ペンタクルの10

椅子に座る白髪の男が一人。ぶどうが描かれたローブをまとう。足元には犬が二匹。

男は石で作られた橋のような建築物の下にいる。建築物の向こう側には二人の女性と一人の子供が立っていて、さらに奥には街並みが広がる。

カード全体には、サッカーボール大の金貨が十枚、紋様のように並べられている。


<絵柄のイメージ>

優雅な生活を送る老人


<正位置の意味>

「蓄財」「相続」「富」安定した現状、完成の状態、資産を受け継ぐ


<逆位置の意味>

「退屈」「限界」日常に飽き飽きしている、刺激を求める、結果は期待できない



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



【幸せの中で 最終話】


 髭も白くなり、おれは彫刻家を引退した。大きな屋敷には家族や孫が住み、多くの弟子もいる。彫刻家としての道を究めた証として、使い切れないほどの金があった。


 目の前に広がるのは若き日の夢の完成形。おれは大きな家に住むことができた。おう必要のない財産は妻や子供に受け継がせよう。


 引退後、ふと今の生活に退屈する時があった。刺激のない日常に飽きがきたのだろう。しかし体は限界だ。あの頃のような彫刻はもう作れない。


 犬とじゃれる孫を見ながら、ゆっくりと目を閉じる。幸せな人生だった。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「主人公は幸せな生涯を閉じましたとさ。めでたしめでたし」


「ペンタクルと比較すると、ソードの王様は悲惨よね……ま、人生いろいろだけど」


 感慨深いことを言いながら、姉ちゃんは豚丼をバクバク食べている。


「じゃあカードの説明するね。正位置は財や富や地位からくる安定を暗示する。仕事ならお金関係に期待できるよ」


「ペンタクルの物語は満足して終わったけど、物質以外の満足じゃないの?」


「十枚目の解釈はちょっと違って、満足を通り越して退屈しているんだ。これが逆位置の暗示する『日常への退屈』で、刺激が欲しい状態になる」


 人間は「慣れ」というシステムを持っている。現状が標準化すると、今いる場所の高さが見えなくなってしまう。だからこそ「初心忘れるべからず」だ。


 ハートフルな日常生活を望むならカップの十枚目が受け持つ。

 精神面のカップ、物質面のペンタクルである。


「それとペンタクルの十枚目には資産の相続という意味もあるんだ」


 自分が手に入れた大切なものは、別の人間によって守られる。これを安心と捉えるか、無意味と捉えるかは占った本人次第だろう。


「でも逆位置の退屈って、お金持ちが陥りそうな心理ね。お金があるからスリルを買うのは難しくないでしょうに」


「でもギャンブル関係にいい暗示じゃないんだ。大人しくしとけ、ってことかも」


 人間の欲は底なし。満たされてもすぐ欲しくなる。

 それが人間の成長だというなら、一概に悪いとも言えない。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ

↓ブログ「やっぱりたけのこぐらし」小アルカナ:ペンタクルの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-pentacle


※)「幸せの中で」の参考にさせていただいたサイトはこちら

↓++ヨウコのタロット占い++ 小アルカナの意味早見表・ペンタクル↓

http://www.3tail.net/tarot/card/coin.html

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