第1話 過去編1
親兄弟の顔なんか遠い昔に忘れた。
5歳の秋、誕生日は雪の降り積もる冬の時期、11月頃と記憶している。が、詳細な日数までは思い出せない。
故に11月の月初めは何時も金持ちの家に忍び込んで旨い物をたらふく食うのが定番である。
秋に入ったら準備を開始する。
金持ちの家は相応に金をかけた警備体制が待ち構える。
そんな警備の穴を潜るのだ、一朝一夕の準備で足りる筈がない。
予め家の弱点を探して侵入経路を入念に組み立てるのは必須事項と言えるだろう。
「今回はこの家にするか……」
そんな準備の初日が今日である。
1年間の中で唯一の大きなイベント、この時だけは人生に小さな楽しみが生まれていると思う。
思うに金持ちから言わせたら俺なんてゴキブリと大差のない虫けらなのだろうな……
だが、それでも良いんだ。
俺は俺のために生きてるんだから。
他人に求められたい奴なら堪えがたいのかも知れないが俺に関して言えば興味のない内容だ。
さて、そろそろ点検を始めようかな……
「先ずは固くて頃い部分の探索だ……」
俺は家の壁に走って距離を積め、壁に張り付く。
次に中の声を便りに聞こえない場所から回り最低でも五ヶ所の脆い場所を見付けたい。
壁が脆ければ侵入時の穴として小さな物を作ることが出来る。
声のしない場所を転々として三時間、三ヶ所を発見できて満足、とは言えないまでも初日の成果よ考えれば悪くない。
今日は場所を完璧に覚えて帰り、後日からは同時進行で侵入経路の確保と内部の移動頻度なんかを測定する予定だ。
11月の1日
何度も経路は確認した。
食料庫への最短ルートも内部での動きも完全に把握できている。
中から音は鳴っていない……
「侵入開始だ…」
呟いて小さな穴から内部に侵入、廊下を無音で直進する。
数ヵ所の通気孔中の1つに蓋を開けてからのカウント僅か3秒で内部に滑り込み蓋を締める。
曲がりくねった道も感覚と記憶を便りに最短ルートを進み続けた。
そうすると直ぐに食物庫の真上に到着した。
直ぐ周囲の状況を確認して内部に侵入した。
食物庫は、ま~寒い。
外が冬じゃなく夏であれば温度差で体調が可笑しくなっていたのでは?と本気で疑うほどに寒い。
流石に手足の俊敏性を失うのはキツいから整理された段ボールを一つ一つ開けて中身を確認、目ぼしいものを服の中に積めて通気孔を通り外に出ようと道を進む。
直ぐについた出口を脱出して家を裏側から出る。
何時もの糞みたいな臭いが仕切りに鼻を撫でる始めてだったら1発で吐きそうな臭いの寄り合い所に到着した。
俺の段ボールを出してきて周りとの簡易的な壁を作り、持ってきた物を腹部から取り出す。
持ってきたのは何れも調理済みの肉や野菜、一年ぶりに食べる柔らかいパンの三種類だ。
先ずは包みの袋を引き裂いて肉を出す。
先ずは味見からだな……
「んん~♪」
つい大きな声を出してしまう程に旨い。
臭いが段ボールの壁を通過し他の奴に張れるのもヤバイから極力注意して食らいつく。
そんな俺の段ボール前に誰かが居るのにも気付かず。
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