4-6 騎士と馬無し馬車とフレゴルド

 王都の新居の方は改修工事真っ最中なのだが、その敷地の一角に俺は自分の力だけで建物を作ってみた。

 本宅も錬金術を駆使して作れないことは無いと思うのだが、ノブレス・オブリージュは、金を使って民生に回すことを要求しているから、なんでもかんでも自分で造ってしまうのは駄目なのだ。


 俺が造っているのは錬金術や製薬のための工房だ。

 本宅に造ってもいいのだが、やはり離れにした方が色々と便利だし、同居者にも迷惑を掛けないだろう。


 建坪は精々五十坪程度、デカい本宅に比べると実にこじんまりとした建物だ。

 但し、地下にある多重階層の倉庫は少し大きいかな?


 必要に応じて物資をため込むつもりだからだ。

 もう一つ、天井裏に俺の従魔のための空間を作ってやった。


 亜空間で造った棲み処すみかは、かなり大きいから、ケイスケでも余裕で動き回れるし、中で飛べる。

 シロも柱伝いで屋根裏部屋に入り込めるし、マロンとポッポちゃんは飛んで格子窓から入り込める。


 この空間は俺の魔力が浸透していて非常に棲み易いのか、四匹とも完全に居ついてしまった。

 俺が二、三日に一回程度掃除に見回るぐらいであまり手間はかからない。


 因みにケイスケの餌は俺の錬金術で造った合成の果汁を含んだゼリーを与えている。

 結構な量のゼリーを食べるが、左程俺の負担にはなっていない。

 

 10日に一度ぐらいは、本物の果物を与えるようにしている。


 ◇◇◇◇


 俺の臣下となる騎士だが、面接では取り敢えず4人を採用した。


 これまで侯爵等からの斡旋で30名以上も面接をしたのだが、正直なところ貴族の子息って程度が低いヨな。

 義理立てだけでおかしな人材を雇うわけにも行かないから、採用は厳正にしている。


 但し、明らかに人数が足りないので、止むを得ず、冒険者ギルドやら騎士養成所やらに行って、直接目で見て雇うことにした。

 ほぼ成長が固定された者よりも、若く未成熟な者の方が将来性も高いと判断したからだ。


 冒険者ギルドで鑑定をかけまくり、将来性の高い初心者15名ほどを選んだほか、騎士志望者が集まる養成所に行って青田刈りならぬ途中採用を行った。

 養成所でも同じく10名ほど選んだので、騎士として採用予定者は併せて29名ほどになったがまだ足りない。


 まぁ、もう少し、派閥が送り込んでくれている候補者の面接を続けるしかないネ。

 候補者については、全員を4班に分けて、冒険者ギルドの資格を持っていない者は資格を取らせ、ギルドの依頼をこなさせた。

 無論のこと、できる限り俺が傍にいて支援魔法をかけてアシストし、同時に成長を促している。


 冒険者としてのレベルアップだけでは足りないので、選抜騎士の四名を講師にして対人戦闘の訓練を屋敷の空き地でやっている。

 4班のうち二班は野外で冒険者ギルドの依頼を実施中、残り二班は屋敷の空き地で戦闘訓練が日課である。


 俺のアシストが効いたのか、選抜騎士を含めて皆、成長率は高いし、呑み込みも早い。

 ついでに俺は地球の軍隊の訓練(ブートキャンプ)を多く取り入れたので、騎士見習いたちには結構な地力とともに筋肉がついて来ている。

 

 その進捗状況を鑑定で確認できるのが俺の密かな楽しみの一つにもなっている。


 ◇◇◇◇


 一方で、馬無し馬車の開発だが、新たに作った俺の工房で試行錯誤しながら作っている。

 魔石に溜まった魔力を利用して、火魔法、水魔法、風魔法を合成した簡易な蒸気機関を産み出した。


 蒸気機関と言うよりはガス膨張機関のワルターエンジンに似ているかもしれない。

 熱力学を応用したエンジンではあるのだが、蒸気機関のように重い構造材は使わない。


 閉鎖空間の中で気体と水蒸気を加熱膨張させ、そのエネルギーを回転力に伝えるようなロータリーエンジンを作ってみたのだ。

 排気ガスをそのまま排出してしまうと周囲に熱を放出して温暖化の原因にもなるから、魔石による冷却機構を備えていて完全な閉鎖系熱サイクルになっている優れものだ。


 ロータリー部分や車軸への動力伝達部分は軽量で丈夫な魔銀(ミスリル)を使用しているが、残りは殆どエンチャント(閉鎖空間やら凝固空間による強化)を掛けた木製の構造材だ。

 このために、全体として非常に軽い馬車なのだ。


 馬で曳く実際の馬車と比べて重量は三分の一ぐらいになるかと思う。

 貴族用の馬車は特にゴテゴテと飾りが多いからなぁ。


 この馬車の製造段階で難しかったのはIT制御ならぬ魔法陣プログラムによる魔法制御だった。

 ロータリー機関に加熱圧縮されたガス状物質をタイミングよく流し込む制御が少し厄介だったのである。


 主動力は複数の魔石に込められた魔力であり、一回の補充で多分一昼夜は十分に走れると思う。

 速度は試してみないとわからないが、道が良ければ時速60キロぐらいは間違いなく行けそうだ。


 理論上の最高速は100キロを超えるが、舗装道路ならともかく、道路がでこぼこではとても走れないだろう。

 下手をすれば飛び上がったはずみで道を飛び出すことにもなりかねない。


 大きさは実際に走っている馬車よりも若干小さ目にした。

 その分、乗り心地にこだわり、最良の緩衝材やらを用意した五人掛けの座席になっている。


 当座の運転は俺がやるにしても、運転手は、まぁ、馬丁を訓練するしかないだろうな。

 家宰のジャック曰く、馬車を伯爵自らが操縦するのは貴族の体面上禁忌に該当するので、緊急の場合以外では認められないそうだ。


 それでも俺が造った馬車の試験運転ならばとジャックも渋々許してくれた。

 一応車体の左右に俺の家紋をくっきりとつけているし、車体の前には小旗が付けられるようにもなっている。


 普段俺の家紋の入った旗をつけて走ると、多分旗布が徐々にチビてしまうから、必要な時以外は出さないことになる。

 形状は、どちらかと言うと自動車のステーションワゴンに良く似た形だが車高がちょっと高いね。


 タイヤを大きめにした関係もあって車高は優に2mは超えている。

 後部に一応の荷物置き場を用意しているが、馬車に比べると荷物の搭載量は少ない。


 先進のフォルムにするにはもう少し俺の工作技術や意匠力が上がらないと無理だ。

 特に現代的な乗用車のようにかなり低い座席形状を綺麗に造り出すのは難しい。


 まぁ、俺の経験値上昇を待つとしよう。

 現状のフォルムにちょっと落胆しながらも、「そのうち、きっと格好の良い馬無し馬車を作ってやる。」と決意する俺だった。


 で、試運転を兼ねて馬丁のクロンデルを連れて、フレゴルドまで遠足だ。

 フレゴルドまで馬車で概ね三日と言うことは、多分200キロ弱(130ケール)だろうと推測している。


 ならば、順調に行けば5時間ほどもあれば着けるだろうが、一応足掛け二日の旅程としている。

 朝、日の出(アラ五の時)とともに工事中の屋敷を出発。

 街中は速度を出せないが、街道に出たら速力を一気に上げて走行、時速50キロから60キロ(35ケール~40ケール:因みに速度計はケールを採用しているから、まぁ、米国産乗用車のマイル表示と思えばほぼ変わりないだろう。)くらいの速度が維持できた。


 このため、その日の正午頃には、フレゴルドに到着していた。

 折り返しだけならば往復も十分可能なようだ。


 フレゴルドの屋敷に行き、トレバロン、ラーナ、イオライナと会って、これまでの王都での動きと今後の動きを概略説明し、その日はフレゴルドの屋敷で泊ることにした。

 因みに三人の使用人にはこれまで通り、この屋敷を維持してほしいと頼んだのだが、彼らもできればお供をしたいと言い出した。


 彼らのひたむきな忠誠心を知っているからこそ、これはむげには断れない。

 それではと、その日のうちにフレゴルドの口入屋に顔を出した。


 仮にいい人が居なければ次回まで、トレバロンたちをそのまま屋敷に置いておくつもりだったが、幸いにも夫婦で借金奴隷に落ちた信用のできる人物が見つかった。

 旦那も奥さんも死病と言われる肺病を患っていたが、そんなものは俺には何の問題も無い。


 白金貨三枚で二人を受けだし、屋敷に戻ってから治癒魔法を発動し、二人の身体を正常に戻した。

 この夫婦者には、年額白輪金貨六枚の報酬でフレゴルドの屋敷の維持整備をお願いした。


 維持経費の必要経費として白金貨5枚を託すと、旦那のショーン・ムリャードが驚いていた。


「出会ったばかりのモノにそんな大金を託すなんて、軽率ではございませんか?」


「貴方と貴方の奥さんは信用のおける人物として僕が買い取りました。

 貴方がもし自分に信用が持てないとおっしゃるのなら、この金を預けるのは止めましょう。

 ですが、少なくとも自分で信用してもらうためにこれから頑張ろうと考えているならこの金を預かってください。

 この金はある意味で貴方々の試金石なのです。

 この屋敷には然るべき金庫もあって保管もできます。

 まぁ、持ち逃げもできますがね。

 でも信用を失えばそれでおしまいです。

 一時的に裕福になっても後が続かない。

 それよりは一定の収入を得ながら、お二人でこの屋敷を守っていただけませんか。

 私は時折、この屋敷に戻ってくることが有るかもしれません。

 そうたびたびの事ではないでしょうが、年に一度か二度はあるかもしれません。

 その時は一夜の休息とともに奥様の手料理などを食べさせてください。

 私の希望はそれだけですが、いかがでしょうか?」


「わかりました。

 死病に取りつかれた私たちを助けてくれた大恩人の御主人様のために、この屋敷を誠心誠意守らせていただきます。」


 こうして、ショーン・ムリャードとその妻カリンがフレゴルドの屋敷の管理人となった。

 その夜は使用人たちが自分たちの荷物をまとめるのに大忙しだった。

 

 まあ、インベントリに収納できるけれど余り余計な荷物は持って行かないようお願いした。

 フレゴルドでは冒険者ギルドと錬金術・薬師ギルドにも挨拶をしに行った。


 1年に一度か二度は来ることがあっても今後の生活の中心は王都若しくは領地になる。

 従って中々に顔を出せないことになるし、特に錬金術・薬師ギルドについては約束の納品が難しくなる。


 だが、錬金術・薬師ギルドからは場所が変わっても、その地域を管轄するギルドに引き続き納品をお願いしたいとの依頼があった。

 そのために王都及び領地の錬金術・薬師ギルドには回状を廻して置くとのことだった。


 そう言えば余り錬金術・薬師ギルドには貢献していなかったから、領地ではできるだけ俺が造ったもので差しさわりの無い物を選んで納品してやろうと思った。


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