第19話 ハウンド、身を呈す

  ユウタは見た。


 OF-60の上に落ちた軽装甲車の車体の裏から火花が散っているのを。


 爆発する!


  ユウタはフワリの上に覆いかぶさった。


  軽装甲車が爆発し、人の命を、簡単に奪っていく炎と爆風が二人に襲い掛かる……筈だった。


 しかし、いくら経っても死の熱は訪れない。


  爆発しなかったのかと思ったが、耳は鼓膜を破るような爆発音を確実に捉えていた。


  一体何が……?


  顔を上げると、軽装甲車が落ちた所から炎が踊り、黒煙が曇った空に昇っていく。


  ユウタは違和感に気づく。軽装甲車と自分たちの間に透明ながいたからだ。


 それはまるで、壊れたテレビの液晶のように所々明滅し姿を現す。


  現れたのは流線型でシルバーのSUVで、ドアには、大きな盾を構え地球を守るように抱く騎士のエンブレムが描かれていた。


  それをユウタは知っている。


 CEFセフのシルバーハウンド。何でここに?


  先ほどのイベント会場で見かけたのは見間違いではなかったのだろう。


  どうやら爆風からユウタ達を守ってくれたようだ。


  更に驚くことが起きた。


  シルバーハウンドの左手側の前後のドアが開いたのだ。


  まるでユウタとフワリを受け入れるように。


  中には運転席に一人だけ乗っていた。


  黒い何処か狐に似た妖艶な雰囲気の黒いマスクで顔が覆われ、艶のない真っ黒なタイツのようなものを着ている。


  ほっそりとした身体つきと、形よく突き出た胸から見てどうやら女性のようだ。


  その女性がマスク越しに声を発した。


「二人とも早く乗って」


「え、でも……」


 助けてくれるの? でも僕達が乗ってもいいの?


 ユウタが躊躇っていると、女性が更に声を荒げる。


「ユウタ君、フワリと一緒に早く乗りなさい!」


 えっ?


  まるで刀のように鋭く冷たい声を聞いて、動くのを忘れてしまう。


  それに気を取られた事が結果的にユウタ達の命を救う結果になった。


  巨大な拳に殴られて、シルバーハウンドが宙を舞う。


 ユウタの視界の中で前後に回転しながら飛んでいき、近くのビルの四階の窓に突っ込んだ。


 ユウタが見上げると、赤い一つ目がそこにいた。


「ああああ、ああああああっ!」


  今までどこにそんな力があったのか、叫びながらフワリに肩を貸して立ち上がらせ、半ば引きずるように歩く。


  見つけたのは、先程の軽装甲車の爆発した破片が当たったのか、砕け散ったビルの入り口だ。


  いつ、あの巨大な腕で潰されるか分からない恐怖で吐きそうになりながら、ユウタはフワリに肩を貸して歩き続ける。


  ユウタの真上に巨大な影が現れ、夜のように暗くなる。


 死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。嫌だ死にたくない!


  フワリを抱き抱えてビルの中に飛び込んだ。


  拳は襲ってこず、そのかわり複数の爆音が鼓膜を震わせ、衝撃が二人のいるビルを揺らし、砕け散った窓ガラスの雨がユウタ達に降り積もる。


  砲撃が一瞬止むと、一際大きな音が遠ざかり、再び砲撃が始まった。


 外で何が起きている分からないまま、ユウタはフワリを抱き起す。


「もう少し頑張って。エレベーターに乗れば地下シェルターに行けるから」


  フワリは応える力もないのか、力なく頷く。


「エレベーターに着いたよ。すぐ来るからね」


  ユウタは何度も声をかけながら、エレベーターのボタンを押した。しかし何の反応もない。


  何度も何度も押し込むも、エレベーターは沈黙し続ける。


「開いて。お願い開いて!」


  ユウタが叫んだ直後、再びビルが横揺れを起こし、瓦礫が頭上から落ちて来た。


  二人を簡単に肉塊に出来るほどの大きさのコンクリートの塊が落ちて来る。


 ユウタはフワリをしっかり掴んだまま、その場から離れるために身体を投げ出すように跳んだ。

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