ハッピーYoutuber

辰巳京介

一件目 ハッピーYouTuber誕生

主な登場人物


練馬タカシ(18) 

東西大学1年。再生回数51回のYoutuber。


倉内紗那絵(19)

桜女子大2年。タカシの同居人。お父さんがショアハウスのオーナー。


三浦さくら(19)

桜女子大2年。タカシの同居人。


島倉里帆(19)

桜女子大2年。タカシの同居人。



目次


一件目 ハッピーYouTuber誕生


二件目 野毛 センターグリル 洋食


三件目 横浜ジョイナス 勝烈庵 とんかつ


四件目 坂東橋 Relaxation Villa ほぐし


五件目 関内 ゆで太郎 蕎麦


六件目 横浜橋商店街 八舟(はっしゅう) うなぎ ラーメン


七件目 大船 すし兆 寿司


八件目 秋葉原 C&C カレー


九件目 溝の口 イシハラi-box プラモデル、模型


十件目 蒔田 ふじ野 焼き鳥



1.

僕の名前は、練馬タカシ。静岡県掛川市出身。4月から東西大学に通う18歳です。今日は早速、住む部屋を見つけるために、最寄り駅前の不動産に来ました。

ご予算は?

と、親切そうな不動産やのおばちゃんは聞いた。

6万ぐらいでありますか?

そうねえ、ちょっと狭くなっちゃうなあ

おばちゃんはいくつか物件を見せてくれた。どれも6畳ほどのワンルームだった。

二部屋欲しいんですよ、一部屋だと息が詰まりそうで。

田舎育ちで、ゆったりとした環境にいた僕は、6畳の一部屋のくらしにちょっと自信が持てなかった。

それだと7万円台ね。このあたりは結構人気だから。

おばちゃんはちょっと申し訳なさそうにそう言ったあと、少し考えて、何か思いついた、という風に、

シェアハウスはどう?

と、言った。

シェアハウスですか?

そう、ここなら、

と、モニターを見せて、

6万3000円。共有スペースがあるから閉塞感はないと思うよ、みんな学生だし、かえってわいわい楽しいんじゃない?

シェアハウスかあ、確かに初めての一人暮らしに、独りぼっちはちょっと心細い気持ちもあった。病気になったときとか。

内見するなら連れてってあげるわよ

おばちゃんはそう言うと、席を立った。


ここ

と、立ち止まったのは駅からも学校からも近いロケーションだった。しかも、なんと一軒家!

一軒家、ですか・・・

そお、素敵でしょ?

おばちゃんはそう言って、家の門を開けた。

小さな庭があり、何本かの木が植わっている。

あれ、桜

と、おばちゃんが指さした。

引き戸かぎを開け、玄関へ入った。古い、作り付けの下駄箱があった。

おばちゃんの後について玄関を上がると、縁側に続く広い和室が奥に二つ繋がってあった。

広いですね。

あの向こうに、一つ、二階に三つ部屋があるの。4人で住めるのよ。上、行ってみましょう。

ギシギシと音がする階段を上がると、二階にはベランダがあり、遠くの山並みがきれいだった。

眺めもいいんですね。

あ、そうそう、忘れてた

そう言うと、おばちゃんは下へ駆け下り、

ここ、どお? すごくない?

と、引き戸を開けた。

そこは、ヒノキの浴槽のある、大きな浴室だった。

オーナーさんの趣味みたいよ。

すごいですね・・・

僕は、ただそう言うだけで精いっぱいだった。

どお? 気に入った?

最高です。

なら、早めに契約した方がいいな、ここ、ご覧の通りの好物件だから。

時期も時期だし。

もちろんです。今日、契約します。

そ、じゃあ、お店に戻ろっか

僕たちは、不動産やに戻り、僕は契約書に判を押した。


店を出て、僕は歩きながら、きっと素敵な大学生活が始まると思った。

だが、実際の大学生活は、そのとき想像していた以上の大変なものだったんだ。


3.

引っ越し業者さんの軽トラの助手席を降りて、僕はシェアハウスの門の前に立った。今日は、引っ越しだ。

改めて家を見上げて眺めてみると、大したたたずまいだった。

玄関に鍵はかかっておらず、僕は家の中へ入った。

ごめんくださーい。練馬でーす。引っ越してきました。

僕が大声を上げると、意外にも一人の女子大生風の女の人が奥から出てきて、

待ってたわよ、練馬君ね?

と笑顔を見せた。

はい、あのお、どちら様ですか?

あたしは、倉内。倉内紗那絵。よろしくね。

入居者さんの彼女さんですか?

何で? あたしが入居者よ?

え? 女性?

あれ? 聞いてないんだ。あのおばちゃん言い忘れたのね、やだ

そう言って、紗那絵さんは笑った。

女性がいるんですか・・・

え? あとの二人も女の子よ

ええ!?

僕が驚いていると、

ただいまあ

と、声がして、二人の女性が帰って来て、僕を見ると、

君が噂の新入居者くんね?

と、きれいな笑顔を見せた。


引っ越し業者さんの荷物の搬入も一息ついて、僕たち4人はお茶にした。

でも、いいんですか? 女性ばかりの家に僕なんかが住んで・・・

いいのよ、君、見た感じ真面目そうだし。あ、そっか、わかった。パパが不動産屋さんに頼んどいたんだ。君のこと。

僕のこと?

実はね、先月、卒業して一部屋空いちゃったのよ。で、パパにその話ししたら、女だけだとちょっと物騒だ。真面目そうな青年に入ってもらうのはどうだ? って言うから、あたしたちはそれでもいいよって言ったの

ええ・・・

だから、気にしないで。

紗那絵さんがそう言うと、後の二人もうなづいて、

あたし、三浦さくら

あたしは島倉里穂、よろしくね

と自己紹介した。

練馬タカシです。趣味は、えっと・・・

三人は何? って顔をした。

YouTubeです。

ええ!? YouTube?

三人はうれしそうに笑った。

どんな、サイト見るの?

見るのは、色々見ますけど、実は僕、アップしてるんです。

何を?

動画をです。

ええ!? じゃ、君、YouTuber?

まあ、一応・・・

見せて?

僕は、PCを持ってきて電源を入れた。

いつぐらいからやってるの?

まだ、一か月ぐらいですかね

へえ、YouTubeにアップしてる人って、初めて見た。

あたしも

三人は興味を持ってくれた。

僕は、ちょっと得意になって、

これなんです。

と、僕の動画を見せた。

何、これ

朗読です。

朗読?

僕が書いた小説を、友達の女の子に朗読してもらったんです。

へえ、タカシ君が書いたの? 小説を?

はい。

すごいじゃない

や、すごくないんです。

何で?

僕は、再生回数と、登録者数を指さした。

再生回数51回

三人は笑った。

わ、笑わないでくださいよ・・・

ごめん、ごめん、でも、初めはみんな、こんなもんでしょ。でも、やっぱり、すごいよ、こんなの書けるんだもん

どうも。

すると、さくらさんが小さく言った。

ねえ、あたしたち、動画アップしてみない?

いいねえ、これ、再生回数とか増えるとお金はいるのよねえ

はい。基準があって、再生化数4000回、登録者数1000人が最低基準なんです。そこに行ったらYouTubeに連絡するとメールが来るらしいんです。憧れなんですよ。

やろうよ、やろう!

ビデオカメラありますよ、ほら

と、僕はカバンからカメラを出した。

いいじゃん。やろう!!

僕たちは盛り上がった。


なんか、盛り上がったら汗かいちゃったね

あたし、お風呂にお湯入れてくる。

里穂さんが立ち上がった。

ここのお風呂、檜風呂なのよ。

見せてもらいました。内見のとき。すごいですね。

あたしたち、いつも、一緒に入ってるの。

へ、へえ・・・

親睦を深めるために。

そう言うと、紗那絵さんはふふふと笑い、さくらさん、里穂さんも笑った。

紗那絵さんが席を立つと、笑いながら二人も檜風呂に向かった。

浴室で三人が服を脱いでいる気配が伝わってきた。

タカシ君も、入ってくる?

バカ、よしなさいよ・・・

紗那絵さんがからかうのを、さくらさんがたしなめている。

ねえってばあw

僕を呼ぶ声が、檜風呂の浴室から響いてきた。



           一件目 ハッピーYouTuber誕生 終わり

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ハッピーYoutuber 辰巳京介 @6675Tatsumi

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