人間模様14 一時停止の出来事

herosea

前話

 その日、ヒロシは仕事でとても疲れていた。今日は東京駅丸ノ内北口近くにある本社で長いミーテイングがいくつかあった。朝9時から切れ目なく、なんと夜の19時までとうんざりだった。その後も本日中に片付けなければならない書類作成をリエゾンルームでこなし、なんとか切りの良いよいところで本日の業務終了とした。本来なら誰かを誘って駅反対側の八重洲の飲み屋街に行くところであるが、今日は頭がぼーとしている。久しぶりの弱気で休肝日とすることにした。


 会社を出て東京駅から山手線を使い五反田で降りるともう22時を回っている。ここから池上線に乗り換て・・・と思うとうんざりだった。ヒロシの足は勝手にタクシー乗り場へと向かっていた。タクシーで帰れば・・道が空いていれば15分、電車を使うと30分、経験的にこの時間は道は空いている。就寝前の貴重な15分を選択すると決めた。


 タクシーはすぐに乗れた。運転手さんは70才ぐらいの個人運転手だった。1日の疲れを癒すように、彼と世間話をしながらの道中とした。

「雪谷大塚まで。近くまでいったら後は説明するので。」

「はい、わかりました。」


「初乗りが410円になったね。どんな感じかね。」

「そうね・・、あまり変わらないかな・・。」

「ちょい乗りが増えたんじゃないの?」

「そうでもないんですよ。ちょい乗りは浸透していないですね・・。2月は時期的なこともあり、売り上げもさっぱりで・・。」

「たしか2260円以上の料金だったら前より少し売り上げ増になるんじゃないの?」

「ほんの少しですよ。私のように駅に付けていると、ちょい乗りで730円を下回るケースが多いので。どちらがいいとは言えません・・。」


 とても応対が丁寧な運転手であった。彼の性格なのであろう、車は大きく揺れることもなくスピードを出すこともなく、乗り心地の良い安全運転で進んでいった。大通りを暫く下り、雪谷大塚駅近くとなった。

「あー、運転手さん、あそこの信号を右に入ってもらえる。」

「了解です。」


 タクシーは住宅街へと入って行った。この時間なのですでに車や人の往来はほとんどない。途中、タクシーが進んでいる道と交差する5m程のやや広い一方通行道路がクロスするところにさしかかった。

「あっ、運転手さん、ここ左から車が来る時があるので一旦停止してね。」

「はい、一時停止の標識あるかららちゃんとわかってますよ。」

 運転手はその交差点前で止まり、運転手は左右を注意深く確認して通りすぎた。そして2ブロックを過ぎたところでヒロシの家に行く最後の路地を曲がってもらった。


 路地をまがって少し進んだ時だった。路地が狭いためタクシーはゆっくりと走っている。すると・・タクシー後方から懐中電灯のようなライトが照らされた。さらに誰が何かを叫んでいるようだ。段々と声が大きくなっている。ヒロシが後ろを振り向きリアウインドウ越しに確認してみると・・、それは白い塗装の自転車に乗った警察官だった。


「止まってくださーい。そのタクシー!」


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