3-17 王都滞在中の出来事 その十三(第一の除霊)

 翌朝、まずは貴族街にある魔石・宝飾販売のお店に行きました。

 もちろん資金の確保のためです。

 

 商業ギルドよりも貴族街にあるお店の方が高値で買い取ると言う耳寄りな情報を得たからです。

 情報元は、エカテリーナ・アーマレイドさんです。


 色々な情報をお持ちなので、今後ともお付き合いさせてもらおうと思っています。

 あ、エカテリーナさんって、結婚して二人の子持ちですからね。


 変な意味合いでのおつきあいではないので念のため。

 現在ラングレイ魔石・宝飾店において店主と直接交渉中です。


 正直なところ魔石の値段なんて素人にはわからない筈なんですが、そこはそれ、鑑定能力があるので市中での価値がある程度わかっちゃうのです。

 大ぶりの魔石三個を提示して値をつけさせましたら、市価の半値でした。


 勿論、俺からは滅多にない代物であると反論して、九割の値を提示。

 店主さん尊大にもそれでは商売になりませんと六割の値を提示してきました。


 止む無く俺は八割五分の値を提示、これが譲れる最低限度ですと言うと、向こうもさる者引っ掻く者です。

 シレッと七割程度の額を提示して、これ以上の値ではお引き受けできませんと言った。


 仕方がないので俺も最終兵器を出すことにする。


「そうですか・・・。

 私の提示したお値段でも、オタクには随分と利があるはずなんですが・・・。

 では、オタクとはご縁が無かったということで、この三つの魔石は、20日後に開催されるオークションにかけることにしましょう。

 1割の手数料を引かれても、オタクの提示した値段よりははるかにましな値段で売れる筈ですからね。

 オタクもオークションに出られるのでしょうけれど、いくらの値が付けられるか楽しみですな。」


 店主はサッと顔色を変えた。

 王都のオークションでは貴族や大金持ちの商人でもが集まるし、国外の宝飾店も集まる。


 少なくとも目の前にある三つの魔石は、店主もここ20年程はお目にかかったことのない逸品で、十分に高値が予想される。

 店主の予想では市価の5割増し程度にはなるのではと胸算用をしていたのである。


 それをむざむざ他所に横取りされては堪らない。

 店主は、何とか取り繕いながらも、俺が提示した八割五分の値段での買取を了承することを告げてきた。


 商談成立である。この商談で俺は紅白金貨52枚と白金貨4枚を手に入れた。

 まぁ、20日後のオークションに出品すればもっと高値が付くのはわかっているけれどね。


 フレゴルドに留守番で待っている者もいるから、そんなに王都に長居しては居られない。

 上手く行けば、紅白金貨二枚で8万ベード以上の広さを有するお屋敷が手に入るし、残りの金額で十分に屋敷の修理や整備は可能だろう。


 恐らくは陞爵に合わせての報奨金も多少は当てにできるとは思うのだが、マッケンジー不動産が値を付けた屋敷が買えるほどの報奨金が貰えるかどうかは不明だな。

 まぁ捕らぬ狸の皮算用だから、当てにしないでおこう。


 昨夜のうちにアルノス幼女神様には、二つの祟り屋敷の話をして、除霊について内諾を得ている。

 アルノス幼女神様曰く、


「前にも申したが、基本的に、わらわは下界には手を下せぬのじゃ。

 色々、下界にとってまずいことが起きていてもそれはお主を含めた下界に居る者で対応してもらうしかない。

 本音を言えば、いずれも妾の心を痛めていた事案であることは間違いない。

 それでも妾は見守るしかできないのじゃ。

 リューマよ、これからも頼みにするぞ。」


 こっちから内諾を求めたのに、何か幼女神様から逆にお願いされちゃったっぽいね。


 ◇◇◇◇


 ラングレイ魔石・宝飾店で資金を入手した後、エカテリーナ・アーマレイドさんの案内で最初に元ダンケルガー辺境伯の屋敷に向かった。

 物々しいことに元辺境伯邸の敷地を境に聖属性魔法の結界が張られており、たたりが屋敷の外に出ないようにしているようだ。


 この辺は流石さすがに王都だ。

 放置されたまんまのフレゴルドのお化け屋敷とは大分対応が違う。


 外から見た限り屋敷内は鬱蒼うっそうと植物が生い茂った密林を呈しており、長年手入れがなされていないことをうかがわせる。

 マッケンジー不動産の保有していた子爵クラス(番頭の主張)では建物が敷地外からも見えていたが、この屋敷は樹木の陰になって建物が全く見えない状態だ。


 で、俺はエカテリーナさんの承諾を得て、除霊のために邸に入り始めた。

 事前の索敵では、屋敷かと思われる二階の一室に色濃く闇の気配があるほか、邸内各所に魔物ではないかと思われる気配があるのだ。


 なんかこれって、祟りの影響か何かで、闇の魔素溜まりができて、ダンジョン化し始めているのではなかろうか?

 例によって、俺の周囲には多重結界を張っている。


 エカテリーナさんには敷地外の安全な場所で待機して貰っている。

 正門に絡みついている蔦類の植物を切り離すところから盛大な妨害が出始めた。


 家屋の二階に在る存在が深紅色で敵愾心てきがいしんあらわにしているのがわかるし、周囲から雲霞うんかの如く黒い霧の様なモノが一斉に湧き出て、俺の結界にぶち当たり、消滅して行く。

 そのついでのようにうねうねと植物も襲い掛かってきた。


 魔物化した植物は枝も葉も根までも動くから、結界の外は枝やら根やらが絡み合って襲い来るような凄い有様である。

 固い筈の太い枝や根が、むちのようにしなって唸りをあげて結界にぶち当たる。


 まぁ、音も凄いし、威力も相当なんだろうけれど、結界に当たるとすぐにヘロヘロになるのはフレゴルドの場合と同じだね。

 でも、普通の人がこんな場所に居たならすぐにミンチにされるのは間違いない。


 フレゴルドの化け物屋敷の時と違い、蝗魔こうまの大量討伐の所為せいもあってか、俺の魔力もかなり増えたから、結界の範囲を十メートル以上にまで押し広げると、バキバキ音を出しながら樹木や草が後退する。


 因みに俺のステータス昨夜久しぶりに確認したら、かなり跳ね上がってしまっている。


名前 リューマ・アグティ

種族 ヒト族

年齢 17歳(23歳)

性別 男

職業 冒険者E

錬金術師-Ⅲ

薬師-II

  エンチャンター-II

レベル       127

HP(生命力)    1780

MP(魔力)    65324

STR/Strength(筋力)     375

DEX/Dexterity(器用さ)    536

VIT/Vitality(丈夫さ、持久力) 408

INT/Intelligence(知性)  702

MND/Mind(精神力)  299

LUK(運)    41

AGI/Agility(敏捷性)  294

CHA/Charisma(カリスマ、魅力)29

言語理解    5(統一言語ほか)

【スキル】

 剣術       LV4

 槍術    LV2

 棒術    LV2

 格闘術      LV8

 弓術    LV4

 生活魔法    LV6

 鑑定術    LV12

 隠ぺい術    LV10

 射撃術    LV12

 隠密術      LV4

マップ・探索術 LV14

 エンチャント  LV4

 治癒魔法   LV6

 亜空間魔法   LV8

 スキルコピー  LV4

 宮中儀礼    LV2

 舞踏術     LV2



【ユニークスキル】

 錬金術   LV26

 魔法創生 LV20

 インベントリ LV10

【魔法属性】

 火 LV10

 水 LV13

 木 LV13

 金 LV11

 土 LV14

 風 LV14

 光 LV11

 雷 LV8

 聖 LV9

 闇 LV5

 無 LV15

【加護】

 アルノス神の加護(アップ率上昇)

【称号】

 魔弾の射手

 冒険者期待の星

 錬金術師期待の星

 薬師期待の星

 黒飛蝗の天敵


 レベルやHPの上昇も凄まじいが、特に魔力の跳ね上がり方が凄い。

 黒飛蝗襲来前の90倍近くになっている筈だ。


 何でこんな数字になったかはわからない。

 多分、数億以上もの蝗魔の討伐が影響しているんだろうとは思うが・・・。


 他にもインベントリの中で亜空間を使ってコピー魔法をたくさん使ったからね。

 水属性と無属性魔法の伸びが高いのと、トルネードに雷と砂塵の合わせ技を使ったから、風、土、雷の上がり方も大きいな。


 ちょっと気が付きにくいけれど職業の欄「錬金術-Ⅲ」になっている。

 錬金術・薬師ギルドでは、ランク付けがあったけ?


 俺の記憶ではギルドの登録で特段ランク付けは無かったように思うのだが、或いは貢献度その他で待遇が変わるのかもしれん。

 錬金術師の場合、要は成果次第のところがあるからな。


 初級だの上級だの区別をつける必要も無く、出来上がったモノで判断すればいいわけだ。

 ま、そのうちに確認のためにギルドで尋ねてみようとは思っている。


 ステータスの話はともかく、今は呪いの館の制圧と説得だ。

 圧倒的に増えた魔力を使って、広域魔法で敷地内に聖属性魔法のシャワーを浴びせかけると、今までうごめいていた植物が一斉に清冽せいれつな青い光を帯びてしずまった。


 敷地の内側で蠢いていた植物とは別に、魔物化した動物も敷地内に居た様なのだが、それも何故かおとなしくなったようである。

 少なくともそれらの存在から敵意は感じられない。


 俺の脳内マップで深紅から鮮紅色に点滅しているのはダンジョンボスならぬ、ダンケルガー辺境伯の遺恨だけなのだろう。

 こいつは聖属性のシャワーを掛けた時点で、反発したかのようにより赤みを増して活性化している様な気がする。


 まぁ、相手が俺の話を聞いてくれれば何とかなるのだが、そうでなければ力づくになるヨネ。

 その場合、俺の力で強制的に成仏(?)させることができるかどうかは不明だな。


 駄目なら仕方がないから尻尾を蒔いて逃げ帰るつもりでいる。

 で、俺はついに朽ち始めている屋敷の中に入り、二階の一部屋に辿り着いた。


 そこに黒い塊のようなモノが居た。

 敵意は間違いなくこの黒いガス状の塊だ。


 アリスの時は魂そのものが幽体化して人型を形作っていた。

 俺はアリスの幽体をエクトプラズムと呼んでいるが、この黒いガス状のモノはエクトプラズムと言うには余りに闇に近づきすぎている。


 正しく悪霊なのかもしれない。

 それでも俺は呼びかけてみた。


『俺はリューマと言うものだけれど、目の前で、不機嫌ふきげん丸出しで怒っているのは、ダンケルガー辺境伯様で間違いないですかねぇ?』


 俺はできるだけ気楽な感じで念話と声で呼びかけた。

 すると念話で帰って来たね。


 聞き取りにくかったけれど、何かしわ枯れ声のイメージだね。


『我が屋敷に無断で踏み込んだのは何が目的だ。』


 そう言ってくれた。

 この分だと何とか話だけは聞いてくれそうだ。


『辺境伯様が無念の思いで亡くなられてから既に56年の歳月が過ぎました。

 貴方を無実の罪におとしいれたラインハルト子爵の系列の方は相次いで奇病で亡くなられたそうですが、これは貴方のなせる業でしょうか?』


『そうだ。

 殺しても殺したりぬ。

 あ奴の係累けいるいどもを一人残らず王都から消し去った。

 だが、憎きラインハルトだけは王都を逃れて何処かへ姿をくらませてしまった。

 そのうちに我が屋敷の周囲に結界が張られ、儂もこの屋敷内でしか力を及ぼすことができなくなったのじゃ。

 返す返すもエルマー・ラインハルトを殺すことのできなんだ事だけが残念でならぬ。

 56年か・・・。

 あ奴が生きていても既に86か87、もはや生きてはおるまいな。

 じゃが、それでは我の遺恨のみがこの世に残る。

 リューマとやら、せめて、あ奴の墓なりとも見つけて、骨を持ってきてはくれぬか。

 せめて骨にでも我が遺恨のたけをぶつけねば到底この怒りは収まらぬわ。

 斯様かようわしのところまで辿たどり着けたお主ならば、見つけられよう。

 さすれば、我はある程度は満足してあの世とやらに行ける。

 多くのあ奴の係累をあやめたが故に、儂の行く先はおそらくは天上界にあらずして地獄界になろうが・・・。

 頼む、我が最後の願い叶えてくれい。』


『いいですよ。

 貴方の最後の願い、聞き届けましょう。

 貴方が恨み続けたエルマー・ラインハルトは、名も変え、顔も変えて、商人として20年前に王都に戻ってきました。

 今現在は、王都貴族街の東にあるエリー街区でファルク・アシュロンという名で骨とう品店を営んでいます。

 過去の罪ではあるのでしょうけれど、彼の生き様は私にも賛同できません。

 貴方を抑えている結界のうち正門側の結界を外します。

 ですから、望むならば、貴方の復讐を果たしなさい。

 貴方ならばエルマー・ラインハルトを見分けられるはず。

 但し、復讐はエルマー・ラインハルトだけにお願いします。

 既に他の関係者は全て亡くなっていますから。』


『わかった。

 望むは、エルマー・ラインハルトの命のみ。

 其方に約束しよう。

 他には何も望まぬ。」


 俺は正門側の聖結界を外した。

 途端に黒い霧が猛烈な速度で動き出し、門を出てからまっすぐに東に向かって行ったのがわかった。


 そうして僅かに四半時も経たぬうちに、ダンケルガー辺境伯だった赤点が消滅した。

 その直前に念話だけが飛んできた。


『リューマとやら。

 ありがとう。

 我が悲願は成就した。

 さらばじゃ。』


 こうして取り敢えず元ダンケルガー辺境伯邸の除霊は済んだ。

 元ダンケルガー辺境伯邸の購入は間違いなく出来そうである。

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