フロイライン・モーツァルト
@snp
プロローグ
1719年、アウクスブルグで一人の男の子が誕生した。
彼につけられた名前はレオポルト。
父親は製本師であった。
レオポルトは哲学と法律を学ぶべく大学に入学したが、音楽好きが高じて、大学を除籍されてしまう。
しかしながら、生来の生真面目さからか、音楽に対して勤勉であった彼は楽師として貴族に召し抱えられ、音楽家としての道を歩み始める。
実際のところ、楽師としての才能よりも音楽の指導者としてのほうが評価されることになるのだが、それは後のことである。
事実、彼が出版したヴァイオリンの指導教本はヴァイオリンを学ぶものにも指導するものにも長く愛され、良質の指導書として知られていた。
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトが生まれる素地は知らずと用意されていたのである。。
1747年、レオポルトは、アンナ・マリア・ベルトゥルと結婚した。
愛する女性と家庭を持ったとはいえ、決して楽な暮らしではなかった。
しかし、レオポルトにとってこの結婚は、非常に彼を満足させるものであった。
家庭以外の場面で自分が何かを取り仕切ることの少なかった彼は、「家庭」という小さな社会を取り仕切ることに喜びを見出したのである。
妻の、アンナにとってこのことが幸せなことだったのかどうかはわからないが、いずれにせよ、「家庭」という小さな社会において、彼は紛れもない支配者であった。
1748~1756年の10年足らずの間に、レオポルトとアンナは三人の息子と四人の娘を授かったものの、1751年に生まれた三人目の娘マリア・アンナと三人目の息子で末っ子のウォルフガング・アマデウスの二人しか成人しなかった。
しかし、生き残った二人の子供たちは、レオポルトの支配欲や虚栄心を大いに満足させるべく成長したのである。
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