第51話 セイラ

「どうしてここに……?」


 王都にいるはずのセイラがいるのか。驚くリシェルに対し、彼女はいつも通りの無表情で答える。


「ご主人様のご命令です。リシェル様をお守りするように、と」


「先生の……?」


 シグルトに言われて、王都からずっと自分について来ていたというのか。王都を出立して大分経つが、今までその気配はまったく感じられなかった。


 それまで、ディナとパリスに攻撃を続けていた魔物が、何かを感じたかのように、リシェルたちの方へ向き直る。新たに現れた黒い服の女の姿を認めて、唸り声を上げた。その背の蛇たちがにょろりと伸びると、一斉に彼女に向かって行った。


 息を呑むリシェルとザックスを背に守りながら、セイラはそれらをすべて、手刀で一匹残らず叩き切った。その動きは速すぎて残像しか見えないが、ぼとぼとと蛇の頭が地面に転がっていく。


「ちょっと! あれ、シグルトの家のメイドじゃない!? 素手で魔物ぶった切ってるんだけど! 何者よ!?」


「僕も知りませんよ!」


 ようやく魔物の攻撃から一時解放されるも、予想外の事態にディナとパリスは戸惑う。


「セイラ? あなた一体……?」


「リシェル様、ここから逃げてください」


 セイラは無感動な声でリシェルに一言告げると、ためらうことなく真っすぐに魔物に向かって走り出した。


「セイラ!?」


 リシェルの呼びかけにも駆ける足を止めない。肩で切り揃った茶髪と黒いスカートが、風を受けて翻る。

 魔物を見据える藍色の瞳孔が、爬虫類のように細まった。


「――ご主人様、姿を戻すご許可を」


 セイラの呟きに呼応するように、彼女の全身が強烈な白い光に包まれた。その光はみるみる膨れ上がり、魔物と同じ大きさにまで膨張する。その激しい輝きに、魔物は怯んだように後退した。地を這い、騎士団に襲いかかっていた蛇たちも、眩い光から逃れようとするかのように周辺に散っていく。戦っていた兵たちは突如現れた光源をただ唖然と見守った。


 その場にいた生き物全てを圧倒する光が消えた時、そこにいたのは一匹の竜だった。長い尻尾まで、全身を覆う硬い鱗は夜を思わせる深い藍色で、日の光を受け金属のように光っている。その爪と牙は、狼のそれより鋭利で、赤い目はより禍々しかった。体の大きさは目の前の魔物と大差ないが、その背に生えた皮膜を持つ大きな四対の翼が、格の違う威圧感を漂わせる。


 その特徴ある姿に、ディナが声を上げた。


「八枚の翼……まさか……ラメキアの魔竜ヴァルセイラ!?」


 かつてラメキア渓谷に棲んでいた魔竜ヴァルセイラ。魔物の中でも飛び抜けた魔力と、人間以上の高い知能を持ちながら、長い時を生きる中で徐々に理性を失い、無暗に人間や他の生き物を襲うようになったという。焼き尽くされた村や街は二十を超え、その討伐に向かった騎士団や魔道士たち数百名は皆帰らぬ者となった。一匹の魔物による被害としては過去最大であり、ヴァ―リス王国始まって以来の厄災ともいわれた。


「そんな……十五年前にシグルト様が倒したはずじゃ……」


 パリスはすぐには信じられなかった。この国中を震撼させた恐るべき魔竜は、当時十三歳だったシグルトが、オルアン導師の弟子となって初めての任務で、たった一人で討ち取った。シグルトの名が国中にとどろくきっかけとなった、誰もが知る事実だ。


「なるほど……あいつ、ただ倒しただけじゃなく、服従させて自分の使い魔にしてたのね……」


 魔道士は時に魔物を使い魔として使役する。その方法は二つ。相手が知性ある魔物ならば、双方合意の上で主従契約を結ぶ。知性がない魔物、あるいはヴァルセイラのように理性を失い、対話不可能になった魔物の場合は、ただ力でねじ伏せ、魂を縛り、強制的に従わせるしかない。後者の場合は、当然魔道士の力が魔物を圧倒している必要がある。

 ディナは乾いた笑みを浮かべた。


「で、あれにお掃除洗濯させてたってわけか……まったく、誰が化け物なんだか……あいつを法院から追い出せるのはいつになるかしらね……」


 あの天才アーシェをして敵わないと言わしめた、彼女の師。いつか自分があの男を越えて、親友の復讐を遂げることができる日が、果たして来るだろうか。


 魔物は唸り声を上げて、現われた新たな敵へと向かって行く。魔竜もまた地を震わせるような咆哮で応え、牙を剥いた。その牙が狼の首元に食い込むと、狼の背からするすると伸びた蛇たちが竜の首に絡みつき、本体から引きはがした。今度は竜の首へ、お返しとばかりに狼が食らいつく。竜は自身の首を力任せに振り、噛みつく狼の体を地に叩きつける。狼の牙と蛇の戒めから解放された竜の首に、今度はさそりの尾の鋭い先端が突き立った。


「でも、あの魔物と互角か、やや押されてるわね。ヴァルセイラの方が本来は強いと思うけど……シグルトと距離が離れているせいで、大分力が落ちてるみたいね」


 ディナは冷静に分析する。使い魔となった魔物は、主と物理的な距離が離れれば離れる程、力が弱まる。これは術者が使い魔を遠距離でも制御するために、魂の拘束を強める必要があり、その結果として起こる制限だ。伝説の魔竜と言えど、使い魔となった以上この制約は免れられない。今のヴァルセイラでは、あの魔物に楽勝というわけにはいかないだろう。


 とにかく今は魔物を倒さねばならない。シグルトの使い魔と共闘するのは、憎い男の力を借りているようで面白くなかったが、ディナはパリスに促した。


「パリス! 私たちであのメイドドラゴンを援護するわよ!」


「はい!」


 二人の魔道士は、再び魔力を生み出すべく、集中を始めた。

 








「――――!」


 ブランは異変を感じて、勢いよく立ち上がった。腰かけていた執務机の椅子が後ろへ押され、倒れそうになる。


「結界が……弱まった?」


 王都の周りを取り囲む巨大な結界。あらゆる魔物の侵入を阻み、王都への魔法攻撃を防ぐ。また、王都防衛に当たる魔道士たちの魔法の威力を強化する働きもある。この国防の要とも言える守護結界は、エテルネル法院の六導師が、結界を作る魔道装置に四六時中魔力を送ることで維持されていた。魔力を供給するため、導師たちは常に王都内にいる必要がある。


 その結界が今、弱まった。

 考えられる原因は、六導師のうちの誰かの死亡。もしくは、誰かが王都を離れたこと以外にあり得ない。


「――――シグルトか!」


 ブランはすぐに察した。おそらく、リシェルの身に何かがあったのだ。セイラでも対処が危うい事態が起こったのだろう。

 それで弟子のこととなるとなりふり構わない友は、導師としての最重要責務を放り出して、すっ飛んで行ったに違いない。 


「あの馬鹿っ! 大問題になるぞ!」


 ブランは頭を掻きむしると、事実を確認すべく、天の塔へと急いだ。結界に異変があれば、導師は結界の発生装置のある天の塔に集まる決まりだ。


 法院の中央に位置する塔の前には、既に他の導師たち――ヴァイス、ロゼンダ、ルゼル、ガームの四人が集まっていた。

 ブランの姿を認めると、ヴァイスが口を開く。


「王都の結界が弱まったことは皆さんお気づきになられたと思いますが……さて、ここにいらっしゃらないのはシグルト導師だけ。彼が亡くなられたとは考えにくいですし、どうやら王都を離れられたようですね。……ブラン導師。何か聞いていらっしゃいますか?」


「……いや」


 ブランは首を振った。友を庇うため、どうにか誤魔化す方法はないかと頭を絞るが、何も思いつかない。せめて行く前に一言、自分に相談してくれていれば――本当にあの男は、リシェルのこと以外、どうでもいいのだ。職務への責も、自身の地位も、心配してくれる唯一の友も、愛弟子が危ないとなれば、頭の中に浮かびもしなかったのだろう。


「ふふ。お弟子ちゃんが恋しくて、我慢できずに会いに行っちゃったのかしら。シグルトも可愛いところがあるじゃない」


 ロゼンダが赤い唇から白い歯を覗かせ、くすくすと笑った。


「可愛いで済まされるか。導師会議と国王の了承なしに勝手に王都を離れたんだ。王家より託された結界維持の役目を放棄するなんて、前代未聞だぞ」


 応じたのはルゼルだ。その声も表情も、見るからに機嫌が悪い。だがブランと目が合うと、にやりと口元を歪めた。


「戻ってきたら、徹底的に責任追及しないとな」


(どうするんだよ、シグルト……)


 好戦的な眼差しを向けてくる少年に、ブランはこれから続くであろう波乱を予感して、早くも疲れを感じた。


「とりあえず、彼が抜けて弱まった分の結界の魔力は、我々で補強しましょう。王宮付きの魔道士もこの事態には気づいているでしょうし、陛下にご報告しなければ」


 冷静に今後の対応を提案するヴァイスの言葉に、集まっていた導師たちはそれぞれ自身の持ち場に戻っていく。


 残ったガームが、長い髭を手で梳きつつ、のんびりとした調子でブランに言った。


「ふむ、恋は盲目というやつかの。シグルトもまだまだ若いのぅ」


「あいつのせいで、こっちは老け込む一方ですよ」


 ブランはため息をついた。仕事だけでなく、こういう心労まで押し付けてくるのは勘弁してほしい。最近、本当に老けた気がする。なのに、その原因である当の本人は、魔力の影響だか恋してるせいだか知らないが、いつまで経っても若々しいままなのだから、腹も立つ。


 苛立ちを感じつつ、ブランはガームに一礼すると、他の導師たち同様、憎らしい親友が抜けた穴を埋めるべく、急いでその場を後にした。


 一人残された老人は、空を見上げた。青空を遮る結界は、導師一人分の魔力を失って、その輝きを弱めている。


「……ディナは貴方様のお役に立てませんでしたかなぁ」

 

 呟いて肩を落とすと、ガームはようやく歩き出した。








「ひゃは~、あの美人なメイドさん、ドラゴンだったんだ~」


 ザックスと共にリシェルがクライルのもとへ戻ると、彼は驚くというより、面白がるように言った。


「リシェルちゃんは知ってたの?」


「いえ……」


 リシェルは首を振る。四年間共に暮らした、有能なメイド。いつも無表情で、人間味に乏しいと思ってはいたが、まさか本当に人間ではなかったとは。その姿が変わる瞬間を目の当たりにしても、あそこで魔物と戦っている竜、あれがセイラだとはまだ信じられない。


「君を守るために、シグルトが寄越したわけか。愛されてるねぇ」


 クライルはにまにまと笑う。

 過保護なシグルトが、リシェルの任務同行を許したのは、こういうわけだったのだ。セイラを護衛に付けることで、なんとか自分を納得させ、リシェルに譲歩したのだろう。


「すげー! あんな強そうな竜まで操るなんて、やっぱ大魔道士様はすげぇや!」


 ザックスは足の傷も癒え、今は戦う竜を少年のようにきらきらした瞳で見上げている。魔物討伐の経験が幾度かあるとはいえ、竜は滅多に出会うことのない魔物だ。見るのは初めてなのだろう。それはダートンや、周りにいる兵たちも同様で、皆興奮した様子で騒いでいる。他の魔物に比べ、圧倒的な力と優美な容貌を持つものが多い竜に、物語などの影響で一種の憧れを持つ人間は少なくない。


 エリックは、一度森の中へ散ったが、光が収まり再び戻ってきた蛇たちを他の兵とともに、斬り捨てていた。

 その耳元で、突然低音が囁く。


――――エリック、今だ。ディナ達とあのシグルトの使い魔が魔物と戦っている隙に、娘をさらえる。


 ノーグの声だ。周辺に彼の姿はなく、この声は自分にしか聞こえていない。どこかで身を潜め、魔法で声だけ送っているのだろう。


――――俺も手伝おう。娘を森の中に誘導しろ。


 エリックは王子たちのいる方を見やった。何やら盛り上がる王子とザックスたちの傍で、リシェルは不安げな表情を浮かべている。


 狼と竜の戦いは激しさを徐々に増していく。互いの攻撃に耐えるため踏みしめる足が地を揺るがし、勢いよく振るわれる尾が周辺の木をなぎ倒す。その度、巻き起こる風とともに土や木片が周りに飛ばされ、人間たちは目に入らぬよう防御しなければならなかった。このまま戦いが激化すれば、巻き込まれて怪我人も出るかもしれない。


 エリックは決意を固めた。

 近くにいた蛇を仕留めると、他の騎士と兵たちに残りの蛇を始末するよう命じ、クライルたちの所へ駆け寄る。


「王子! ここにいると巻き込まれる危険があります。ここはあの竜とディナたちに任せた方がいい。森の奥へ避難してください」


「うん、そだね。もう普通の人間が出る幕ないよね。賛成~」


 部下の提案を、クライルは待ってましたとばかりにあっさり受け入れる。


「お前も来い」


「でも……」


 エリックに言われ、リシェルは戦っているセイラ、ディナ、パリスを見やる。あの三人を残して自分だけ逃げることにためらう。その腕にクライルがぎゅっとすがり付いた。


「行こ。リシェルちゃん。僕を守ってよ、ね?」


「……はい」


 クライルに先ほど言われたように、自分は戦いでは役に立たない。自分がここに残っても、出来ることは何もないのだ。


 リシェルは頷いた。その横で、クライルがエリックに向かって、にやっと笑って見せたのには気づかずに。






 リシェルはクライルに腕にしがみつかれたまま、森の中へ入っていった。ザックス、ダートン、それに他の騎士と兵数名が同行し、先導するのはエリックだった。


 明るい青空は木々の葉で覆い隠され、森の中は変わらず薄暗い。それでも所々落ちてくる木洩れ日で、前に進むのに支障はなかった。


 だが、しばらく進んだ後、異変は起こった。

 どこからともなく、白い煙が漂い始めたのだ。それはどんどん濃くなっていく。


「なんだこりゃ?」


 焦げ臭い匂いはしない。正確には、煙ではなくもやだった。


「霧……?」


 一行が戸惑う間に一気にその量を増したもやは、霧へと変わり、皆の視界を覆っていく。


「なんでいきなり?」


「くそっ! 前が見えねぇ!」


「おい、ダートン! どこにいる?」


 辺り一面白い濃霧で覆いつくされ、もう一歩先も見えぬ程だ。戸惑う兵たちの声だけが近く、あるいは遠くで聞こえる。

 不意に、リシェルの腕から温もりが離れた。


「クライル様……?」


 すぐ横にいたクライルの姿は消えていた。彼だけでなく、周りに誰も確認できない。


「クライル様!」


 呼びかけても、返事はない。


「ザックスさん! ダートンさん!」


 近くを歩いていたはずの二人への呼びかけも、空しく響くだけだ。いつの間にか、聞こえていた兵たちの声すらしなくなった。


 不安に駆られながら、リシェルは恐る恐る歩き出した。視界が悪い中、手探りで進む。腕を伸ばせば、自分の指先すら見えない。霧の中を仲間を求めて彷徨う。


「誰かいませんか?」


 突然、男の大きな手に腕を掴まれた。


「きゃっ!?」


 思わず悲鳴に近い声が漏れた。だが、次の瞬間、それは安堵の吐息に変わる。


「俺だ」


 低い美声に、リシェルの体から緊張が抜けた。


「エリックさん!」


 身体が触れる程近づかれて、ようやく霧の中からその美貌が現れる。


「一緒に来い」


「はい」


 リシェルは何の疑いもなく、首を縦に振った。

 はぐれないためだろう。エリックがリシェルの手を取った。そのまま無言で歩き始める。まるで霧など存在せず、目的地がはっきり見えているかのように、その足取りには迷いがなかった。


 リシェルは繋がれた手の温もりに、自分の心臓がとくんとくんと音を立てるのを感じた。子供の頃はシグルトとこうやって手を繋いで歩いたこともある。だが、今感じる手の感触は、しなやかなシグルトの手とはまるで違う。剣の訓練を重ねているせいか、その大きな手の皮膚は厚く、少しざらついていた。


 目の前を歩く、エリックの大きな背中は霧でかすんでいる。

 だが、不安はもう感じなかった。

 彼について行けば、大丈夫だ。

 



 クライルは、リシェルとエリックの気配が遠のくと、薄く笑った。彼はずっとリシェルの近くにいたのだ。だが、彼女の呼びかけを無視し、距離を保って様子を窺っていた。この霧を発生させた、ノーグに指示された通りに。


「どうする? シグルト。このままだと君の大事なお姫様が悪い奴に攫われちゃうよ?」


 言ってから、ふむと首を傾げる。


「いや、それとも……悪い魔法使いに攫われたお姫様が騎士に救出される……って展開なのかな。これは。さて、どっちだろ?」






 エリックに手を引かれ進むうちに、徐々に霧が晴れていった。だが、辺りを見回しても、一緒に森の中へ入った者たちの姿はない。完全にはぐれてしまったようだ。


 遠くで、狼と竜の咆哮や、木々がバキバキと折れるような音がする。戦場からはずいぶん離れたらしい。


 エリックは歩みを止めず、どんどん進んで行く。霧は晴れたというのに、手は繋がれたままだ。そのことにどぎまぎしつつ、リシェルは尋ねた。


「あの、エリックさん。クライル様たちはどこにいるんでしょうか?」


 迷いなく歩くエリックを見て、リシェルはてっきり彼には王子たちの居場所がわかっているのだと思っていた。だが、随分歩いているのに、王子たちの姿はないし、彼が周囲を探す素振りもない。


「……」


 エリックは答えない。


「エリックさん?」


 急にエリックは立ち止まると、リシェルの手を離した。離れた手は、剣の柄へと伸びる。


「……まだいたか」


 言葉と共に、剣を引き抜く。リシェルがエリックの視線の先を追うと、そこには5,六匹の大蛇が立ちふさがっていた。森の中へ逃げ込んだ蛇の生き残りだろう。口から赤く細い舌をちろちろと出し入れしながら、獲物である人間二人を見ている。


「お前は下がってろ」


 言われるまま、リシェルは数歩後ろへ下がる。彼の邪魔になってはいけない。

 地を蹴ったエリックに、蛇たちが一斉に襲いかかる。

 その攻撃をあっさりかわしながら、騎士の剣が一匹、二匹と次々に蛇の首を切り落とす。

 あっという間に残り二匹。勝負はすぐにつきそうだった。


 ガサッ


 背後で草木が揺れる音がして、戦いを見守っていたリシェルは視線をそちらへ移した。

 近くの茂みから、にょきりと一匹の大蛇が顔を出していた。


「きゃっ!」


 悲鳴に反応して、蛇が茂みから這い出し、リシェルに迫る。

 リシェルは慌てて後退り――――木の根に足をすくわれた。そのまま背中から後ろへ倒れこむ。


 後頭部に鈍い衝撃が走った。

 視界がぐわんと回る。

 何が起こったのかわからない。

 考えられない。

 思考が停止する。


「――――エレナ!」


 エリックの声が聞こえた気がした。

 意識が、途切れた――――


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