【ハッピー短編集】ストーカー

@kurumipunch

ストーカー

俺と彼女は今同棲している。


最近、彼女が男に付き纏われているらしい。

 

街中で歩いていても誰かの視線を感じるし、夜歩いてると暗闇の中、後ろから誰かがずっと後をつけていることがしょっちゅうあると言う。

 

最近は住所が分かったらしいのか、郵便受けに手紙が何通も来ていた。

 

どれも宛先不明だが、同じ筆跡で何度も何度も彼女に対するメッセージが綴られているので、恐らく同じ人物からなのだろう。

 

さすがに居場所を知られては、危険だろうと思い、警察に通報する事にした。

 

 

やっと犯人が分かったらしい。

 

警察の捜査によると、同じ中学の同級生だと聞いたから驚いた。

 

あんなに親しかった俺の友人がどうしてこんな事をしたのか。俺は直接面会に行って事情を聞く事にした。

 

「どうして俺の彼女に手を出すような真似をしたんだ。」


俺はそう友人に尋ねると彼はこう言った。

 

「悔しかったんだ。お前に彼女ができていた事が。昔は似た者同士で笑い合っていたのに、今の俺には恋人の1人も居ない。」


「俺は、お前と彼女が離れ離れになるように、ああやってストーカーしたんだよ」


呆れた。彼の犯行動機があまりにくだらない理由だったのだ。

 

俺は彼に叱責してこう言ってやった。

  

「結局お前は彼女が欲しかっただけか。だからああやって俺の彼女に付き纏って、手紙を送ったりしてきたのかよ。」


すると彼は意外な言葉を返してきた。


「は?お前、何勘違いしてるんだ。あの手紙は全部お前の為に書いた手紙だよ。」


え?


どうして俺に宛てて書いたんだ?

 

「彼女に付き纏ってたのもそうさ。お前とあいつが一緒にいたから、ずっと後を追っていけばお前の住所が分かると思ってたんだよ。」


彼はそう言うと、せきを切ったように自分の真相を次々と明かし始めた。

 

「俺はずっとお前の事が好きだった。お前と中学の頃に仲良くなってからな。なのに中学を卒業して、気付いたらお前には彼女が出来ていた。ずっと俺のモノだとばかり思ってたから悔しかったんだ。」


なんだって!? 俺は彼の言葉に気が動転してるうちに、彼の話はどんどんエスカレートしていった。


「俺は直に逮捕されるだろう!!だがな!!お前が俺に振り向くまでは、釈放されてもずっと付き纏ってやるからな!!!ずっとだ!!一生付きまとってやる!!!!」


彼はかなり激昂し、とにかく俺に対する愚痴を言いまくって遂には暴れ出した。

 

警察もさすがに危ないと思ったのか、彼を羽交い締めに拘束した。

 

俺はあまりの衝撃で、しばらく頭の整理がつかず平常心を失っていたが、なんとかこの状況を打破しなければと思い、ある決断を下すことにした。

 


まず警察の手を振り解く。


次に彼を抱き寄せ、最後に彼の唇にキスをした。


「……これで、満足か?」

 

すると、彼はその場から崩れ落ち、顔を真っ赤にしながら遂に何も言わなくなってしまった。

 

 

あれから数年が経ち、彼は釈放された。

 

俺と彼女は結婚する事になったが、以前と違うのは、彼も俺と結婚する事になった事だろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る