孤高の罪人

もやしP

第1話 アヴェルと言う主人公

私はただの転生者にして凡人、名はアヴェル。地球という迫っ苦しい世界に生きた只人だ、あの世界は、はっきり言ってクソだった。


自己の為なら平気で人を陥れ、裏切り、友情や恋人など唯の欲望をぶつけ合うだけの依代に過ぎない。


勘違いだと信じ、あらゆる手段で視点を変えて見たがやはり私には人間は滅ぶべきだと思えてならない。気持ち悪いのだ全てが。


行動も言動も何もかも全てが気持ち悪い。反吐が出るほどに醜悪で劣悪で傲慢で。


何度、終わらせたいと思ったか。

何度、滅ぼしたいと思ったか。


善人も悪人も等しく言えるのは、同じ人間だと言うことのみ。根本が同じであればどこで間違えたかなんて問題ではない。


だから、今この瞬間に最高に憂いているよ。


「神様なんて者がいたなら礼を言いたいね。私に物理的な力を与えてくれたことに、この世界『ラストフレア』に転生させてくれたことにね」


「…貴様は何者だ!何故それほどの力を手にしている!精鋭部隊である我々五芒星を相手にして無傷などありえない!」


漆黒の鎧を見に纏う其の姿は、美しくかつ所々返り血で赤く染まっている。声から想像するに男だということは容易に分かったが騎士と言うには身長がかなり低かった。


一方で漆黒の騎士の前で、大声を出して喚いている騎士風の人間の近くには、4人ほど地べたに寝そべっている。辛うじて息はあるものの全身に細かな傷が入っていて動けそうにない。


「…正義や大義がある訳でも無いし、ましてや君たちの味方でもない。これはただの実験だよ、私が躊躇いもなく人を殺せるのかという名のね。だから君たちは安心して死ぬといい、私が何者なのかも知らぬままな」


「質問の意味に答え…」


言葉を言い終わる前に、首を真横に一刀両断され絶命する騎士風の人間。


「人を殺しても何も感じない、私はやはりあの世界で既に心を失ったのかもしれないな…不思議と恐怖や罪悪感は感じない。それと同じくプラスの感情も何も感じない。なのに…何故こんなにも涙が止まらないのだ…」


兜を取り涙を拭くも止まらない。


ラストフレアに転生して、早いもので14年が経つ。生まれも暮らしも普通だった。私は小規模な村に生まれ育ったのだが、性別は

女だった。女だったが故に礼儀作法やら勉学、剣術、魔術、ありとあらゆる習い事を両親からやる様に言われたので産んでくれた事の恩を返す為に全て完璧にこなした。


表面上だけの付き合いであれば、私に負ける要素はない。何せ気持ち悪さを感じながらも何十年と生きていたんだからな、この程度で屈する私ではない。当然成績は総じて平凡に見せた。基礎はできても応用が効かないと言う様にな。


そんな私も14年の間に色々あって今は王都にある学園に通っている。その学院は平民であろうと貴族であろうと等しく扱われ、権力が通用しない学院であり、未来の勇者候補を探す名目の元、実戦訓練を含めた様々なカリキュラムが組み込まれている。またその異質な建造理念から別名『聖域』と呼ばれている。


私は日頃から学園が終わり次第、日銭を稼ぐ為に冒険者として活動している。無論その時はこの鎧を着ているのだがどうにも、注目される。


身長も低く、体格が小さいとイキリ立ったジジィ共は新人絡みだとか言う名目の元絡んでくるが、生憎と私は汗臭いのも酒臭いのも嫌いでね?1度死ぬほど殴ってやったら大人しくなった。だが、新たな問題が発生した。


私の唯一の娯楽である秘密基地建設予定地の近くに面倒なゴロツキが出たのだ。そこで仕方無く奴らの特徴やら姿見から裏ルートを使って情報を探ってみたところ、帝国の上級兵士だと言うことがわかった。


帝国軍直属の精鋭部隊『五芒星』。特別な力を持つと呼ばれる奴らだったが、どうやら私一人で対処できる辺りそこまでのもの達だとは思えないほど弱かった。実力もさながら平均より少し上という所だろう。抜きん出た長所を見たいが故に、手加減もしていたのだが見るべきものはなかった。ただ収穫ゼロという訳では無い。


「まさか、帝国軍が薬物投与によって戦力の増強を測っているとは思わなかったがこれは後々面倒事に巻き込まれるやもしれんな」


注射器が数本入っているケースを持ち帰る事にしてその場を去った。遺体は面倒なので火炎魔法で消し炭にしておいた。王都に戻る途中、盗賊崩れにも絡まれたが金を持っていたのでボコって貴重品を全て吐かせた。


結果も上々、気分は少し晴れたように思える。あの涙の意味は未だに分からないが、今は別にどうでもいい。


街に戻って早々、盗品を売り飛ばし市場へと向かう。今日は稼ぎも多いので、食材を買い終えた後、宿に戻る。


「あ!アヴェルさん、おかえりなさい」


「ただいま、リオ」


この宿は王都で割と安くて受け入れも女性限定なので、安心安全な場所なのである。加えて、この宿の看板娘であるリオは、純粋無垢でしっかり者。私としても居心地が悪くない場所なので利用している宿だ。


「いつもお疲れ様、これ良かったら」


食材の一部と子ども用の可愛らしいブレスレットを手渡す。


「ありがとうございます!今日はお料理はどうしますか?」


「すまない、今日は厨房を少し借りてもいいかな?」


「お客さんも少ないし、いいですけどー…その前にアヴェルさんお風呂に入ってきた方が…」


リオに指摘されてようやく気づく。そう言えば仕事用の鎧を着たままだと言うことに。この鎧使い勝手は良いのだが、鎧に付与された効果で強制的に男だと思わせるので色々と問題があるのだ。それに今日は色々あって汗もかいた、私はリオの提案を受け入れる事にした。


「そうさせてもらうよ、ではまた後ほど」


「はい、お待ちしております!」


リオと別れて、部屋へと戻り鎧を脱ぐ。着替えを持って宿泊フロア横の大浴場へと向かっていると冒険者のロゼリアが話しかけてきた。


「よっ!アヴェル、相変わらず綺麗な金髪だな!小さいしよぉ、ちゃんと飯食ってんのか?」


「小さいは余計だ、それに私はちゃんと食べているし、身長が伸びないのはそういう体質なんだよ」


恨みがましくロゼリアを睨むと滅茶苦茶笑顔でこちらを見てくる。ちょっと美人で胸が大きいからと言って何なのだコイツは、けしからん。大体お前も私と同じ金髪ロングだろうが!


「んで?今日は凄く血の匂いが染み付いているけど何かあったのか?」


急にシリアス顔になるがロゼリアだが、元々コイツは切り替えが凄まじい程早い。歳上かの様な口調だが、学年も一緒で偶然宿が同じという理由で知り合ったのだ。


「知らない方がいい事もあるが、教えておこう。帝国が動いた」


そういうや否やロゼリアは驚きを隠せないのか立ち止まった。


「そ、それはつまり…」


「今回私が倒した連中を口実に攻撃を仕掛けてくるかもしれん。それに帝国は軍事国家だ。真っ向に戦えば間違いなくこの国は終わる可能性がある」


「まさかとは思うけどアヴェル…」


「殺したが何か?」


苦笑いを浮かべるロゼリアの表情から察するに情報を吐かせるべきだと言いたそうだ。


「そいつら情報は持っていたの?」


「いいや、拷問しようとした際に脳を少し弄ったが記憶の封印術式が刻まれていて吐かせようにも意味は無かったよ。それに…」


「それに?」


「…いや何でもない。そろそろ浴場につく、この話は終わりだ」


「んだよ、いい所なのに」


服を脱ぎ捨て、浴場内に入る。体と髪を洗った後湯船に浸かる。私の娯楽の2つ目はお風呂だ。一日の疲れが吹き飛ぶし綺麗になるから好きなのだ。


「…ロゼリアは実家に顔見せなくていいの?前言ってたでしょ、帰る必要があるとか何とか」


「相変わらずの変貌だね…、いいのいいの。実家と言うよりは養子に迎え入れてくれた家だったから顔出そうとは思っていたけど多分今帰ったら余計面倒になると思う…」


ロゼリア曰く、オフの時と仕事モードの私とでは口調に対して天と地ほどの差があるのだそうだ。オフ時は年頃の女性、仕事モードは厳しい上司と言うふうに。


「詳しくは聞かない、聞いても仕方ないし」


「んだとぉ?ロゼリア様の身の上話が聞きたくないだどぉ?おりゃあ!!」


「ちょ、どこ触って…」


どこか寂しげな表情を見せたのも束の間、ロゼリアは私の体を触ってきた。


「私はもう出る、んじゃ」


「ちょ!怒んなってアヴェルー!」







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後書き


異世界帰還者が行き詰まってて死にかけてます…。タスケテ…

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孤高の罪人 もやしP @hibiya0815

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