2-20 新たな試みとホブランド第六日目

 30分ほど後、俺は新たな可能性を見出すために、魔法創造で魔法伝導率の高い物質を作り上げるための考察を行っていた。

 トレントの構造は、錬金術師の試験を受けた際に手に取っていたから承知していた。


 ドライトレントは、トレントを伐採して少なくとも10年は乾燥状態に置いた素材である。

 これがために素材の繊維が乾燥するに従って、素材は曲がり、狂い、変形する。


 そうして素材がもうこれ以上は変形できないまで変形しきった時に魔力がその繊維を通りやすくなるらしいのだ。

 トレントの素材そのものが元々魔力を通しやすいと言われているが、変形し終わった際には伐採時の2倍から3倍の魔力を通すことができると言われている。


 一方でオールドトレントはトレントの亜種である。

 トレントが白色を呈するのに比べ、オールドトレントは黒に近い紫を呈する。


 そうしてこの濃い紫のトレントが魔力を最も通しやすいトレント素材らしいのだ。

 ドライトレント同様に乾燥させて出来上がる素材が、オールドトレントと呼ばれる特殊素材であるようだ。


 無論俺は文献で読んだだけであるから現物を知らない。

 電気というやつは伝導体の表面を伝わると聞いているが、魔力はどうも素材の内部を通るらしい。


 そう、書籍に記載されていた。

 電気や魔力が何たるかを良く知らない俺としてはその情報をうのみにするしかない。


 実際に魔力を発動させるために体内で気を練る場合、頭部から腹部へと気を回し、循環させるようにする。

 あれは決して体表面ではなく体内で練っているのだ。


 であれば魔力が素材内部を通過すると言う説は頷けるのだ。

 そうであるならば樹木の繊維がそれに加担するのだろうか?

 何となれば樹木の繊維は多孔質の管のようなものだからである。


 管の内表面を伝わるなら魔力の通過度合いは管内部の表面積若しくは管の直径の増減に関わるものとして理解できそうに思えるが、それではトレントやオールドトレントと言った素材の特殊性を理解できない。

 仮に内部繊維の多孔質管ではなく隔壁である細胞内を伝わるのであれば、単純に水分を極限まで減らした場合に魔力が伝わりやすい現象も何となく納得できることになる。


 植物における魔力伝導体は水分が多いと障害になるものの、極微量の水分の存在が不可欠なのかもしれない。

 水分を全く無くしては駄目で、何らかの理由で適切な水分が残されていれば伝導率が上がると言うことではないだろうか。


 俺は普通の木材を幾種類か素材屋から買い集めて実験をすることにした。

 「水」属性魔法を使って実験に使う木材の水分を徐々に減少させるのである。


 伝導率が最も高い水分量を厳選すればドライトレント若しくはオールドトレントに匹敵する素材を選べるのかもしれない。

 俺は魔力を通しやすい植物を4種類ほど集めて実験をした。


 ほぼ徹夜状態で実験をしてニセアオカシの素材が、ある特定の水分量の時に急激に魔力伝導率が通常の百倍ほどに跳ね上がることがわかった。

 ニセアオカシのこの段階では、ドライトレントの伝導率の数倍を示していたのである。


 正直なところオールドトレントがどれほどの数値を示すのかはわからないが、現状で手に入れられる最上の素材を入手できたことは確かである。

 そうしてこの水分量をそのまま維持するために、俺は「木」属性魔法によって細胞ごとの固定化を成就させた。


 これにより当該ニセアオカシは、仮に水中に置かれても水分含有量が変化することはなくなった。

 その上で、次なるステップに踏み出すことにした。



<ホブランド第六日目>


 しかしながらここで邪魔が入った。

 徹夜でほとんど寝ていないと言うのに、4階のお姫さんから呼び出しがかかったのだ。


 止むを得ず、顔を洗い、多少伸びて来たまばらなひげを剃ってから、身だしなみを整えて4階の部屋に向かった。

 俺が部屋に入ると室内には見慣れた一行のほかにも数名の知らない人達がいた。


 身なりから見て代官所の人たちではなさそうだ。

 とすれば王女さんたちが要請していた応援の調査隊の一員なのだろう。


 そうして俺の推測は当たっていた。

 王女さんたちは、明日の早朝王都に向けて出発するので、俺に別れの挨拶と共に、今回の俺の活躍に応じた恩賞を与えるために王都まで来てほしいと言ったのだ。


 俺は報償を目当てに助けたわけではないから、丁重な言葉でご辞退申し上げたのだが、まぁそれではゆるしてもらえなかった。

 おそらく報償手続きに1か月はかかるだろうから、王女さん達が出発して一月後に王都へ向けて旅立って欲しいと言われたのである。


 形式上はお姫さんのお願いだけど、実質命令に等しいわなぁ。

 断れるわけないじゃんか。


 俺は止むを得ず了承した。

 となれば明日の早朝、お見送りするのが下々の者の義務なのだろうなと達観たっかん(多分諦観ていかん?)してしまったよ。


 王都から来た偉いさんにも紹介され、なんだかんだとおしゃべりしている間に昼の時間となり、そのまま、宿近くのレストランに連れて行かれてお食事タイムとなった。

 まぁ、以前は商社勤務でござんしたからね、接遇には多少なりとも慣れてはいますけれど、やっぱり偉いさんと一緒だと気を使うんですよね。


 招かれた方が気遣っちゃいけないとは思うんですけど、本当に疲れます。

 結局、午後も二の時近くまで拘束されてようやくおはなちと相成りました。


 俺は疲れてそのまま宿のベッドにゴールイン。

 夕食までひたすら爆睡しました。


 夕食を食べた後、魔核の融合を慎重にやってみました。

 それこそ脳内マップのCTスキャンまで活用して、俺の魔力を双方にじわじわとかけつつ、融合のための調整を図ってようやく出来上がったんです。


 元の魔核よりも少し大きいくらいなのだけれど、重量は増えている。

 体積は二個分よりもかなり減ったのだけれど、二個分の重量になったようです。


 そうして出来上がった魔核は狙い通り両方の性質を併せ持っていました。

 で、ニセアオカシの木を加工して所謂魔法使いの杖を造りました。


 魔核は杖を持つ握りの部分に埋め込んでいます。

 そうして試しに結界を張ってみたらできましたねぇ。


 「聖」と「光」の結界だ。

 淡く青白く光る結界は魔核を中心に半径1m80センチほどの球形を保っている。


 一旦結界を張ると、俺からの魔力供給は不要で、放っておけば魔核の魔力が切れるまで張りっぱなしになるし、勿論のこと、結界を切ることも任意の大きさに変えることも可能だ。

 これで一応準備は済んだけれど、お化け屋敷での実地試験の決行は、例の詐欺師の反応次第になるだろうな。

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