ソウルメイト (書籍になった作品)

神崎 ゆう

第1話

 人はみんな、どれだけ生きている事に感謝しながら生きているのだろう。


 そういう私も、あの出来事がなかったなら、多分今頃、目的もなくただ毎日を過ごしていたと思う。

 あの頃の私は、この生活がかけがえのないものだなんて考えもしなかった。


 10年前、私はある老人ホームに勤めていた。

 ベテランばかりの中で、まだ駆け出しの私は、痒い所に手が届くような行き届いた介護など夢のまた夢。

 良かれと思ってした事が裏目に出たり、時には「あんたじゃダメだ!」

 と同僚にストレートに感情をぶつけられて、くじけそうになりながらも、自分で選んだ道なんだから、いつか認めてもらえる日が来るまで頑張ろうと、自分で自分を励ましていた。


 でも、そんな中で、私にとって心のオアシスとも呼べるおばぁちゃんがいた。

 小川澄子さん。

 みんなは澄子おばぁちゃんと呼んでいる。

 見た目は小さくてとっても可愛いおばぁちゃん。

 いつも笑顔で、優しい言葉をかけてくれる。

「がんばるんだよ」

 の言葉にどれだけ元気をもらったことか。


 でもそんな素敵な澄子おばぁちゃんなのに、意外な事に今までずっと独身だったらしい。

 年をとっても上品で、美人で、おじいちゃん達からも大人気なのに、私にはそれが不思議でならなかった。


 それから大親友の吉岡奈美。


 高校の時からの親友で、同じ仕事を志し、念願叶って同じ職場で仕事をしていた。


 明るく活動的な奈美は、仕事の合間に英会話を習っていて、その学校で知り合ったアメリカ人の彼氏と現在付き合っている。


 負けん気が強くて、少しの事ではくじけない奈美。

 いつも明るく笑顔をふりまいている奈美は、澄子おばぁちゃん同様、私にとっては、なくてはならない存在だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る