第13話 イケメンにもツンデレってあるのかな?
「クリン馬車に風をまとわせろ」
『あいでちゅ!』
クリンはビィティが高速移動した時と同じように風で馬車を包む。馬車はクリンの風に後押しされ、風が空気の
「俺たち助かったのか?」
御者席で馬車を操車するヴィックスがビィティに確認するように聞く。
「ああ、大丈夫だ追っ手は来てない」
危機を脱したようだと言うビィティの言葉に彼はホッと息を吐き肩の荷を下ろす。
「安心するのは早いぞ、まだやつらのテリトリーだろうからな」
「わかってるよ。と言うか僕も貴族の子弟なんだから、ちゃんと敬語使えよな」
「そうなのか? 申し訳ないです」
ビィティは大袈裟に腕を前に持ってきてヴィックスに礼をする。
「まあ良いけどさ。僕たちは、と、友達だしな」
ビィティはわざとらしく周囲警戒をして話を聞いてないふりをする。実際、宿屋で襲撃されたようにクリンがすぐに気がつけない場合もある警戒は怠れないのだ。
「なんか言ったか?」
「ったく。……僕はさ、お前に嫉妬してるんだよ」
「なんだ藪から棒に」
急に嫉妬と言われても、お前はイケメンで貴族でどこに俺に嫉妬する要素があるんだとビィティは困惑する。
「お前さ、僕と年齢はそれほど変わらないだろ? それなのにあんなに強くてさ。僕だって剣術の稽古を毎日死に物狂いでしてたんだ。だけど。……戦えなかった」
一度目も二度目も泣いて震えてたヴィックスをビィティは特に恥ずかしい行為だとは思ってたなかったので、貴族の坊っちゃんにも悩みはあるんだなと最初の頃よりも親しみ易いかなと。
「べつに気にすること無いんじゃないか? 相手は俺たちよりはるかに大きい大人だし。盗賊なんて人殺しが当たり前にいる連中だろ? 怯えるなって方が無理な話だよ」
「……お前は怯えてなかったろ、さっきも盗賊に殴りかかってたし」
「うん、頑張った!」
「プハハハ、なんだよそれ」
元気いっぱいに言うビィティのその一言にヴィックスは腹を抱えて笑うので馬が驚き馬車がおかしな挙動をして揺れる。
「おい、ちゃんと操車しろヴィックス!」
後ろの席からメルリィが荒い運転をするヴィックスを叱る。
「ああ、すまない」
ヴィックスはビィティの方に顔を向けなるで女の子のように舌を出して怒られちゃったと言う顔をする。
将来イケメン確定の可愛い顔は何をしても可愛いのだ。
「ま、まあさ、それが心理なんじゃないか? 人なんて言うのはそれほど能力に差がない、どれだけ頑張ったかが重要なんだよ。今日が駄目だったら明日頑張れば良いし。明日も駄目なら明後日頑張ればいい。頑張ってたら、いつか駄目じゃないときが来るよ」
「来なかったら?」
ネガティブな思考に陥ると言葉は心に届かない、だからビィティは行動で示した。
「駄目なのに頑張った俺スゲーで良いじゃん。そんときは俺が誉めてやるよ」
そう言うとビィティはヴィックスの頭を撫でたのだ。
「そうか。……そうだな。なんか吹っ切れたよ。ありがとう」
「はい、気にしなくて良いでございますよ」
ビィティは腕を前に置きヴィックスに向かい軽く会釈する。
「敬語は使わなくて良いよ。それにお前の敬語なんかムカつくし」
ヴィックスは頬をリスのように膨らませてビィティの敬語に怒った。
こいつ以外とかわいい奴だなとビィティがニヤニヤしていると、ヴィックスが肘鉄をビィティに喰らわして「なんでニヤケてんだよ」と不快感を示す。
「まあ、敬語使うなと言うのはありがたいけど。あとで気安いとか怒るなよ?」
「怒らないよ、と、友達だろ?」
ヴィックスは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。もちろん危ないのでビィティはヴィックスの顔を正面に向かせて、よそ見運転は危ないと空気を読めない発言をする。
「お前、名前何て言うんだよ」
ヴィックスがビィティを覗き込むように言う。そう言えば気絶してるときに自己紹介してるからヴィックスは自分の名前、偽名だけど知らないのかとメルリィにみっともなく担がれ馬車に投げ捨てられた姿を思いだしビィティはクスリと笑う。
「だからなんで笑うんだよ。名前聞いただけで笑うこと無いだろ」
「ああ、すまない思い出し笑いだ。俺の名前はアルバだ、よろしくなヴィックス」
友達だと言う人に偽名を言ったとき、ビィティの胸がチクリと痛んだ。
「だけど王都でタメ口を聞くと罰せられるからな、気を付けておけよ、俺が良いと言っても許されない世界だから。二人きりの時は構わないけどな」
「二人きりになることなんかないだろ?」
「いやあるだろ? 無ければ作るよ」
まだ逃げ切れたわけでもないのに、もう王都の話をしてる呑気なヴィックスにビィティは呆れるが、 逆に何事もなく逃げ切れるような気がした。
案外、楽天的な方が人生が開けるのかもしれないなとビィティはヴィックスの背中をパシリと叩く。
「まあいいけど、俺は伯爵家未満の子弟は友達にならんからな」
ビィティがいかにもおチャラけてそう言うとヴィックスは自慢げに「ふふん、それなら問題ない、うちの家は由緒正しい伯爵家だ」と言ってお前はもう俺から逃げられないぞと指をさした。
「そうなのでございますか!」
ビィティはお代官様にお辞儀する平民のように狭い椅子の上に正座をしてヴィックスに頭を下げる。
「……殴るぞ」
「冗談だよ冗談」
ビィティは起き上がると今のは冗談なんだから怒るなよと手をシッシッと振った。
「でもヴィックスが伯爵家だとするとメルリィもそれなりに高い地位の家柄なのか?」
「いや、あいつは平民だよ」
「そうなのか? デオゼラの態度から貴族かと思ったんだが」
ヴィックスの話では貴族の従者は騎士と名誉男爵の地位を与えられるのだと言う。
これは学園を卒業するまでは従者は未成年の者がなるので、主人を守る上で爵位が無いと色々と不便なことから特別に与えられる称号なのだ。
「ただ、あいつはかなり高貴な家の出だと思う」
ヴィックスがそう思う理由を聞くと、メルリィはあらゆる知識に精通しており魔法学にも精通しているのだと言う。
そこまでの知識は平民には得ることはできないし、上級の貴族でも家を出るものにそこまでお金をかけない、だからどこかの王女、又は公爵クラスのひめなのではないかというのだ。
「すごい割りには盗賊にやられてたな」
「魔法は発動まで時間がかかるからな。不意打ちには対応しきれないし何より俺と同じでビビってた」
「メルリィがか?」
「ああ、お前が助けにきたとき混乱してて『なんで、なんで、こんなの違う』と騒ぎまくってたぞ」
沈着冷静が服を着ているような彼女がそこまで取り乱す状態だったかと疑問に思うものの、初戦ならそれもあり得るかとビィティは勝手に納得した。
「そんなことより、そろそろ馬車の中に入れよ」
ヴィックスがアゴをクイっとやって親指で馬車の車内を指差す。少し肌寒いから気を利かせたのだろうかと思ったビィティは「警戒してるから外で大丈夫だ」と断る。
「違うんだよ。先程から姫様がお前のこと気にしてるんだ。中に入って安心させてこい」
そう言われ、後ろを見るとビィティはクラリスと目が合い彼女はニコリと微笑む、ビィティも微笑んだが車内にこないことがわかると彼女は顔を赤らめ口を尖らせてうつ向いた。
「分かった、見えないだろうけど、一応精霊は置いておくから安心して良い。クリン、警戒しつつこいつを守ってくれ」
『あいでちゅ』
名前を言っても分からないクリンに指を差して教えると。こいつとか酷いなとヴィックスがしょげる。
名前を覚えられない精霊のためだと理由を教えてやると「そうなのか!」と喜ぶあたりマジかわいいなこいつとビィティはヴィックスの肩をパシリと叩く。
「ふふん、礼は言わないぞ。友達だからな」
「馬鹿、親しき仲にも礼儀ありと言う言葉を知らないのか?」
「なんだそれは?」
そんなんだから友達ができないんだぞとゲーム時代のヴィックスを思い出しながら仏頂面のヴィックスと言うあだ名を思い出す。
「とりあえず友達でも礼はした方が良いと言うことだ。人生が変わるぞ」
「ふむ、そうなのか? 分かった友達の言葉だ信じよう。ありがとうアルバ」
イケメンでいけすかなかったヴィックスが素直だとこうもかわいいとは、これがツンデレの魅力と言う奴かとビィティはウンウンと納得する。
もういいから行けと言うヴィックスにハイハイと敬礼してビィティは馬車の縁を伝い後部座席へ向かう。中に入ろうとするとメルリィが扉を開けてくれ中へ迎い入れてくれた。
風のベールのお陰で吹き飛ばなかったが、無かったら開けた瞬間吹き飛んでたぞとビィティはクラリスに注意する。
それを見てメルリィが怒るがクラリスは素直に謝りビィティを隣に座らせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます