人間模様13 マイタイム
herosea
バー「オリオン」
ヒロシはお客様との懇親の帰りだった。仕事上の話で緊張感のあるお酒の後だったこともあり、一人静かに飲みたい・・どこに行こうかと思案しているところだ。最近、自宅の最寄りの駅近くで女主人がやっているバーを知ったが、その店は来る客に寄って少々騒がしくなるところがある。下ネタ話が好きな常連の若い女性客がいたりと刺激的ではあるが・・今日は静かに飲みたい。ちょっと思案して、ヒロシは東急の別線で帰り、店を新規開拓してみることにした。
ヒロシの自宅はいわゆる東急沿線にある。都下城南地区と言われるエリアで東急路線が複数走っているが特徴だ。通常は東横線を使っているが、別路線の池上線でも自宅から歩けなくはないところに駅があった。ちょっとした商店街があり飲み屋も多い。ただ・・、買い物はしたことがあってもその付近で飲んだことはなかった。それもあってこの別駅あたりにも知った店も探しておこうと決めた。
折角だから新規開拓の店選びの条件についてはハードルを上げることにした。まず、静かに飲めるところが条件だ。そしてこじまんりしたところ。今日のような気分の時はカラオケのある店は論外だ。そして、スコッチが飲めるバーであること。この最後の条件がかなり厳しい。何故なら、降りる駅は住宅街であり商店街こそあるがスコッチ専門のバーはそうはないと想像ができる。まぁ、気楽に探して探索してみよう。
別駅を降りて商店街を進んでいくと1分もしないところに飲み屋ばっかり集まっている横丁があるのを見付けた。ほぉー、こんな横丁があるんだな。横丁の路地に進んでみると・・、スナック、大衆居酒屋がいくつか。店々からカラオケの音が外まで聞こえて来る・・、そういう横丁かぁ・・ちょっと違う・・。
諦めて踵を返し横丁の入口に戻った時だった。小さい手書きの立て看板が横丁の入り口に置いてある。「Bar オリオン」と書いてある。バー? でもどこにもそんな店は見当たらない・・。
看板を良くみてみると、小さな字で、「この先の路地を右に曲がり右手すぐ」と書いてある。ヒロシはもう一度入口から億に進んでみた。するとカラオケが漏れてくる居酒屋の一つの脇に小さな路地が確かにあった。その路地を進むと・・、たしかにその店はあった。古びた木製のドアに木彫りで「オリオン」と書いてある。騒がしい周りの雰囲気とは正反対に、このエリアのブラックホールのようにひっそりとした雰囲気が漂っているが・・。
ヒロシは思い切ってドアを開けてみた・・、あっさりとその店はバーだった。
4、5人も座ったらもうもう満杯のカウンターのお店だ。そして・・カウンターの向こうにはコレクションのように沢山並ぶ通好みのウィスキーボトルが並ぶ。マスターがこだわっていることがすぐに分かった。こんな住宅街の近くにイメージした通りのお店があることに驚きであった。寡黙なマスターにがやっていて、最近、多摩川向こうから店が移ってきたらしい。この小スペースを気に入って営業を始めたばかりとのことだった。
これが、ヒロシとこのバーとの最初の出会いである。
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