月のトンネル
内舎人
独り、車両にて
覚悟はしていたつもりだった。
それでも、いざ宇宙に取り残されると、死を思わずにはいられなかった。
「ここで死ぬのか、私は。」
月のトンネルで止まってしまった電車の中で、私は一人ごちる。
想定された故障のどれでもなかったと説明されたが、納得などできるはずもなかった。できるはずもないけれど、私に残された選択肢は泣き寝入りかもしくはこの1000キロのトンネルを歩くかの二択だった。
「やってらんないよなぁ、全く」
ガサゴソと鞄をあさる。食料は、どんなに節約しても3日、普通に食べてしまえば2日ももたないといった量だった。
はあ、と大きなため息をつき、気だるげに外を見やる。窓は小さかった。
綺麗だな。地球を見て思わず声が漏れる。
きっと今、ここのことで大騒ぎしているんだろうな。月面旅行を計画した会社のツイッターはどれくらい炎上しているだろうか。
「ざまみろっ」
割と大きめの声が出たが、この車両には誰も残っていないので、別に憚られもしない。
人間は死にそうであっても、暇だなと思う機能は失われないようだった。私が能天気なだけかも知れないが。
トラブルが起きてから、もうすぐ2日が経つ。混乱の際、乗客のほとんどはトンネルを歩いて戻るという選択をした。最後尾の車両に積まれてあった食料は運悪く燃えてしまい、人によっては少しも食料がなかった。
私はそのとき、混沌とした乗客達をやけに客観視してしまい、流れに流されるのはまずいという判断の下この場に残った。
しかし今になると、残るというのはあまりに日和った判断なのではないか、と思えて仕方がなかった。これは生存の放棄に他ならない。諦めなければ希望はあるはずだ、なんて陳腐な考えでやけにやる気が起きた。
私はその気持ちを胸に力強く立ち上がった。
出っ張った荷物置きに頭をぶつけた。
誰も見る人はいなかったが、恥ずかしかった。独りきりの車両で、荷物置きを睨んだ。
「ちぇっ、締まんないなあ」
私は電車を出た。
月のトンネル 内舎人 @wakahituzi0606
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