12ー12 クアルタス その四

 俺がエルベアのハンターギルドに登録してから既に3か月ほどになる。

 その間に大したことはしていないんだが、つい十日ほど前に俺のハンターランクは4級になっていた。


 今日も今日とて、長城の外の魔境に入り込み、ソロで3グレードのヒュージ・グリーン・マンバを討伐してきた。

 俺のセンサーで探索し、見つけて即座に転移して、空中からエアーカッターで首を撥ねて、収納バッグに放り込んで終わりだな。


 収納バッグはギルドで販売していたものを購入したものだ。

 大金貨二枚もするもので結構高いんだが、重宝している。


 容量は300立米ほどあるので、大型のシーコンテナで4個分ほどか?

 かなりのかさが入るし、中に入れたものの重量を感じさせない優れモノだが、さすがに時間停止機能はついていない。


 時間停止若しくは時間遅延機能を付与することもできるが敢えてしないようにしている。

 基本的に獲物の保管・運搬用に使っているが、5級以下のハンターにはそもそも販売してくれないものだ。


 実際問題として6級や7級のハンターではよほど金持ちのボンボンでもない限り買えない金額の筈だ。

 このファレズでは、インベントリにしろ、亜空間収納庫にしろ、そういうスキルなり、能力なりを持っている奴がどうもいないようなんだ。


 あるいは、そのような能力を持っていながら隠している奴がいるのかもしれないが、俺が知る限り、少なくともこのエルベア近辺では居ないようだ。

 あ、δ型ゴーレムからもそんな情報は来ていないんだぜ。


 いずれにしろ胴回りが80センチを超えるような巨大な蛇の化け物を狩った後は、周辺で薬草採取を行って明るいうちに長城内に戻り、エルベアのハンターギルドの解体所で受付嬢とともに獲物の確認をしてもらっているところだ。

 俺がなったばかりの4級ハンターという奴は、1級から7級まであるハンターランクでは、まぁ、中堅どころというやつだな。


 7級は全くの初心者、6級から5級は「若手」と呼ばれ新人枠は脱したものの未だ半人前と見做されている。

 4級と3級は「中堅」でベテランが多い。


 2級と1級は上級者であり、特に1級はハンターの頂点であって、若手ハンターたちの崇拝の対象にもなっているんだが、いかんせん数は少ない。

 今のところこの長城内の中には四人しか存在しないらしい。

 

 初めてギルドを訪ねた時に受付のヒルダ嬢が言っていた5級以上のランクになったから、今では長城の外に出て魔物を狩り、薬草採取に励んでいるわけだ。

 俺が4級になれたのもコツコツと毎日依頼をこなした結果であり、受付のヒルダ嬢曰く常人の3倍近いクエストをこなしているんだそうだ。


 7級や6級などハンターランクが低い時点で俺が受けられるクエストは、圧倒的に常設依頼の仕事が多かったんだが、薬草採取の成績では間違いなく俺がトップらしい。

 持ち込まれた薬草類の状態判定も、俺の場合はA~AAAの間で常に優良だったようだ。


 それ以外にゴブリンやコボルトなど、長城内にばらけて巣くう弱小魔物の間引きにおいてもかなりの成績を残しているんで、ほぼひと月ごとにハンターランクが上がっており、3か月過ぎた今では4級になっているわけだ。

 5級から長城外にも出られるようになったので、長城外にある希少な薬草類の採取がこのところメインになっているが、魔物の討伐もそれなりにこなしている。


 目の前のヒルダ嬢が言う。


「でも、すごいねぇ。

 ヒューベルトって、ここに来て初めて登録してからまだ三か月ぐらいなのに、もう4級になって、3グレードや2グレードの魔物を狩ることができるなんて・・・。

 受付をした時にはまさかこんなに優秀なハンターになるとは思ってもいなかったわ。

 それに4級になってからでも、4グレードの魔物5体、3グレードの魔物が2体に、2グレードの魔物が1体だものね。

 この状態が続けば、三か月後ぐらいには3級になれると思うよ。」


 ヒューベルトというのは俺のこの世界での名前だ。

 ギルドに登録されているのは、「ヒューベルト・デ・バルス、28歳」で登録している。


「いやぁ、そんなこともないだろう。

 俺よりもっと早くに上に上がっている奴がいるんじゃないのか?」


「もともと長命種はの私たちは、じっくり腰を落ち着けて仕事をやる手合いが多いからね。

 ヒューベルトのように、ほぼ毎日クエストをこなすような者は少ないんだ。

 ここにも少々短気なものや、栄華を夢見る者も居るけれど、仮にハンターになってもそういう手合いは無理をすればすぐに命を失っている。

 特にハンターになるような者は、5級にもならないうちに大穴狙いで長城の外に出て行く若手が多くてね。

 碌に育たないうちに命を散らしている。

 私がいくら注意をしても聞いてくれない・・・。

 5級になっても、パーティーを組めないと魔境で生き残るのは難しいのよ。

 ヒューベルトがソロで魔境の討伐を続けられるのは奇跡みたいなものなの。

 まぁ、それだけ強いということでもあるけれど、4級というのはうちのギルドでは上位15位に入る強さだからね。」


 以前にヒルダ嬢から聞いたところでは、4級から3級の間には壁があり、なかなか3級には上がれない仕組みになっている様だ。

 別に人数制限があるわけじゃないのだが、3級に昇格するような成果を上げるには、少なくとも4グレード以上の魔物を百匹、3グレード以上の魔物を20匹討伐せにゃならんのだ。


 むろんパーティーを組んでも討伐してもかまわないんだが、その場合、人数比と級数に応じた配分になるので、5人で10匹倒した場合、同級のハンターのパーティーならば各人2匹と勘定されることになるが、例えば3級一人、4級二人、5級一人の場合は、取り分は3級の者が三分の十、4級の者は四分の十、5級の者は五分の十になり、概ね3.3:2.5:2の比率で分けることになる。

 仮にこのパーティーが4グレードの10匹の魔物を討伐した場合、3級の者は3.75匹分、4級の者は2.84匹分、5級の者は2.27匹分と成果と見做され、級により差が出ることになる。


 この計算は脳筋っぽい連中が多い冒険者にはなかなか難しいのだが、幸いにして古の魔法技術で作られたギルドカードは、パーティー申請が行われるとすぐにその配分率を適用して、討伐した魔物の数やグレードもメモリーに記録しているので、ギルドの測定用クリスタルで確認するとこれまでの成果が分かるようになっている。

 いずれにせよ、単独で4グレードの魔物100匹、3グレードの魔物10匹を討伐するのは至難の業とされているらしく、4級になってから3級に上がれるのはせいぜい8%程度のハンターであるらしく、最低でも3年から5年ほど時間がかかるために、なかなかに3級への昇格者は居ないようだ。


 ところが俺はパーティーも組まずに、4級に昇格してから半月足らずの間に、4グレードの魔物5体、3グレードの魔物2体、2グレードの魔物1体を討伐しているんだ。

 ハンターの常識として2グレードの魔物1体は、2グレードの魔物1体は3グレードの魔物3体、若しくは、4グレードの魔物30体に相当する強さらしいんだが、昇格の際の条件としては2グレードの魔物も単に3グレード以上の魔物として数えられるに過ぎない。


 それでもなんだかんだと言いながら、俺は単独で2グレードの魔物すらも倒せる4級のハンターとしてエルベアのハンターギルド内では名前が売れてきた。


◇◇◇◇


 ところでオヴァデロンのことなんだが、軌道衛星上のδ型ゴーレムの情報によればファレズに向かってほぼ予測通りに進行しているな。

 一月半後には、ファレズの周囲を取り巻く長城の南西付近に到達する見込みだ。


 今のところ、ファレズの中心方向からややずれていて、このまま直進すればエルベアの北約120レルボ(約200km、1レルボは千ヒーボでおよそ1.6~1.7キロ程度の長さ)ぐらいを西から東へと通過することになるだろうが、その延長線上の6レルボ(約10km)以内には三つの城塞都市が存在し、これらの都市は間違いなく危険地域になるだろう。

 そうしてまた、長城が破壊されることによる弊害が大きいのだ。


 長城で隔てられていた魔境の魔物どもが大挙してその破孔からファレズ内に侵入し、長城内に居座ることになる。

 その場合、ファレズ内は数十年にわたって魔境の魔物が居座ることになりかねない。


 少なくとも千年前のオヴァデロン来襲の後、ファレズ内の人類はおおむね二十数年にわたって苦難を強いられている。

 オヴァデロンの速度は時速にして約1.8レルボ(約3km)程度、1日に約43レルボ(約72km)を進むので、一月に1200レルボ(約2000km)を楽々踏破する。


 多少の起伏や凹凸は何の支障にもならないようだが、それでも200mを超える深さの断崖や切り立った峡谷は避けるようなので若干の進路が変化することはあるのだが、こいつは立ち止まるということを知らないらしい。

 オヴァデロンはでかいから、100レルボ程度まで近づくとおそらくは長城の監視塔からその姿の一部が見えることになるだろう。


 もしかするとその前に小さな地震や地面の軋み音などでその接近に気づくハンターがいるかもしれないな。

 ハンター達も長城から100レルボ近辺までは遠征していることが稀にあるんだ。


 長城外は魔境と呼ばれており、寝泊まりするには不適当な場所ではあるけれど、上級者を中心としたハンターがパーティーやレイドを作れば魔境内でのお泊りも可能になる。


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 5月6日、一部の字句修正を行いました。

    By @Sakura-shougen



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