勇者の裏切り〜なぜか魔王と恋することになりました!?〜

空月 若葉

第1話 勇者誕生!

ドサっという音と共に、私はこの世界に放り出された。

「イタタ…え、何?」

あたりを見て、私は絶望した。ああ、これが最近の小説によく出てくる異世界転移なのかと。もう、戻れないのかも、と。

「よくきたな女勇者よ。」

王座らしきものに座った人物が私に話しかける。女勇者…私は勇者なのか?何度周りを見渡しても、この世界以外の人らしき人物は見渡らない。…やっぱり、私のことか。

「うちに返してください。」

私はさっきまで、自分の家で寝ていたはずなのに。気がついたら、ここに…。

「お前にはこの世界の魔王を倒してほしいのだ。」

上から目線なその態度に、嫌悪感を覚えた私。

「名を申せ。」

自己紹介でさえ、したく無いと感じる。

「…松長命(まつながみこと)。」

「ふむ。ミコトよ、年は?」

いきなり名前を呼ぶのかよ…と、顔に出そうになったが、顔に出してはいけない。相手は王様なのだ。

「…昨日で20になりました。」

答えながら、よろよろと立ち上がる。

パジャマじゃなく、スーツのまま寝てしまっていたことがせめてもの救いか。パジャマ姿なんて見られたく無いもの。

「ミコトよ、お前には旅に出てもらう。仲間もつけよう。そして、魔王を倒すのだ。」

さあ、今すぐにでもという王様に、私はストップをかけた。

「…見返りは?家に返してくれるのですか?」

「なっ、お前、無礼な!」

王様の家臣らしき人が、私の腕をガシッと掴んだ。その家臣を、王様がまあまあとなだめる。

「ミコトも、急にこの世界に連れてこられて混乱しているのさ。ミコト、落ち着いておくれ。」

落ち着く?落ち着いているつもりだ。でなければ泣き喚いているところだ。

王様は続けた。

「さあ、落ち着いたなら早く行くがいい。」

かなり不機嫌なようだ。ドンドンと、大きな音を立てて椅子を叩いている。

これは、家には返してもらえなさそうだ。ぷつんと、何かが切れてしまった気がした。案外、私は切れやすいのだ。友達からも、よくそう言われた。友達…家族。ああ、もう二度と会えないのかな?

「ミコト?どうしたのだ?」

王様が威圧を隠せないまま私に声をかけた。私はバレないくらいの小さなため息を、はあ、とつき、にっこりとわらった。

「はい、王様。私は旅に出ますが、どうか仲間はつけない出ていただきたいのです。」

私が急に笑ったからか、王様は少し驚きながら

「ほう?なぜだ?」

と言った。私は微笑みながら答えた。

「足手まといだからです。」

その場にいた全員が、私を見た。さすが勇者という声も聞こえてくる。

「そうか。それなら異論はないな。ゆけ、勇者よ。」

「はい、王様。」

私は王の間をで、メイドさんから旅に必要なものを受け取り、歩き出した。

魔王を倒す?どうして私がそんなことしなくちゃいけないの?街を見渡す限り、魔物が蔓延っている様子はない。それに、さっきメイドさんに聞いたのだけれど。

「魔王って、人間を殺すの?」

私の問いに、メイドさんは首を傾げながらいいえ?と答えた。つまり、王様は邪魔だから魔王を消したいと思っているだけらしい。多分だから、もう少し調べなくちゃいけないけど。

それが本当だと分かったら、私のすることは一つ。

魔王を手を組んで、人間の王に復讐だ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る