幽霊の彼女と、料理のこと

 蛇腹と化したタマネギをつまみ、眉根を寄せる。


「……うん」


「すみません……」


 れいは両手で包丁を持ってまごついている。怖いからまな板の上に置いてほしい。


「令って、米を洗剤で洗うタイプ?」


「えっ……お米って洗うものなんですか?」


 まずはそこか。私は思わずため息をついた。


 幽霊として同棲しはじめた彼女にたまに昼食の用意を手伝ってもらっているが、とてもひどい。


 生卵を親指で貫通させたり、調味料をいつも適量(全然適してない)にしたり、手を添えずに材料を切ったりする。


 焼くのは流石に難しいと思って任せたことはないが、おそらく油を敷かずに焼いたりするのだろう。


 学校での令は優等生だったこともあり、このことを知った時は意外だった。彼女なら、もっと上手くこなせるものだと思っていた。


「あとは私がやるから。先に席ついてて」


「やっぱり、ダメですか……」


「私の方が勝手を知ってるからってだけ。別に令がどうとかじゃないよ」


 令はがくりと肩を落としながら、リビングへと向かう。


 優しく言ったつもりだったが、相当気にしたみたいだ。申し訳なく思いながら、いつものように料理をこなす。


 令もいなくなり、一人で手早くオムライスとサラダをちゃちゃっとこしらえていく。冷蔵庫からケチャップを出し、適当にかけようと蓋を開けたところでひとつ思いついたことがあった。


 彼女にも、できることがあった。


 ケチャップを脇に抱えて、オムライスとサラダの皿を持っていく。テーブルでふてくされながらスケッチブックに絵を描いていた彼女に、オムライスとケチャップを差し出した。


「なんか描いて」


「……いいんですか?」


「そっちは上手いでしょ?」


「まあ……」


 彼女は満更でもないまま、容器を手に持った。


 オムライスに、かわいいぶち猫の絵が描かれていく。


 完成すると、令は自慢げに鼻を鳴らした。


「ハートじゃつまらないと思って」


「かわいい……」


 そのまま食べるのがもったいなくて、スマホで写真を撮る。撮り終えて席に着いた時には、彼女の顔に笑顔が戻っていた。


「料理もこれから頑張りますね!」


「いや別に……作ったって、令が食べるわけじゃないんだから」


「いやでも、居候の身ですし——」


「別に困ってないよ。だから、令は漫画の方を頑張って」


「……はい」


 私が言うと、令は少ししょげた様子で、手に取ったスケッチブックでまたなにかを描きはじめた。



ツイッターの方で何か書けるかなと思って書いてた感じのSSです。


こっちではたまに『死んでしまったわたしと〜』のキャラを中心にこういうのをやっていこうと思います。(時系列的には続編『死にたいわたしと〜』に近いものが多めになりそうですが)

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