11ー9 異世界の異世界?

 俺は妙なことに気づいてしまった。

 俺の亜空間の中に特異点があるんだ。


 インベントリは、ほぼ容量無制限で使い易いんだが、一方で生物いきものを入れられないなどの短所もあった。

 そんな場合に使うのが亜空間だ。


 俺自身が出入りできるし、場合によっては人も出入りさせることができる。

 骨とエクトプラズムに分離された存在でしかなかったアリスを、特殊な時空間に入れて再生と言うか、蘇生と言うか、意識を保ったまま生き返らせたこともある。


 俺の亜空間は時間の逆行こそできないが、時間を遅らせたり逆に速めたりもできる。

 その性質を使って地球との行き来の中で亜空間を使って地球の滞在時間を伸長することもできるようになった。


 以前にも言ったような気がするが、地球とホブランド世界では時間の経過状況が異なる。

 ホブランドの二か月は地球の三年にも相当する。


 つまりは地球の方がホブランドよりも15倍から16倍ほどにも時間の進み方が速いんだ。

 そのため地球で数日を過ごしても俺の居ないホブランドでは数時間しか経過しないという不思議現象が起きていた。


 その為に屡々しばしば地球世界にもお邪魔していたが、更に一旦亜空間の遅延時間に入ってから特殊な方法で地球に転移すると、数年地球に滞在してもホブランドでの時間経過はわずかな時間にすることができるということを知った。

 だからそれを利用して、俺は地球でも、結構な年数を生活していることになる。


 おまけに結構な時間的余裕が生じたから地球世界の先進の技術知識も手に入れることができた。

 尤も、ホブランド世界に持ち込むのは種々問題があるモノも多いから、ホブランド世界での利用は避けているものが非常に多いんだ。


 で、いつものように遅延時間の亜空間に入り込んで地球に転移しようとしていた時に、俺のセンサーに何かが引っかかった。

 表現的には非常に困るんだが、感覚的には大広間の和室で多数ある襖や障子の一枚に本当に小さな孔を見つけてしまったというような感じだろうか?


 何か亜空間の中で空気の流れのようなものを感じ取ったんだ。

 そいつに妙な臭いのようなモノを感じて、近づいてみたら孔があったのを見つけてしまったという感じだな。


 そういうものがあると調べたくなるのが俺の悪い癖だ。

 無論、俺がいきなり飛び込むような真似はしない。


 調査に当たるのは当然有能な俺のゴーレムたちだ。

 最初にδ型ゴーレムとその配下を送り込んで調べさせた。


 δ型ゴーレムから送られてきた映像は、大木がうっそうと茂る森林の中だった。

 ついでにドローンも送り込んで上空から観察しようとしたんだが、スケールが予想していたものと少々違っていた。


 大木はホブランドではエルフの里であるシュルツブルドでしか見られないような世界樹クラスの巨木だったから、ドローンをその上空に揚げるまでに時間がかかった。

 何せ、巨木の枝葉が上空を天蓋の様に覆っているから、地上には日差しが少ないし、その枝葉がジャングルと見間違うほどに濃密なんだ。


 それが延々と続くもんだから、δ型ゴーレムが捜査しているので迅速なはずなのに、ドローンが森の上空に出るまでに一時間ほどを要してしまったぜ。

 俺が向こうに居ればセンサーで把握もできるし一気に巨木の上空へ転移なんかもさせられるんだが、孔が小さい所為なのか、俺のセンサー能力が何故か制限されるんだ。


 だから、危険が大きいので生身の俺が直接行くんじゃなくってゴーレムやらドローンを送り込んだんだが・・・。

 二、三日調べて分かったことは、向こうの世界はホブランドの大気とほぼ同じ成分であり、俺が行っても特に問題は無いだろうこと。


 植生は今のところセコイア杉を5~6倍ほどに大きくしたような巨木が見渡す限り続いており、少なくともドローンの上昇限度まで上がってもその森の切れ目がなかったことから全容把握には時間がかかるということがわかった。

 場合によっては、偵察衛星の投入も考えているところだが、ここが地球に似た文明圏ならばそうした文明の利器は察知される可能性もある。


 時空を隔てたディアトラゾ空間と言えども万能ではない。

 転生前の俺が生きていたころと違って既に百年以上もの進化を遂げた地球世界ではそうした時空間異常を検知できるようなセンサーを研究している研究所も有るんだ。


 取り敢えず送り込んだδ型ゴーレム一体のディアトラゾ空間に対して反応した軍や警察勢力の介入は今のところ無いようだ。

 そんな勢力の介入が有ればすぐに撤退し、俺の亜空間も閉じねばならんだろうな。


 巨木のおひざ元である向こうの世界の地上の植生はシダに似た概ね紫色の植物が存在し、中には食虫植物の様なものが存在していて周辺を調査中のインセクトアイが一旦食べられ、吐き出された。

 流石に軽金属や無機物を消化することはできなかったようだ。


 但し、そんな植物が存在するということは捕食可能な動物が存在するということでもある。

 止むを得ず現地時間で400日ほどの間、δ型ゴーレム1体、ドローン型ゴーレム8体、それにインセクトアイ24体を投入して調査を続行した。


 俺は念のため教会に行ってアルノス幼女神様にも尋ねてみたが、アルノス様は怪訝けげんそうな顔をしながら言った。


「お主のやることは儂らの常識の範囲も超えておる。

 そもそも単なる『巻き込まれ』であったにせよ、異世界召喚でやって来た者が、転移で自由に元の世界に戻れるようになるなど我らのことわりから言えばあり得ぬはずじゃ。

 それをさしたる力も使わずに、ホブランドと地球を簡単に行き来できるようになるなど、神の眷属であっても自由にはできぬ話ぞ。

 じゃから地上で限りある命しか持たぬ其方が、自ら作った亜空間に別な世界を見つけようと、それに対して我らが干渉することは無い。

 尤も、向こうの世界にも儂に似た存在が管理をしている可能性もあるでな。

 若しもお主が会うようなことがあれば、よろしく言うておいてくれ。

 恐らくその者も余程のことが無い限りは地上の出来事には干渉しないはずじゃ。」


「あのぉ、異世界からのヒトやモノが入る干渉って結構大事おおごとなのじゃないですか?」


「うんにゃ、限りある命を有する者が行うことなど、どうあっても大事にはならぬ。

 仮にその所為で世界が滅びようと、それはその世界の運命じゃからのぉ。

 我らが動く理由には乏しいのじゃ。

 但し、邪神のように永劫に近い生命力を有する者が為すことは、我らの存在をかけて排除する理由にはなるが、滅多には起きないことじゃ。

 お主はそれすら封じ、半ば滅したであろう?

 そのような者が為すことに我らの存在をかけてまで排除する理由がない。

 じゃからその別な世界とやらでリューマが好き勝手したとて、儂と同じような存在が咎めるようなことは無いじゃろう。

 お主の好きなようにせよ。

 いつか出来ればその世界の話も聞かせてくりゃれ。

 では、またの。」


 そう言って呆気なく目の前から消えていった。

 うん、俺はどうも好き勝手出来る身分らしいぞ。


 放任されてしまうと何となく責任を感じてしまうんだが・・・。

 もしかしてそれが幼女神様の狙いなのか?


 ◇◇◇◇


 俺は新たに見出した亜空間の中の異世界を仮に【セカンダリオ】と名付けた。

 現地人が居て彼らが別の名で自分たちの世界を呼んでいればそれに変えるつもりだ。


 セカンダリオの時間で400日という時間は、ホブランド世界の時間を100万倍に遅延させた亜空間の中では、10分ほどにしか過ぎない。

 この点地球世界とも時間の推移状況が違うようだ。


 いずれにせよ、俺が亜空間から出てホブランド世界へちょっと戻った際にセカンダリオでは400日以上が過ぎていた。

 δ型ゴーレム3001号の報告によれば、セカンダリオ世界に文明らしきものは存在した。


 ドローン・ゴーレムは、拠点からおよそ200キロ圏内で活動できるんだが、その境界付近上空でようやく城壁らしきものを地平線の彼方に見つけたようだ。

 磁針方位で言うと北西方向に200キロ+150キロほどの距離に城壁があるようだ。


 画像から見るとこちらの城塞都市のような城壁だが規模が大きい。

 目で追える限りの範囲に城壁が伸びているらしい。


 巨大な樹海はその城壁の手前で途切れている様だが、生憎と傍に近づけていないので確認はできていない。

 そこで、俺がセカンダリオに一時的に進出して、拠点を城壁の手前100キロの地点に三か所設置し、δ型ゴーレム3002~3004号を配置、それぞれドローン型ゴーレム8機とインセクトアイ24機を配備させた。


 δ型ゴーレム3001号は、そのまま最初の出現点でリーダー格として動いてもらうことにした。

 それからセカンダリオで更に500日ほどの間、観察を行わせて、セカンダリオ世界の大まかな状況が判明した。


 文明的にはホブランドとどっこいどっこいなのだが、魔法が未熟な代わりに科学技術が進んでいる。

 ホブランドでは魔法を使わずに物理的な被害をもたらすような大砲や銃は無かったのだが、この世界では銃や大砲が発明されていた。


 セカンダリオ世界の魔法のレベルは、ホブランドが「中の中」レベルとすれば、セカンダリオでは「小の上レベル程度だと思われる。

 城壁内に存在するいくつかの王国の王宮魔法師と呼ばれる人物でようやく中級魔法が発動できる程度なのだ。


 従って、ホブランドと異なり、魔法師が戦争に赴くことはほとんどない。

 そもそも魔法師の数が少ない為に魔法師の軍団を造ることができないのだ。


 その一方で、庶民にも生活魔法は広く流布しており、生活するうえで必要なスキルの一つになっている様だ。

 セカンダリオ世界の文明は、銃砲が出だした頃の欧州世界に近いレベルだ。


 ナポレオンが皇帝になった時代を思い浮かべれば良いかもしれない。

 でも魔法使いが居ても魔女として排斥されていないようだね。


 で、好奇心が勝って、俺がセカンダリオに出かけてみた。

 俺としては地球世界に行くときと同じ感覚で、家族にも伝えずにいる。


 セカンダリオに滞在する時間がたとえ1年間(?)であろうとも、ホブランドではわずかな時間しか過ぎていないことを承知しているからだ。

 当然のことながら、俺の工房に亜空間を生成したままだ。


 下手に閉じて、万が一にでもホブランド世界に還れなくなったら嫁sや子供たちが困るかもしれないからな。

 但し、後に、それがある意味でトラブルを招くことになってしまった。


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おしらせで~す。

「エリカお婆ちゃんの異世界転生記」を始めました。

興味があればぜひ読んでみてください。

https://kakuyomu.jp/works/16817330650253864757


  By @Sakura-shougen


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