桃源女学園からの招待状
辰巳京介
二通目、桃源祭
主な登場人物
小竹(こたけ)ナツナ(18)
桃源女学園高等部3年。男子嫌いのため共学から3年の秋に編入してくる。「招待状」の意味を知らず、練馬タカシに招待状を渡してしてしまう。
石神井(しゃくじい)百合子(ゆりこ)(18)
桃源女学園高等部のナツナの友達。父親は桃源物産社員。幼稚舎から桃源学園に通う生粋の桃源っ子。
練馬タカシ(21)
私立修学院大学4年。活動に苦労をしている。空手同好会。あれこれ考えすぎてしまう性格で彼女ができない。
江古田大輔(21)
私立修学院大学のタカシの友達。空手同好会。さっぱりした性格。
石神井ミホ(20)
桃源女学園短期大学2年。百合子の姉。小学校からの生粋の桃源っ子。
千葉ユミ(20)
桃源女学園短期大学2年。ミホの友達、内部生。
1.
そして、今日がその桃源祭である。
タカシと大輔は、招待状を握りしめ地図の示す桃源女学園へと向かった。
「ここだ」
大学はA県の郊外にあった。
正門には地味な字柄で「桃源祭」と書かれた派手な看板が立てかけられていて、外からだけでも女子大の学園祭独特の華やかな空気が伝わってきた。
二人は正門の前に立った。
「電話、してみろよ」
「ん」
大輔に言われ、タカシがナツナの携帯に電話をかける。
数人の人たちの集団がこっちへ向かってやってきた。タカシ達と同じような学生風の男子が数名ほどがいた。皆、そこそこイケメンで招待状を持っていた。
「はい」
タカシの鳴らした携帯にすぐ声がして、ナツナが出た。
「あ、ええと」
タカシがもたもたしてると、大輔が電話を取り上げ、
「あの、招待状もらった者なんだけど・・・」
「今、行きます」
受話器からナツナの声がし、ほどなくすると、正門の横の小さなドアが開き、ナツナが姿を現した。
「どうぞ」
ナツナは少し恥ずかしそうにタカシの手を取ると2人を構内に迎えた。
すると、
「桃源女学園へようこそ!」
タカシたちを取り囲むように、女子高生たちが大きな声を上げた。ナツナもようやく笑顔を見せた。
「桃源女学園へようこそ、大輔さん?」
「そう。君は?」
「百合子よ。河原で会ったでしょ?」
「うん・・・」
百合子は大輔の腕を取り、歩き出す。
「こっちよ」
タカシと大輔は二人と一緒に中庭へ入っていった。
大輔は、隣で歩いている小柄でかわいい顔立ちの百合子を一秒で気に入った。そして、昔誰かから聞いた噂を思い出していた。
桃源女学園の女子は学園祭の期間に恋人を探すらしい。噂では、その日のうちに女子寮の一室で恋人同士になれるらしい・・・。
もしかしたらこの美少女と今日Hできるかもしれない! 大輔は、妄想しゴクリと唾をのんだ。
「盛大なんだね」
大輔は少し緊張して百合子に聞いてみる。
「すごく長い伝統があるのよ」
百合子はにこっと笑う。
かわいい・・・、大輔はこれからのことを考えずにはいられない。
タカシは、さっきからナツナと目を合わさずに空ばかり見て、ナツナはちょっと話のきっかけをつかめなかった。
タカシは長身でイケメンなのだが、どこかナイーブで性格的に明るい方ではない。いつも何か考え事をしているようで、女子が壁を作ってしまうのだ。
タカシは、相変わらず大した会話もないままにぎやかな学園祭の雰囲気の中歩き続けた。
ナツナにしてみれば、知らなかったとはいえタカシに『招待状』を渡したことを、百合子ほどではないにしろ一つの運命として位置づけ、タカシにほんの少しでも好きになれるところがあるか、タカシが自分に好意を示しやさしくしてくれるか、あるいは強引に迫られるかしたらタカシを自分の最初の恋人にしようと思っていた。
だが、ナツナがそう言う気持ちでタカシを見ても、タカシは空ばかり眺めている。
タカシは、ちょっとひ弱な体型だが整った顔立ちで背も高くルックスとしてはいい方だ。問題はその性格というかたたずまいだった。
タカシにしてみると、大輔に誘われたから来ただけで、不採用通知を連発で頂いた身としては、気持ち的に落ち込み、女の子どうのと言う気にはなれない、というののが正直な気持ちで、それはそれで仕方がなかった。
「四年生なんですね、就職活動とかしてるの?」
「うん」
「どんな感じ?」
「まあ・・・」
ナツナは会話がないばかりに、一番してはいけない話題を選んでしまう。
「あの日」
「ん?」
「君が、この招待状くれた日」
「ああ」
「四通目の不採用通知もらったんだ」
タカシは、そう言ってまた空を見た。
「そ、そうなんだ」
ナツナはこの雰囲気を作ったのは自分?と少し後悔する。
2
第一印象で大輔を気に入った百合子は、目と目が合うたびに笑顔になる。大輔は持ち前の容量の良さと積極さで、すでに内定をもらい、彼女を作りたいと思っていた矢先だったので、目の前のかわいい子の手を自然と握ることができた。
百合子は、早く「儀式」を始めたい、と考えていたが、流石に女の子の方から「Hしませんか」と切り出すのには抵抗があったのだが、大輔が自分の手を握ってくれたことで思い切って話してみることにした。
「あのね」
「ん?」
「これから話すことで、引かないでね」
「何?」
「うちの高校ね、校則があるの」
「うん。校則?」
「私たち桃源女学園の女子生徒は、十八歳を過ぎてバージンでいちゃいけないの」
「え?」
「そういう校則なの」
そう言って百合子は顔を赤くした。
「あーもうなんでこんな校則なんだろ」
大輔は思わず百合子の胸のふくらみに目をやる。細いウエストの上に、不釣合いのようにヴォリュームのあるバストが乗っている。
「でね」
と、百合子は続ける。
「あたし、まだバージンなの」
「そ、そお。それじゃあ、そのぉ・・・校則違反ってこと、だねえ」
大輔はうろたえて、変な相槌を打った。
「今日会ったばかりでこんなこと頼むのは非常識ってわかってるんだけど・・・」
大輔は、ごくりと唾をのむ。
「頼みごと、聞いてくれる?」
大輔は、うんうんと二度うなずいた。
「いやいや、遠慮しないで。百合子ちゃんの頼みなら、俺にできることならなんでもするかた、言って」
「ほんと?」
百合子は大輔の顔を見上げた。
「大輔君」
「はい」
「私の、最初の恋人になってください」
「は、はい」
百合子は、そう言うと大輔の腕にしがみつく。
百合子の胸が大輔の腕に当たった。
「じゃあ、行きましょ?」
「どこに?」
「いいとこ。あ、ナツナに連絡しなきゃ。あ、ナツナ今どこ? そ、じゃ寮にいるね」
「寮? え、女子寮? や、まずいでしょ」
「大丈夫なの、うちの女子寮、男子禁制じゃなくて、男子歓迎なの」
そう言って百合子はくすっと笑った。
桃源女学園の女子寮は短大、高等部などと併設されている。百合子と大輔は銀杏並木の中を寮へと向かって歩いた。
「でも、何でそんな校則あるのかなあ、十八歳を過ぎてヴァージンじゃだめって」
「女の子の体にはね、セックスが必要なんだって」
「そ、そうなの?」
「うん。ある年齢に達したら、セックスしてる方が肉体的にも精神的にも健康になるんだって」
「そうなんだ・・・」
「うん」
そう答えると、百合子は少しまじめな口調で話し出した。
「今は、男の子がみんな草食系でおとなしいから、女の子方から誘わないと、女子はみんなヴァージンのままだって。後ね、二十歳ぐらいのときにセックスしてない女の人の中にはね、一生セックスが好きになれない人もいるんだって」
「へえ・・・、でもそれ誰が言ったの?」
「うちのグループの理事長よ、狭山初子さん。すごいやり手なのよ」
大輔が感心しているうちに、二人は女子寮の前へ着いた。
「どうぞ」
百合子は再び大輔の腕を組み、大輔を寮の中へと導いた。
玄関のソファにナツナと大輔が決まづそうな顔をして座っていた。
女子寮は古い建物で薄暗かったが、どこかヨーロッパ調の雰囲気のある造りだった。
「ここはドイツの寄宿舎をモデルにして建てられているの。お風呂がおっきくて大勢で入れるのよ。ドイツの女の人って友達なら男性ともサウナ入るらしいわ」
「友達の男子と混浴!?」
大輔は、大勢の女の子たちが裸になっている光景を想像して興奮した。
「行ってみよっか、誰か入ってるかな」
百合子は大輔の手を取り速足で歩きだした。
「ちょっと待ってよぉ」
ナツナは半泣きで二人の後を追った。
タカシは言葉も出ない。
浴室は大理石のローマ風呂で、ライオンの口からお湯が出ていた。
「誰も入ってないわ」
「いいの? こんなとこ俺が来て」
「入ろっか」
「ええ!」
「入ろっか、一緒に」
「・・・」
「うちはね、今でもパパとママと私と三人でお風呂いくのよ?」
「へえ・・・」
百合子はそう言うと、ちょっとはずかしいと言いながら下着を脱いだ。
裸の二人は手をつないで湯船に向かうとシャワーをお互いの体にかけてから湯船に入る。
「あれ、誰か入ってきた、誰かな? あ、お姉ちゃん」
姉のミホが千葉ユミと小さなタオル一つで入ってきた。
「百合子じゃない。あれ? 隣にいるのは?」
「大輔さん。あと、ナツナの彼氏のタカシさん」
大輔が、照れくさそうに振り向いて、ぺこりと頭を下げる。
タカシは思わず股間手で隠した。
「二人とも、彼氏作ったんだ、よかったね」
6人は広い湯船につかった。
「あ、あのう」
タカシがおどおどと聞いた。
「ん?」
「いいんですかね、自分ら、こんなことして」
「いいのよ、うちの学校では、っていうより桃源グループではこれが普通なの。それより、ナツナちゃんのことかわいがってあげてね」
「は、はい」
「百合子を気持ちよくさせてあげなよ?」
ユミがそういうと、大輔のあそこにちょんと触れた。
「ちょっと、ユミ!」
「うそうそ」
ユミはそう言うと、笑いながら湯船を出た。
「ごめんね」
百合子が申し訳なさそうな顔をした。
「いや・・・」
「でよっか。体洗ってあげるね」
「まじ!?」
「タカシさんは、どんな仕事、したいの?」
「人のためになる仕事」
「へえ」
ナツナは、ちょっと感心する。
「お金のためじゃなく、やりがいのある仕事がしたいんだ」
ナツナはタカシを少し見直した。
「どんな子が好き?」
「・・・ショーヘアで、かわいい子、かな」
ショートヘアのナツナはちょっとうれしかった。
出よっ
百合子が言った。
うん
ナツナも、もう決意が出来ていた。
女子寮を出た4人は、紅葉の始まった銀杏の木に近づいた。
「きれい。もう紅葉が始まってる」
と、百合子が葉に触れた。
タカシは大人になった気がしていた。
2通目 桃源祭 終わり
桃源女学園からの招待状 辰巳京介 @6675Tatsumi
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