母になるということ
世間はいつだって女に厳しい。
ある程度の年齢になれば、マダケッコンシナイノ?と言うし、
結婚したらしたでイツコドモウムノ?なんて冷やかすし、
妊娠を告げれば困ると言われるケースだって珍しくない。
結婚もしていて、子供がよく話すようになると
ヒトリッコッテサミシイヨなんて、二人目の催促までする。
お前が産むんじゃなかろうが。
それと同時にあまりに幼いうちから保育園に預けようものなら、カワイソウだのイマガイチバンカワイイノニだの容赦ない。
私だって、母性と優しさで溢れたお母さんになろうとした。
それが世間が望んだから。
だけどなれなかった。
子供が泣けば一緒になって泣いて、狼狽えた。
私は母にはなれない。
いつからだろう。
妊娠し、仕事も続けながら父を介護しながら、出産の日を迎え、次第に化粧をしなくなった。
どんどん減っていく口紅を見て、今日は大事な日じゃないからと近所のドラッグストアで買った口紅で過ごすうちに鏡を見る頻度が減った。
似た色を買っても気分が違う。色が違う。落ちやすい。
挙げ句、寝れない夜に色んな色の口紅を砕いて混ぜてみた。
売り物みたいなちゃんとした形にもなったけど
私が思う「あの口紅」ではなかった。
昼間に子連れで店に行く勇気はなかった。
夫が休みの日に娘を預けてまであの口紅を買いに行くのも躊躇った。
母親になったのに、あの口紅じゃないと、なんて夫には言えなかった。
物分りがいい振りをして、残り僅かだったあの口紅をしまい込んだ。
それから何年かして、夫が私に言った。
「最近化粧しないよね。」
深い意味はなかったのだろうが私は傷ついた。
口紅を買う時間もない。
子供と出かける準備をしながら、なれないと確信した母親らしい化粧をしないといけない。
朝からそんなことを毎日続けたら気が狂いそうだ。
「それに太ったし。結婚式の時はあんなに可愛かったのに。」
それは私が一番分かってる。
母になっても綺麗な人は勿論いる。
でもそれが望みなら助けてよ。
貴方は毎日一人で仕事へ出掛けて
一人で帰ってくるけど。私は違うのよ。
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