ローズの夜話

月のきおん

第1話



人は時として後悔先に立たず、と思う事があります。

今日はそんなひとりの女の話をします。


園子はいつもはこんな酷い事はしない人だった筈でした。


「あのー、私。」


今日から1人でで仕事しなきゃっ。と園子は1人でで仕事をしていた。

歳の頃なら、24歳、ずっと歯軋りが中々治らない癖を備え持つこの1人の女がいる。


私は今夜から本当にひとりで仕事出来るか不安でたまらない。


「それで園子さんは1人で仕事を?」


「そうよ。私は今夜から1人でお店に立つ事になりました。ママさんが亡くなってから未だ一年だけど。お店畳むのはママの意思では無いだろうし。」

園子は静かに自分の指を見て居る。左薬指にはプラチナリングが光っている。


「あらやだ、私未だこれじゃ人妻ね。」


園子は今日夫と離婚したばかりの24歳と5カ月目のスナックのママをしている。


人妻だった午前中までは。

離婚して今はもう1人で仕事をして居る。

前は雪ママさんとお店に立って居た。


『今さっきから外で誰がが叫んで居た様な気がしたけど多分野良犬かな。』

園子はカーテン越し外を見ようとしたその時だった。


携帯電話が鳴った。流行りの曲の着信音。

「はい、もしもし、トモちゃんじゃない!今良いけど1人だけお客さんが居るのよ。」


私は暫く話しをして居ない友恵さんと言う36歳の女性と明日会う約束をして携帯電話を充電し出した。

友恵さんは美容室の店長さん、たまに来店している。


「それで谷中さんは、今何処で働いて居るんですか?」


「俺?今日から1人で仕事してる感じではないね!園ちゃん。最近は、仕事ならタクシーの運転手してるから色々かな。」

谷中さんは20歳位離れている前のお店の常連さん。

タクシーの運転手をして居る気のさくい人。

前はトラックの運ちゃんだった。


私は今日から1人でスナックを経営する事になった。


20畳位の店内にはカラオケが有り、小さなカウンターに奥に3人位座れる黒いソファーが2つある位の造りの。


お店の名はローズガーデン。雪と園子の好きな花、華やかに香る花だから好きなのだ。

前のママの雪さんが園子と2人で名付けた。

開店当初から2人は既に仲良しでよく一緒に飲み歩いた。


雪と園子は昔同じ職場に居た上司と部下。

生命保険会社出身だった。


雪は保険外交員で社内では売り上げ一、二を争う人でローズガーデンをやるまで勤続10年は働いて居た。

竹を割ったような性格だがちゃんとした女性らしさを兼ね備えている。

園子にはそんな雪さんは憧れそのもので。


そんな雪さんとずっと一緒にローズガーデンを続けて行きたかった。

ある日雪さんはダンプカーに轢かれれて亡くなってしまった。


「本当突然と言う言葉が当てはまる事は中々無いものよ、谷中さん

。」


その時ドアが開いた。


「おーい!園ちゃん元気か?!」


「何、山口さん、雪さんのお葬式で会った以来じゃない。

懐かしい、一年も会ってないとやっぱり寂しかったわ。」


「それで今外にうちの妻も一緒に来てるんだよ。おい中に入れよ。早く。」

入ってきたのは山口さん、隣街に住む60歳で社員5名位の奥さんと一緒に葬儀屋を経営して居る。

「今晩は。どうもいつもうちの亭主がお世話になっています

。」


奥さんもどうぞー!と園子は冷蔵庫から冷えたビール瓶をテーブルの上に置きグラスに入れ出す。

「本当いつも私の悪口言ってない?園子さんー。」

園子は大声で思わず笑いそうになるのを抑えて、冷静さを醸し出したかった。


ローズガーデンの夜は今夜も更けて行くのだった。



つづく……。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る