアパートで、リビングは六帖ほど、キッチンも小規模で、数年前にリフォームされたというユニットバスもトイレと浴槽がかなり近い位置にある。

 大家さんの手入れが行き届いているため派手な汚れや欠損などは見受けられないものの、ボロアパートという印象は拭えない。


「問題ないわ。さぁ、案内しなさい。拒むなら魔法で無理やり案内させるけど、自分の体が他人の意思で動く感覚なんて知りたくないでしょ?」


 人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、右手を私の方へ向ける。

 目の前に迫る手のひらが禍々しい光を放ち、私は底知れぬ恐怖を覚えた。


「わ、分かった」


 コスプレ幼女の遊びだと決め付ける意思は、すでに一片も残っていない。


「分かればいいのよ。存分にかわいがってあげるから、楽しみにするといいわ」


 こうして、ファルムちゃんを連れて自宅へと向かう。

 入学からすでに二か月ほど経ち、通い慣れた通学路。ほんの数分ほど歩くだけなのに、今日はなぜか足取りが重く感じた。

 今後の人生がどう転ぶのか、そんなの見当も付かない。

 ただ一つ分かっているのは、常識が通用しない面倒事に関わってしまったということだけだ。

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