飼っていたカブトムシを死なせてしまった男の人のお話。
あからさまに不穏なタイトルと、そしてどこかドライな日常の描写。その期待のさせ方というか暗示のさじ加減というか、この静かな盛り上げ方が印象的でした。
序盤から中盤、別にまだ何も起こってないはずなのに、なぜか水面下に恐ろしいことが迫ってきているような。
若干ネタバレ気味になるかもしれませんが、終盤手前くらいのミスリードが好きです。主人公の『疾しい思考』。あるいは、そこに持っていくまでの流れ。どこか乾いた手触りのある主人公の主観が、でも少しずつ生っぽい湿度を帯びてくる、その誘導が自然でまんまと乗せられました。
疑い始めると何もかもが伏線に見えてくる、そんな疑心暗鬼を煽られるのが楽しい作品でした。