12ー26 十歳の子供たち その五

 僕はマクシミリアン・ファンデンダルク。

 ファンデンダルク家の三男で産みの母はマリアかあ様。


 僕らにはお母様が沢山いるからマリア母様以外は、例えばコレットお義母かあ様というように呼び方に差をつけているんだ。

 僕達ファンデンダルク家の子供たちの不文律みたいなものなんだよ。


 十歳になって、父様とうさまと初めての異界訪問に際しては、随分とマリア母様が心配をしていた。

 多分、十歳になった五人の子の生母である中では一番心配していたかもしれない。


 どちらかというとマリア母様は過敏すぎるほどの心配性なんだ。

 もし父様がついて行かなければ、絶対に異界訪問は許してくれなかっただろうと思うよ。


 地球を訪ね、クィンテスを訪ねて、異界という場所を初めてより身近に感じたけれど、同時にその危険性も理解しました。

 僕は異界を観察できるようになった時から、医療について興味がありました。


 僕は弟のイスマエルと同じで、治癒魔法にけているんだ。

 だから将来的には、地球世界の医者のように医療で人々のために貢献したいと考えている。


 クィンテスには、医者が居ない代わりに薬師や医療師が居るようだ。

 そうして父様は、クィンテスでは稀な医療・薬剤師となって、クィンテスのジャコダル市内にルバーシュ医療・薬剤所を開設している。


 このクィンテスでは住んでいる人々が長寿で健康なため、滅多に病人が発生しないのだけれど事故等で怪我人は発生する、

 そうした場合に必要なのが傷用ポーションなので、それを販売するのがルバーシュ医療・薬剤所のメインの仕事のようだ。


 父様は、母様やお義母様達の老化防止の秘術を見出すためにこのクィンテスで暫く活動していたみたいだけれど、その目的が一応かなえられた今はことさらにこのクィンテスに留まる必要はないみたいだね。

 でも、この世界の住人はみんな老化が遅くって長寿だから、父様の子供である僕達のためにこの世界に拠点を置いているみたいだよ。


 父様曰く、父様は「ハイヒューマン」というヒト族からグレードアップした種族になったみたいで、寿命がかなり延びているんだって。

 だから地球からホブランド世界に転移して来てもうかれこれ10年以上が経過し、なおかつ、かなり頻繁ひんぱんに異界を訪問しているのでその倍ぐらいの時間を過ごしているはずなのに、あまり歳を取っていないんだそうだ。


 父様も正確なところは分からないらしいけれど、間違いなく数百年から数千年の寿命があるんじゃないかと考えているようなんだ。

 そうして父様の考えでは、父様の血を引いた僕達子供も長寿になるはずだと言っている。


 ある意味ではハーフなので、仮にヒト族とハイヒューマンの寿命を足して二で割っても、このクィンテスの住民程度の寿命があるのじゃないかと考えている様だ。

 まぁ、それらを確認するには僕らが長生きして実証するしかないんだけれどね。


 そんな僕らが将来的に住むに際して、このクィンテスならば余り目立たずに済むとお父様は考えている様だ。

 エルフ族のフレデリカお義母様の場合、十代後半まではごく普通のヒト族と同じように成長していたと云うので、僕らも十代後半若しくは二十代前半までは人並みに順調に成長するんじゃないかと思っている。


 父様がほぼ20歳前後の顔立ちでほぼ老化が止まっているので、おそらくは僕らもそうなるんじゃないかと思うんだよね。

 でもこの先30年経ってもなお、20歳の顔のままだと絶対に周囲の人々が疑うことになるよね。


 その辺の問題は母様やお義母様たちにもかかってくる。

 フレデリカお義母様はエルフなので特別だけど、そのほかの母様やお義母様は一応普通の人だからね。


 不老の秘密が疑われると面倒なことになってしまうのは僕でもよくわかる。

 最近、母様やお義母様たちがものすごく若々しくなった。


 化粧だけでは理由が付かないほど若返ってしまったので、実はわざと老け気味の化粧をするようになったみたい。

 もちろん、実年齢より若い程度に収めてはいるけれど、化粧を取れば20歳そこそこの若い顔が見られるんだ。


 このために母様付きのメイドは、全員が他所よそにファンデンダルク家の秘密を洩らせないよう契約魔法で縛られている。

 母様たちの若返りの話についてはこの辺にしておいて、二つの異界を訪問してからは、僕の場合は特に地球世界の医療技術に惹かれている。


 そのために、ホブランドに戻ってからは父様に許しを貰って地球世界の先端医学をできるだけ覗き見るようにしている。

 余り熱心に見すぎていて、たまに父様からお小言を貰うことがある。


 何事も程々にして、自分の健康をきちんと管理するようにと言われているんだ。

 確かに学校の休みの日などには、朝起きてから夕刻まで食事時以外は自室にこもっている場合が多いから、注意されちゃったみたい。


 僕達は、自分の能力で異空間への訪問も観察もできるから、異界ののぞきは自室の工房区画でやっているんだけれど、半日も姿を見せないとやっぱり周囲が心配するらしい。

 兄弟姉妹や父様なんかは、僕の居場所をいつでも把握できるけれど、家の使用人や母様たちなんかはそれができないからね。


 面倒だけれど周囲の人を安心させることも大事だと思う。

 だから、できるだけ頻繁に自室から出て顔を出すようにはしているけれど、それでも興が乗るとついついのめりこんでしまうのは僕の悪い癖だなぁ。



 今日も、地球世界のとある医科大学での解剖を覗き見ていた。

 死因が不明の遺体だったけれど、魔法を使わずに解剖によっていろいろと考えられる原因をつぶしてゆく過程とそのロジックが面白いんだ。

 

 一つの遺体に関わる時間は通常二、三時間なんだけれど、今回は特別長かったね。

 司法解剖に慣れた法医学教授と助教授が二人も立ち会って、ああでもない、こうでもないと議論をし、結局何とか死因を突き止めたんだけれど・・・。


 うん、その過程は地球世界にたくさんある推理小説を読むよりも面白いかも。

 ただ、僕の魔法を使うと死因が思いのほか早くわかることもある。


 今回の場合、血液に入りこんだアルカロイド系の毒素が原因だったんだけれど、新種の奴で偉い学者先生が見つけるのに随分と苦労していた。

 別に殺人事件という訳じゃなくって、ヒル・クライミングが好きなおじさんが近傍の山に入って、戻って来たら高熱を発して死亡した事件なんだ。


 死因がわからなくって病気若しくは毒物の両方で死因を調べたけれど検視官ではわからずに、医科大学の法医学教室に遺体が持ち込まれたみたいだ。

 新種の山百合に毒成分があったのだげれど、その花がとても珍しい花だったので、それを採取しようとしてナイフで切り取った際に自分の指先もちょっとかすめて出血した。


 めておけば治る程度の傷だったから、死んだおじさん気にしなかったようだね。

 その時点で茎の内部に含まれていた微量の毒素がナイフの刃先に付着し、次いで、指先を切った際に毒素が血液中に入ってしまったようだ。


 本当に計測できないほどの微量の毒素だったけれど、体内で神経系を侵して、呼吸不全から死に至った。

 僕のセンサーで見ると血液中の遺物はすぐにわかるからね。


 最初に遺体を見たときにこれじゃないかと思ったよ。

 でも僕は見ているだけだし、父様から地球を覗いても良いけれど訪問してはいけないと言われているからね。


 わかっていても、何も口出しできないんだ。

 まぁ、十歳ぐらいの子供が何かを言ったところでまともに聞いてはくれないだろうけれど・・・。


 魔法を使わなくても最終的に死因を突き止められた教授達はすごいと思う。

 そうして、その過程での種々の議論や試行錯誤がとても勉強になる。


 専門用語がポンポン飛び出すんで結構難解なんだけれど、それを後で調べるのもまた面白いんだ。

 解剖の様子や議論の様子は、地球世界からパクった映像記録装置で音声を含めて記録しているから、後で何度も繰り返し見られるんだ。


 解剖を始めてから原因特定までは実質6時間だけれど、僕がこの一件に携わった時間は延べにすると三倍強の20時間を超えた。

 流石に20時間ぶっ続けでは引きこもったりしないけれど、僕って凝り性だから、一旦始めるときりがいいところまではどうしても引きずってしまう。


 それで夕食時に遅れたり、朝寝坊なんかしたりして、母様や父様にお叱りを受けてしまう。

 これって実は僕だけじゃなさそうだよ。


 予備軍でイスマエルがやっぱり興味津々で色々僕に聞いてくる。

 まぁね、僕も楽しいんで、イスマエルに色々と教えたりするから、二人が揃うとすぐに医療談議が始まるね。


 一旦始まると一時間や二時間はアッという間に過ぎちゃうね。

 だから、僕とイスマエルの将来は完全に治癒師若しくは医者で決まりだね。


 あぁ、勿論、薬師の真似事もするんだよ。

 だから、僕とイスマエルの工房は毒やら危険な微生物が結構沢山ある。


 地球世界の技術をパクって魔導具にした冷凍保存庫や冷蔵庫に鍵をかけて保存している。

 メイドなんかが部屋を掃除する時に間違って触れたりしないように、僕の部屋の冷蔵庫などは接触禁止にしているんだ。


 父様に「お前たち二人はになりそうだな。」って言われちゃったよ。


 調べたら地球では危ない科学者ひとのことを言うみたいだね。

 僕もイスマエルも決してそんなつもりは無いんだけれどなぁ。


 いずれにせよ、イスマエルは連れて行けないけれど、僕は時々クィンテス世界のジャコダルを訪れて、ルバーシュ医療・薬剤所でお手伝いをしているんだ。

 父様は居なくても、身代わりのアンドロイドがいるし、薬剤所は常時稼働状態にあるから製薬なんかのお手伝いはできるんだ。


 仮に病気を治せたにしても医療師の真似事はクィンテス世界では絶対にしない。

 十歳児が病気の治療をするのは問題になりそうだからね。

 

 製薬の方は一般人が見えないところでやっているから大丈夫なんだ。

 さて、今日も地球世界の大病院でも覗いてみましょうかねぇ。


 覗くだけなら、地球世界の戦争に巻き込まれても、こちらに被害は及ばないから・・・。

 でも、戦争って本当に嫌ですねぇ。


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