12ー14 クアルタス その六

 今、エルベアのハンターギルドのギルマスの執務室に居て、応接セットに座っている俺の前にはギルマスをしているディルク・ヴァンデンバーグとサブマスのキルヒ・レンーメンホフが居り、俺の隣にはヒルデ嬢が座っている。

 で、その三人が俺を睨んでいるところだ。


 別に怖くもないんだが、睨まれるのは好きじゃないぜ。

 こうなった原因は、いにしえのアーティファクトであろうギルドカードの所為である。


 記録される可能性があることをド忘れていた俺に原因があるのは間違いないけれど、オヴァデロンを虚数空間に放り込んだことでカードのメモリーに討伐と認定されることを知らなかっただけの話だ。


 で、どうごまかすかだが・・・・。


「さて、このカードに表示されているということは、ヒューベルト君がオヴァデロンを討伐したということになるんだが・・・。

 間違いないかね?」


「あのぉ・・・・。

 もしかしてシステムの間違いじゃないでしょうか?

 日付を見てください。

 この討伐は先々日になっていますよね。

 俺は先々日には長城の外に出ましたけれど、それはこのエルベアの近くの南門からであって、オヴァデロンが出現したという噂のボネビア周辺には近づいてもいませんよ。

 俺はその日の夕刻にはちゃんとエルベアに戻ってきましたから、ボネビア近辺の西門まで行くのは無理だと思いますけれど?」


 俺は理路整然と間違いの可能性を示唆しさして、これで切り抜けられると考えていた。

 だが、ギルマスが言った。


「あぁ、普通なら無理だ。

 ここからボネビアまでは850レルベほども離れているんでな。

 馬や馬車を使ってでさえ少なくとも片道3日から4日ほどかかる距離だから、とても朝にエルベアを発って、西門付近の現場まで行き、そこからその日のうちに戻ってくるのは到底不可能だ。

 だがな、そもそもオヴァデロンは、魔法攻撃も物理攻撃も全く効かない規格外の魔物だ。

 仮にお前さんがそいつを倒した奴なら、普通ならできないことができても何らおかしいことではない。

 それにこのハンターギルドの身分証明書代わりのカードは、アーティファクトでな。

 これまで間違いがあった試しがないんだ。

 まぁ、仮に間違いがあったにしても俺達にはその修正はできん。

 昔からその筋の研究者に言われていることは、こいつがアカシック・レコードから情報を得ているんじゃないかということだ。

 いずれにしろ、俺らにはこの記録を疑うことは許されていない。

 こいつを疑ってしまえば、カードの記録をもとにハンターのクラス分けをしているハンターギルドの根幹が揺らぐことになる。

 だから、俺らとしては、お前さんの説明では納得できん。」


 ウーン、こいつは困ったぞ。

 俺ならカードの記載を修正できるかも知れんが、仮にそれをやればますます俺の能力が疑われることになるだろう。


 これまで誰もできなかったハンターギルドのクリスタルを誤魔化すことができる方がよほど脅威になるはずだ。

 ましてこの情報システムは商業ギルドなどでも使われているらしい。


 δ型ゴーレムの調査では、クリスタル自体が地球のパソコンのようなシステムでカードが端末を形成し、クリスタル同士でネットワークを構築しているらしい。

 地球ならさしずめ電子回線を使ったネットワークなんだろうけれど、ここでは魔法陣によるネットワークのようだ。


 従って表面上は見えないが、カードには小さな魔方陣が6個ほど描かれている。

 因みにクリスタルについては、各ギルドの支部等の総数の二倍ほども在庫があるそうだ。


 いずれも千年オーダーの昔に見いだされたアーティファクトらしく、クリスタルそのものにカード作成機能がついているらしい。

 クリスタルは魔力を通すことで起動でき、維持には左程の面倒はいらないようだが、それにしてもよく利用方法が分かったものだと感心するぜ。


 きっと何度も試行錯誤を繰り返して現在の形になったんだろうな。

 おそらくは情報伝達装置としても使えるはずなんだが、そんな方向には研究しなかったんだろうな。


 それはともかく屁理屈が通じないとすればどうするかだが・・・。

 やむを得ないから奥の手を使おう。


「全く俺の知らないことではありますけれど、もしかして神様が地上人のためにオヴァデロンを退治し、それを知らしめるためにオヴァデロン討伐を俺のカードに記録したんじゃないでしょうか。

 俺のカードが選ばれた理由は不明ですけれど、誰のカードでも良くって無作為に選んだ結果がたまたま俺だということでは?」


 としてしまえばだれも傷つかないし、そもそも不干渉の神様も文句は言わないだろう。

 この抗弁に対してギルマスが反応した。


「ふむ、・・・。

 確かにヒューベルト君はうちのギルドでも将来有望なハンターではあるが、オヴァデロンを討伐できるかというと間違いなく否定できるだろうな。

 過去の記録でも一級の超ベテランや都市のお抱え魔法師などが侵入を食い止めるために総力を挙げて死力を尽くしたが敵わなかったと明確に記録されている。

 それがハンターになってから1年も経っていない君がたった一人で討伐できたなど、正式には上げられない話だ。

 本人の自覚も無い様だが、一応この話は統領の連絡会を通じて各都市に知らせることになるが、それで構わないかね。

 仮にオヴァデロンの討伐が君の成したことなら、君はファレズに存在する全住民の英雄だ。

 報償もとんでもない額になると思うが、それを放棄してもかまないかね?」


「報償・・・ですか?

 きっと大金なのでしょうね。

 正直なところ惜しいですよね。

 でも自分の身の丈にあった金があればそれで十分です。

 下手に大金を持つと身を崩しそうですし、後々そのことで皆さんから過分の期待をかけられても困りますから・・・。」


「ふむ、そうだな・・・・、

 オヴァデロンを討伐した勇者と認定されれば、当然に1級に昇格するだろうし、相応の期待もかけられるのは当然だ。

 よし、君の言い分は分かった。

 統領の連絡会を通じて君の話を正式に伝えておこう。

 統領の連絡会で何らかの御下問ごかもんでもあれば、また聞くことになるかもしれんが、当座はこのままにしておこう。

 それと、いろいろと問題が生じるかもしれないから、ギルド内には箝口令を発しておこう。」


 うん、ヒルダ嬢が大声で叫んだからね。

 知っている奴は相当数いるはずだが、それでも何もしないよりはマシだろうね。


 取り敢えずの急場は凌げたんだが、生憎と人の噂ってやつは、制御が難しい。

 少なくとも、俺はエルベアのハンターギルド内で注目の人物になっていたよ。


 おかげで2級3級のベテランハンターにねちねちと絡まれることが多くなったな。

 まぁ、適当に避けたり、撃退したりしているんで、実害はないけれどな。


 総じてこのクアルタス世界は比較的に住みやすい世界ではある。

 今回オヴァデロンの侵入が無かったのでファレズ内での開発はより一層進むことになり、長城内での安全はより確保されることになるだろう。


 オヴァデロンの死骸もこのクアルタスにはないから、オヴァデロンの死滅に伴う新たな魔物の発生も防げたはずだ。

 そんなこんなで、俺は、クアルタス世界の足掛かりにするために、エルベアの北側の街道沿いの土地を12万坪ほど入手して、そこに屋敷を立て、自立型アンドロイド4体を置いて管理させることにした。


 これまでもエルベアなどの城塞都市以外に住むことは別に禁止はされていないんだ。

 但し、ファレズ内で魔物が結構残存していることから、安全は自己責任でということになり、基本的に町からの援助は当てにできないのでこれまで屋敷を建てる者はいなかっただけの話だ。


 都市の城壁の直近には耕作地があって、場内では作れない作物などが適宜栽培されているが、動物に荒らされることも多いみたいだ。

 一応クアルタスの立法上も特段の問題は無いように確認はしている。


 そしてこのクアルタスについては、俺の子供たちが遊びに来ても良い場所の一つに選定することにした。

 そのことを子供たちに知らせるのは、彼らが12歳になってからにしようとは思っている。


 いまだ数年はあるからその間に他の候補地も見つけておくことにしよう。

 ふむ、嫁sを連れてくるのも一興かもしれんな。


 ただ、お付きの者達をごまかすのがある意味で面倒なんだ。

 まぁ、魔法で勘違いをさせたり記憶をぼやかしたりすることはできるんだが、なるべく闇魔法は使わないに越したことはない。


 クアルタスに来るにしても、ホブランド不在中の時間は極力微小にしているから、あまり目立たないはずなんだが、嫁s達の固有時間は容赦なく過ぎて行き、その分彼女たちは年を取ることになる。

 エルフのフレデリカを除いて、嫁s達は短命種だからな。


 俺自身はヒト族を超えてもう別な存在になっているから、嫁s達のために錬金術で年を取りにくくする方法を何か考えておく必要があるかもな。


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 5月18日、8月10日一部の字句修正を行いました。


  By @Sakura-shougen





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