第11話 初体験
二人がいなくなったのを再度確認してからゆっくりと、二人が硬貨を入れた機械へと近付いた。
見ると、二百円入れるようにと書いてある。それに従ってみると、コインが一枚出てきた。なるほど、これで一回遊べるというわけだな。俺は一人で納得した。
コインを握り締めプレートを眺める。115kmと110kmの部屋は、あの二人が入っているために使えない。となると選べるのは、90kmと100kmと130kmの三つの部屋からということになる。おそらくこの数字は球速のことなのだろう。だとすれば、90kmか100kmを選ぶのが妥当だ。俺は素人なのだから、90kmを選びたいのは山々だが、二人にどう思われるのか分かったものじゃない。人目を気にする小心者の俺は悩んだ末に、100kmの部屋を選んだ。
扉を開き部屋に入ると、すぐそこはバッターボックスになっていた。対面にはモニターがあり、おそらくは有名な野球選手なのだろうが、姿が映し出されていた。きっとプロの野球選手との対戦の疑似体験ができる趣向なのだろう。
視線を近くに戻すと、種類の違うバットが三本並べられていた。ここから一本選ぶらしい。俺は一本一本重さや、握り易さなどを確かめるが、そこには部活で使うような良いものは無く、およそ及第点からはほど遠い一本を選んだ。
バットを構え、バッターボックスに立つ。それから呼吸を整えモニターを見つめるが、数秒経っても、その映像は投げる素振りを全く見せない。壊れているのだろうか? と思い周囲を見渡すと、先程硬貨をコインに変えた機械と似た機械が、扉の近くに寂しそうに立っていた。そこで初めて、コインの存在を思い出す。それからズボンのポケットを弄ってコインを取り出し、機械に投入した。
やっとのことでモニターの映像が動き出し、すぐにバットを構えた。ゆっくりとした動作で、映像が投球する仕草をしたかと思えば、ワンテンポ遅れてボールがモニターから飛び出した。不意を打たれた俺が振ったバットはきれいに空を切る。目を凝らしてよく見ると、モニターに穴が開いていた。さっきのボールは、きっとここから飛んできたのだろう。一人で納得し、次に備える。
何事も無かったかのように、映像は一球目と同様の軌跡を描く。今回はボールの飛び出した瞬間も見えた。ところが、またもやバットが虚空をつかむ。途中でボールから目を離したためなのか、そもそものスウィングが下手なのか、自分では分からない。
俺の思いを余所に三球目が来る。初めてボールがバットに当たったのだが、ボールが前には飛ばず、真後ろへ飛んだ。バットの振り出しが遅かったのだろうか。
次の球では、ボテボテのゴロではあったものの、ボールが前へ飛んだ。ところが、手のひらに生じた痛みが酷く、打球が前へ飛んだ嬉しさを感じられなかった。おそらく、バットの根元でボールを打ってしまったのだろう。その衝撃が字の通り、骨身に染みた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます