81話 救援

「……こうなっていたか」


 死蟲の流出を未然で食い止めた<湖底の迷宮>から、再び霊峰チェカルの尾根を真横に縦断したサシャたち一行。


 今回は稜線まで登りきった瞬間に、否が応でもその先にある<赤の湿地迷宮>管理小屋の運命が分かってしまった。眼下に広がる谷筋の木々は瘴気に侵され、枝ばかりとなったその向こうに死蟲の行列が見え隠れしていたのである。


 それらは当然、管理小屋で抑えきれずに外に流出した奈落の先兵だ。

 そこにいたはずのユニオン職員やラビリンス採掘者たちがどうなったかは考えたくもない。ただ眼前の光景として、かなりの数の死蟲が外に溢れ出てきており、まるで川のように列をなして山裾へと進軍していっている――それが情け容赦のない現実。


「く、展開が早すぎる」

「まだ生存者がいるかもしれません! 話していたとおり、いったん二手に分かれましょう!」

「行こうヴィオラ、一気に駆け抜けるよ!」


 阿吽の呼吸でサシャとヴィオラが走り出す。

 この稜線に辿り着くまでの間に、彼らは考えられる事態を想定して対処を話し合っていたのだ。


 この<赤の湿地迷宮>がある谷筋は霊峰チェカルでも大きなもので、他のラビリンスも多数散在している。サシャたちが行くべき残る三ヶ所の未踏破ラビリンスも、<赤の湿地迷宮>から山頂に向けて鈴なりに連なっているような塩梅だ。


「イグナーツ殿、先に行くぞ! 野に下る死蟲の先頭を抑えられればそれに越したことはないからな!」

「異議なし! 深追いだけはご注意を!」


 シルヴィエとイグナーツはサシャたちとは別、谷筋に沿って山を下る方向へと即座に疾駆していく。


 つまりどういうことか。


 各ラビリンス管理小屋に居合わせた者たちが無事に先兵を石室に封じ込められていれば、もしくはサシャたち一行が間に合って、死蟲が氾濫する前に転移スフィアを破壊していければ、それはそれでいい。ただ、もしそうでなかった場合――




 未踏破ラビリンスが三つ連なるこの谷筋が、山麓へと向かう奈落の先兵の主要進撃路となりかねないのだ。




 そうなるとサシャたちには、重要きわまりない二つの課題が出てくることとなる。ひとつは奈落の手に落ちた転移スフィアを破壊して先兵の流出を止めること、もうひとつは可能な限りそれらの進軍を止めることだ。


「よりによって! ファルタまで行かせてなるものか!」

「シルヴィエ殿! 麓からは騎士団がこちらに向かっているはずだ! 先頭集団は彼らに任せ、我々は先兵の供給を止めることこそが本題!」


 もちろん流出した死蟲が、軍隊のような規律を持って山を下っていくとは限らない。てんでばらばらにこの霊峰チェカルに広がっていく可能性だってあった。その場合は各個殲滅していく必要があり、それはそれで面倒だと話してはいた。


 けれども、そんなサシャたちが一番恐れていたもの。


 それは、ザヴジェル側の防衛体制が整う前に、まとまった数の死蟲が鉄砲水のようにザヴジェル領内に押し寄せていくことだ。そして眼前の光景は、まさにその展開を示唆している。


「くっ、どこまで続いているのだ! 止むを得ん、ここまでと割り切る!」


 ただ、今であれば死蟲の流れはまだ細い。尾根の稜線を猛烈な速度で疾駆するシルヴィエならば、その先頭に回り込んで全てを食い止めることも可能かもしれない。そんな願望にも似た迷いに誘惑されつつも、彼女は意を決して鋭角に斜面を下りはじめた。


 イグナーツの言うとおり、彼女たち四人の一番の目的は、それら死蟲の流出源を潰すことなのだ。たった四人で全てをこなすのは無理。眼前の一の死蟲にこだわるよりは、今のうちにひとつでも多くの転移スフィアを破壊し、将来的な十の死蟲の流出を食い止めた方がいい。


「うわ、なんて数の死蟲が出てきちゃってるの!」

「サシャさま、ここの管理小屋だけではありません! 谷筋の上の方からも続々と追加が!」


 ここのラビリンス管理小屋にはサシャとヴィオラが急行している。サシャはまさに奈落の手に落ちた転移スフィアを滅するため、ヴィオラはその補佐と生存者がいた場合に対応するためだ。


 イグナーツはサシャの護衛としてそちらに行きたかったようだが、生存者に対応するには顔が売れていて権威も持っているヴィオラが最適だし、外で死蟲の流れをせき止めるにはイグナーツの神盾が大いに役に立つ。


 いったん二手には分かれたものの、四人はまさしくひとつのチームとして動いているのだ。


「邪な蟲どもめ! 片端から我が愛槍の錆にしてくれる!」


 猛烈な勢いで尾根を駆け降りるシルヴィエが外の班になったのはもちろん、その機動力を期待されてのこと。だがいくら彼女にケンタウロスの機動力があり、既に流出した死蟲を存分に追いかけられるとはいえ、シルヴィエひとりだけが突出して山を下ってしまう訳にはいかない。


 奥歯を噛み締めて中途で谷底へと吶喊するシルヴィエにとって、ここでやることはひとつだけだ。


「やああああ! そこを動くなあああああ!」


 連綿と続く死蟲の隊列の脇腹に、逆落としに斜面を駆け降りたシルヴィエがそのままの勢いで突っ込んだ。


 青い曳光を残して乱舞する神槍、響き渡る耳障りな死蟲の断末魔。


 まさに鎧袖一触の殲滅劇だ。瞬く間に死蟲の隊列を食い破り、ケンタウロスならではの強靭な馬脚で鋭く方向転換したシルヴィエが反対側から再度の突入を開始する。


 もはやその姿は<槍騎馬>を凌駕して、<怒れる戦女神>とでも呼び称えた方がいいのかもしれない。騎馬武者と等しい高所から振るわれる、神がかり的に冴えわたる怒涛の槍さばき。その前で生き残れる奈落の先兵は皆無だ。


 そうして獅子奮迅の働きをするシルヴィエの元に。



「剣に宿りし大いなる者の忘れ形見よッ、姿を転じて汝の子らの盾となれ――クリエイトシールドUbboSathlaッ!」



 外に溢れ出た死蟲対策を請け負ったもうひとり、イグナーツの錆びた声が谷底に響き渡った。


 同時に格子状の灰白色の壁が、シルヴィエのちょうど山下側に顕現していく。イグナーツが展開した、谷筋の大半をその上下に分断する大地神ゼーメの神盾だ。


「よし! この壁より上は徹底的に死蟲を叩きつつ遡行し、サシャたちに合流する!」

「この場の殲滅にこだわるなシルヴィエ殿! どうやらこの先兵の流れ、ひとつ上のラビリンスからの分も混じっているとヴィオラ殿の声が!」

「なに!」


 イグナーツからの情報に、シルヴィエの槍さばきが更に速くなった。


 事前のざっくりとした打ち合わせではこのような場合、サシャが転移スフィアを破壊して死蟲の流出を止め次第、次のラビリンス管理小屋を目指して谷筋沿いに進撃していく予定だった。


 溢れ出た死蟲をシルヴィエとイグナーツが追いかけて殲滅できる時間は、サシャたちが管理小屋から出てくるまで限定だ。それまでに粗方を片付けて合流しなければならない。最優先はもちろん先兵の流入源、奈落の手に落ちた転移スフィアを潰していくことなのだ。


「くそ、次から次へとキリがない!」

「助太刀する!」


 イグナーツが神盾で展開した壁の一部を剣に戻し、小剣として成型しなおしたそれを天に掲げて叫んだ。そして間髪を入れず、大混乱に陥っている死蟲の隊列に猛然と斬り込んでいく。


 イグナーツの本懐は、長大な神剣と樹人族ならではの長い腕を活用した豪快な剣術だ。けれど獲物が小剣となっても、その熟達の腕前は少しも陰りを見せない。


 通常の刀剣ならば弾かれてしまう死蟲の瘴気による護りも、彼の大地神の神剣ならば易々と斬り裂ける。普段よりも軽く取り回しが良くなった分だけ、むしろ小気味よく骸の山を築いていく。


「神盾を展開しながらだと! 器用な真似を!」

「奥の手だ! 長くはできぬ!」


 自らが奮戦しながらも上がったシルヴィエの感嘆の声に、暴風のように周囲の死蟲を切り刻みながら答えるイグナーツ。そして彼はじりじりと己が展開した神盾へと近づいていき――


「限界だ、解除するぞ! 壁向こうの死蟲はやはりもういない! こちらを無視して山裾に下ったと思われる!」

「やむなし! 我らもここに貼り付いてはいられない! 討ち漏らしは騎士団に託し、急ぎサシャたちに合流しよう!」

「我が意を得たり! だが出来る限り数は減らしていくぞ!」


 サシャたち一行の中にいつしか出来上がっていた阿吽の呼吸。

 二人は濁流を物ともせずに遡上する川魚のように、滔々と押し寄せる死蟲の軍列を蹴散らしながら猛烈な勢いで谷筋をさかのぼっていく。


 そんなイグナーツとシルヴィエが向かう先、<赤の湿地迷宮>管理小屋に飛び込んだサシャとヴィオラは――



 ◇



「うっひゃあ、酷い数だ!」

「――煌めく翠の女王よ、平等なる死をその糧とせよ! デスサイズTulzscha!」


 戸口から溢れ出る死蟲の大群を片端から屠りながら、どうにか管理小屋の屋内へと到達したサシャとヴィオラの二人。


 サシャが近づく死蟲を次々と蒼焔で燃え上がらせていく中、ヴィオラの放った緑白色に輝く死の大鎌が、文字どおりに屋内の活路を切り開いていく。


 そう。

 管理小屋の中は大量の死蟲で溢れかえっていたのだ。


「ありがとヴィオラ!」


 ヴィオラの詠唱を聞くなり素早く【ゾーン】を展開したサシャが、大量に流れ込んでくる青の力を全身に漲らせて屋内へと躍り込んだ。


 今のサシャにとって混戦はお手の物だ。【ゾーン】による精密かつ広範囲な空間把握で周囲の全てが"見えて"いるし、みなぎる青の力が多少の負傷なら即座に癒してもくれる。


「もう数だけいても敵じゃないよっ!」


 どんなに狭い活路でも、どんなに刹那の隙でも、それをこじ開けて青の双剣を雷撃のように叩き込んでいくサシャ。所狭しと密集した大量の死蟲の中を疾風のように突撃しながら、正面から右を一気に払い、左に突き、飛び上がりながら体を捻って背後の死蟲を斬り飛ばす。


 死蟲も必死の抵抗を見せ、死を恐れずに数に任せて猛攻を仕掛けてくるが、その大顎も体当たりもサシャにしてみれば既に見切っているも同然。


 あっという間にサシャの周囲は燃え盛る蒼い焔で包まれ、その焔の範囲は奥へ奥へと急速に進んでいく。


「――サシャさま、奥の事務室に何人か立て籠もっているようです! 声がしました!」

「さすがヴィオラ! ちょっとその人たちを守ってて! すぐにスフィアを壊してくるから!」


 轟々と燃え盛る蒼焔の奥から、サシャがヴィオラに叫び返す。ヴィオラは今のサシャへの手助けは却って邪魔になると、単身で管理小屋内部の生存者探しに向かっていたのだ。


「はい! サシャさまもどうぞ気をつけて!」


 管理小屋のロビーの中、サシャが進撃していくその後ろは一面の蒼焔に包まれている。死蟲らはまるで仇敵に出会ったかのように全てがサシャへと突進していき、片端から返り討ちにされているのだ。


「――ザヴジェル本家のヴィオラ=ザヴジェルです! 救援に来ました、ここを開けてください!」


 ヴィオラは素早く状況を見てとり、カウンター奥の扉に大声で呼びかけた。サシャのお陰で概ねの安全は確保できている。今が好機だった。


「……ヴィオラ姫だと!?」

「南領境で奈落相手に大活躍したっていう英雄じゃないか! 助かったぞ俺たち!」

「今開けます! 念のため扉から離れていてください!」


 歓喜の叫びと共に扉の向こうから重い何かを引きずるような音がし、次いで斧のようなもので扉自体が叩き壊されていく。


 どうやら土魔法で密閉もされていたらしく――ヴィオラは僅かに眉をひそめた。

 先ほどの<偽りの迷宮>のようにスフィアの石室の扉を塞ぐというアイデアは出なかったのか、思いついたけれどもあまりの死蟲の勢いに間に合わなかったのか。


 けれども、土魔法でこの扉を強化したお陰で、彼らは生き延びられたのかもしれない。

 それに魔法使いがいるならいるで、この先手伝ってもらえることもある。サシャがスフィアを青き聖光で滅した後、念のために石室を塞いでもらえるのだ。


「おわっ、何だこれ」

「かかか火事だ――」

「皆さん落ち着いて! この青い炎は邪なものだけを浄化する天空神クラールの聖なる炎です! この場は安全ですから!」


 事務室から出てくるなり、やや下火になったとはいえそこら中で燃え盛る蒼焔に後ずさった生存者たち。ヴィオラは慌てて端的ながらも説明をし、確かに熱気がまるで感じられないこともあってか、生存者たちの冷静さを少しは取り戻せたようだ。


「せ、聖なる炎だって?」

「そうです。帰還した天人族のさらわれ子、<救世の使徒>さまのことはお耳に届いていませんか? その御方が今、奈落の手に落ちかけたこのラビリンスを聖なる力で浄化しているところなのです」

「……す、すげえ」


 ヴィオラは自らの固く信じるところを述べただけだが、一般のハンターやディガーと思しき生存者の面々には衝撃だったようだ。蒼い焔に焼き尽くされていく死蟲の群れを、全員が揃って目を丸くして見つめている。


 と、そこに。

 ヴィオラの背後、転移スフィアの石室の方から更に鮮烈な青光がロビーに迸った。


「うおっ、今度は何だ!?」

「あ、きっと今の光は――」


 ヴィオラにはそれだけで分かった。

 サシャがその無尽蔵としか思えない神力を使い、奈落に上書きされたスフィアを早々に滅したのだ。一人で大丈夫だとは分かっていたが、それでも圧倒的な存在だと再認識せざるを得ない。


「……さすがはサシャさま、天空神クラールの寵愛を一身に受ける御方。奈落の先兵を吐き出していた、奈落の手に落ちた転移スフィアが滅せられたのでしょう」

「や、やっぱりとんでもねえな天人族ってのは」

「若き天人族の英雄が帰還したって噂は聞いていたけどよ、ここまでだったとは……。まさに奈落に狙われた、今のザヴジェルに遣わされたような存在じゃねえか」

「ふふふ、神は我らがザヴジェルをお見捨てになってはいないのですよ? それはそうと、皆さまの中に土魔法を使える方がいらっしゃるのではないですか? 念のためにひとつお手伝いいただきたいことが――」


 ヴィオラが念のためにスフィアの石室を土魔法で封じておくよう生存者たちに依頼していると、そこに石室内の全ての奈落の痕跡を焼き尽くしたサシャが小走りで戻ってきた。


「ヴィオラ大丈夫だった!? あ、こんなにあの死蟲の中を生き延びられたんだね、すごい! 怪我を癒しちゃうね、ちょっと失礼――」


 ひと息に喋りながら、次々と生存者たちに触れて癒しを贈っていくサシャ。その手が触れた者が立て続けに癒しの聖光に包まれ、最後にヴィオラが青く光ったところでハタと首を傾げた。


「あれ? ええと……?」


 なんだか、場の雰囲気がおかしいのである。

 癒しの青光に驚くでもなく、その効果に喜ぶでもなく。


 以前農村をまわっていた時によく見かけていた、初めてサシャの癒しを受けた人が普通に示す反応が一切ない。


 代わりにあるのは、神に対するが如く敬虔に謝意を連ねはじめたヴィオラと。そして、それを鵜呑みにして自分をまざまざと見つめてくる、十対を超えるハンターやディガーの熱い視線だった。


 ――さ、さてはヴィオラ。


 サシャがうっすらと経緯を察するが、すでに遅い。

 おそらく、というよりほぼ間違いなく、この人たちはヴィオラの神さま理論に巻き込まれたに相違ない。


 が、とにかく今は時間が惜しい。

 こうしている間にも他のラビリンスで死蟲が続々と溢れでているだろうし、そこにいるかもしれない生存者たちの命は刻一刻と脅かされているのだ。


 ――あ、あとでシルヴィエに説明して貰えばなんやかやで上手く誤解も解ける……よね?


 サシャが出した結論は、深入りせずにこの場を流すこと。それどころではないのは事実だし、ヴィオラの神さま理論のお陰で、自らの種族ヴラヌスにまつわるかなりの部分を曖昧に誤魔化せているのもまた事実なのだ。


「さ、さてと。時間もないから次に行こう!」

「はいっ! では皆さま、説明したように石室は封じておいてくださいね。騎士団への派兵要請は済んでいます。彼らが到着するまでのこの場の警戒と、到着後には詳細の報告をお願いしてもいいですか?」

「お安い御用だ、それぐらい任せてくれ! 姫様と使徒様はこれから他のラビリンスを回るんだろう? 俺たちの感謝と敬愛をあんた達二人に捧げさせてくれ――”全てを見守るクラールの静かな護りが貴方がたにありますように”」

「全てを見守るクラールの静かな護りが貴方がたにありますように」


 リーダー格のハンターが口にした祈りの言葉を、残りの生存者たちが声を合わせて復唱した。ヴラヌスの成体であるクラールがその祈りを聞いているかは別として、そこに込められた気持ちは心からのものである。


 自分たちの急場を救ってくれた二人への感謝と、他のラビリンスで危地に陥っているであろう同業者たちも同様に助かって欲しいという願い、唐突にザヴジェルに牙を剥いた奈落への危機感。


 それらが渾然一体となって、サシャとヴィオラの成功と安全への祈りとなり、まるで彼らから本当に力ある祝福を受けたかのような心持ちにサシャはなっていた。


 いや、【ゾーン】で吸収するものとはまた違う種類の、心の底が震えるような力を確かにもらったのだ。


「……ありがとう。行ってくるね」


 サシャは右肘を胸の高さに上げ、拳で左胸を叩いてから彼らに別れを告げた。ひとつ覚えではあるが、心からのザヴジェル式の敬礼だ。


「行こう、ヴィオラ」

「はい、サシャさま」


 無残に荒れ果てた管理小屋から、顎を引き締めて足早に外に戻る二人。彼らの行く手にはまだ二つの未踏破ラビリンスを残している。エリシュカのメモによるとその二つは隣接しているらしいのだが、全てが同タイミングで進行しているならば、そこに到着する頃にはどうなっているか考えるのも怖い。


 けれども。


 外に出て、思わず呆然と霊峰チェカルを見上げる二人の視界に映るもの。それは――




 おびただしい数の死蟲。




 土煙を上げる死蟲の奔流がチェカルの雄大な谷筋に沿って、緋色の土石流さながらに押し寄せてきている光景だった。



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