魔術師見習いの冒険記

福田点字

第0話 旅へ

不思議と涙が滴り落ちる。

飲んだくれで教えるのが下手だからか知らないけど俺に強力な魔術を教えてくれなかった糞頑固な師匠……

そんな師匠が、何の前触れもなしに息を引き取った。

元々は糞溜めみたいな場所から楽しそうに生活する奴等の物を盗んでなんとか生活していた俺に盗み以外の生活を教えてくれたのが師匠だった。

何も恵まれたものの無かった俺だが、師匠に言わせれば魔術の適正ってのが普通よりも高かったらしい。

だから拾われたし育てられた。

そんな師匠の死に、本当なら誰も悲しんだりの必要なんて無かった。

師匠は家族も肉親も既に居ない、と聞いた。

その話をしていた師匠は悲しそうな顔で「俺が死んで悲しむ奴が居てくれるんなら嬉しいんだけどな」と引き吊った笑いを俺に向けた。

その時、俺は何て言ったんだっけ?

ああ、そうだ……

「ジジイが死んでも悲しんでやらねぇし俺!」とか言ってたんだっけな~?

もう3年前か、俺も12の頃だよな……

悲しんでやらねぇし、か……

「誰が言ってんだよ、泣いてんじゃん…!」

震える体で細い、枯れ木の枝みたいに萎びた弱々しい手を握る。

何時も感じていた温度が消えるのを感じてしまって、自分を苦しめるように唇を強く噛む。

昔からの癖だが、泣くと唇が裂けるくらいに噛み締めるって癖があった。

見かねた師匠が「うわ~痛いだろ、ソレ…?」とか言うもんだから構って欲しかったのか知らないけど思いっきり噛んだりしてたな……

………うん。

「何時までも悲しんでたら、笑われ、ちゃうもんな…!」

踏ん切りがついた訳じゃない。

訳じゃないが、俺は師匠……

いや、ジジイが大好きだったアルコール度数の異様に高い酒をコップに注ぐ。

前に飲んだときは喉が焼け爛れたかと思ったよ。

痛かったし苦しかった。

でもソレ以上に、毎日がひたすら……

「楽しかったな~ジジイ…!」

涙は流さない。

無理矢理に奥へ引っ込めて笑いながら……

酒を口に流し込む。

「はあ、苦いし、痛いし……何が旨いんだよこれ?」

涙目なのはコイツの仕業か…?

そうだろうな、たぶん。

「俺さ、成人したらさ、ジジイと酒飲み交わしてさ、ドンチャン騒ぎで毎日が騒がしくてさ、そんなのが夢だったんだ……」

ジジイの遺体、痩せ細ったミーラみたいな姿のジジイに語りかける。

当然ながら返事はない。

俺は手の酒を意地で全部飲みきり……

「ごっそ~さん…!」

言ってジジイの横に酒ビンとコップを入れて、俺を拾ったときに植えたらしいお粗末で痩せ細った今にも枯れそうな木の下に、そっと埋めた。

「じゃあな、師匠……」

数秒間、目を閉じて合掌すると俺は未練がましく木を見つめるのもダサいから……

後ろ髪を引かれつつも山下りの道に向かった。

師匠お手製の継ぎ接ぎだらけな鞄と服、大量の魔術書と師匠が愛用してた

大きな杖を持って。

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