黄色い通学路

すでおに

黄色い通学路

 小学生の頃、自分と違う色の通学帽は、邪に見えた。隣の小学校とか遠足の時に見かけた紺やえんじの帽子。


 僕の通っていた小学校は定番の黄色だったから、違う色はヒーローごっこで脇役をするような、どこか押し付けられた残り物のように見えた。向こうには、こっちが邪に見えていのだろうか。



 小学3年の放課後、友達と3人で歩いていた。ランドセルを背負って、通学帽を被って、いつもの帰り道。


 僕は道端にBB弾が落ちているのを見つけた。空気銃で打つ、靴紐の穴ほどの小さい黄色のその弾を僕は拾い上げた。何の気なしに。石ころを蹴飛ばすように。


 拾ったものの目的があるわけでなく、結局持て余し、空に放り投げた。放り捨てたと言う方が正しい。


 突然、そばにいた、まだ小学校に入る前ぐらいの女の子が泣き出した。それまでは存在すら気づいていなかった小さな子がしゃがんで泣いている。


 一瞬意味が分からなかったけれど、すぐに飲み込めた。僕の投げた弾が当たってしまったのだ。小さな弾だし、狙って投げたわけではないし、狙ったとして命中しないし、命中したとして小さな子供でも痛いわけはないけれど、たぶん顔に当たって、びっくりして泣いたのだろう。


 すると、目の前にある家から、男の子が飛び出して来た。僕らと同じ小学校の1つ上。体は僕らより小さいし、多分勉強もスポーツも出来ない、前髪が目にかかった目立たないタイプ。家は戸建てだけど古びていて、裕福でもなさそう。


 その男の子は僕らところに来て言った。


「お前ら俺の妹泣かせただろ?」


 向こうも僕らのことは知っているはず。1つ下とはいえ3人いるのに、少しも臆することはなかった。


 一緒にいた二人の友達は事態を飲み込めていない。当然だ。でも僕には心当たりがあった。


「一発ずつ叩かせろ」


 と彼は言った。


 友達はますます顔をしかめたが、僕には心当たりがある。


「とりあえず言う通りにしておこう」


 なんか言ってるけどさっさとすませよう、僕はそう言う素振りで二人をなだめた。


 彼は並んだ僕らの頭を平手で一度ずつ叩いた。乾いた音が3度鳴った。音はしたけど痛くはなかった。


 彼は


「お兄ちゃんがこらしめてやったからな。これでお前も許してやれよ」


 そう言うと妹の手を引いて家に帰って行った。


 意味が分からず叩かれた二人も不満を言うでもなく、また元通りに歩き始めた。


 黄色い標識が見守る、いつもの通学路。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄色い通学路 すでおに @sudeoni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ