アトラスティの本音
貴族区の整理された道を、学園に向けて進む。
アトラがラプロトスティさんに憧れているのは、間違いなく
それに、アトラはどこかでラプロトスティさんが貴族学院に対して
理論的な話は昨日した。だから、あとボクが出来ることは、友達としてアトラの思いを聞くことだけだ。そこから先の感情的な部分は、週末に家族に任せる。この方法が一番有効なはずだ。結局のところ、友達でしかないボクが出来ることは、閉ざした箱の
「とはいえ、本心を聞くっていうのも、簡単じゃないんだよな……」
カルミナとイセリーの問題も、二人が歩み寄ってくれたからこそ一ヶ月で進展があったのだ。アトラがもし、この件に関して触れてほしくないと思っているのならば、歩み寄ってくれないかもしれない。そうなれば、問題の解決は難しくなる。ボクがもっとコミュ強であれば、こんなに
「悩んでてもしょうがないか。いつもの事だが、やれるだけのことをやろう。
前世で何かをする際、心の支えにしていたあるアニメの言葉を声に出し、今回もやる気を起こす。
学園に着いたため、正門から入って校舎を右から回り、
「ただいま」
「あっ、おかえりー」
東側の二段ベッドの上段から身を乗り出したカルミナが、一番に返答をくれる。続いて、その下でベッドに腰掛けたイセリーも「おかえり」と言ってくれる。
「おかえりなさい。どこに行っていたのですか?」
最後におかえりと言ってくれたアトラが、そう質問を加える。
「
「ええ、特に予定はありませんが……何かあるのですか?」
「うん。着いてきて欲しい所があるんだ」
「分かりました。予定は入れないようにしておきます」
「ありがと」
何の疑いもせず、アトラは
「さて。プロティアさんも帰ってきたことですし、夕飯を食べに行きましょう」
「ご飯だー!」
「ミナ、アトラさんの前よ」
「ご無礼
「いつの時代の人ですか」
アトラはそんな事を気にする人ではないので、カルミナの謝罪なのかボケなのか分からない、古いフォーテォラ語での謝罪に笑いながらツッコミを入れる。
「さあ、プロティアさんも行きましょう」
「うん」
四人でいつも通り人でごった返している食堂に向かい、夕飯を済ませた。
後にしすぎると、逆に話を切り出しにくくなると思い、食堂から部屋へ戻る途中、一歩引いた位置を歩くアトラの横に並んで話しかける。
「後で切り株に来れる?」
「……昨日の話ですか? その件については既に結論が出たはずですが」
「ボクもそのつもりだったけど、まだ確定させちゃいけないと思ってね」
「そうですか……週末もこの事でしょう? あなたが諦めなくても私は意見を変えるつもりはありませんが、説得を続けたいと言うのであれば応じましょう」
表情から嫌そうな雰囲気が
「ねえねえプロティア、アトラさんと
カルミナが振り返り、後ろ歩きになりながら聞いてくる。危ないぞと
「そうだよ」
「へー。じゃあさ、あたしも弟子にしてよ! 剣でももっと強くなって、イセリーに勝ちたい!」
「いいけど、朝と鍛錬後に鍛錬が追加されるけど大丈夫?」
「うっ……ちょっと考えさせて」
「そんな覚悟じゃ、私に勝つなんて一生無理よ」
「なにおう! やってやる!」
「じゃあ、私も弟子入りするね。いい?」
「もちろん」
ちらりと横目でアトラの顔を見てみる。兄弟──性別的には姉妹の方が適切だが──弟子が出来たというのに、話を聞いていたのかすら怪しい程固い表情をしていた。あまり辛い思いをさせたくはないが、こればっかりは心を鬼にしてでもアトラに迫らなければならない。このままの未来は、きっとアトラにとって良くないだろうから。
♢
お風呂を出て、ささっと髪を乾かす。鍛錬後、すぐにフェルメウス宅に向かったから、まだ入っていなかったのだ。ちなみに、他三人は既に終えていた。
アトラには三十分くらいで出るから、待っててと伝えてある。部屋に戻ってもいなかったから、先に行っているのだろう。
寮を出て炎で明かりを作り、西へと歩みを進める。西端に達したところで進行方向を右に変え、並木の最奥にある切り株に至る。
暗闇の中、フリルが
「六の月にもなると、夜でも心地いい気温だね」
「それでも、長居をすれば体が冷えてしまいますわ。特に、お風呂上がりであるあなたは……本題に入りましょう」
こちらに向いた視線は、どこか悲しそうに見えた。
炎を消滅させて、アトラの隣に座る。この位置はほとんど日が当たらないため、切り株は思った以上に冷たかった。しばらく我慢すれば体温で
「夕方、フォギプトスさんを訪ねて、アトラの過去について聞いてきた」
「……出掛けていたのは、そういう理由でしたか」
「うん。勝手なことをしたことは謝る。ごめんなさい」
「いえ。あなたの事ですから、悪気があってのことではないでしょう。気にしていませんわ」
「ありがとう……それで、一つ聞きたいことがある。アトラは、ラプロトスティさんが貴族学院を退学した事について、どのくらい知ってるの?」
布二枚越しの冷たさがお尻を通して落ち着いていく中、数秒の沈黙が
「……全て知っています。何があったのかも、理由も。この目で、見ましたから」
「え!?」
隠せてないじゃんラプロトスティさん。
「お姉様のお友達と街へ出ていたのですが、どうも様子がいつもと違うように感じて、迷子を
詰めが甘いよラプロトスティさん。
しかし、全て知っているとなれば、アトラがラプロトスティさんに対して
「……お姉様が学院を去った後、周囲の私への見方は大きく変わりました。異常者の妹、などと裏で呼ばれていたことも知っています。教師の方々からは、これで成績が悪ければフェルメウス家の名が
「だから、成績を良くしようと頑張った」
「はい。私がお姉様と同じ
推測は大方合っていたようだ。アトラは、姉と家の為に自分の苦を
人それぞれ悩みはあると思うが、やはり貴族の悩みというものは規模が違う。カルミナやイセリーの件は、あくまで二人自身にほぼ完結していた。だから、ボク一人が手を回してある程度解決へ導くことが出来た。一方、貴族であるアトラの悩みは、アトラ本人だけでなく家族、そして大勢の貴族にまで渡った悩みだ。これに関しては、ボク一人じゃどうしようもない。フォギプトスとラプロトスティさんにアポを取っておいて正解だった。
「……もう分かったでしょう? あなたがどれだけ手を回したとしても、私が
「アトラの本心は?」
「え?」
「アトラは、もし唯勇流をやめても何も影響が出ないのならば、どうしたい?」
何度か、アトラの喉が鳴る。何かを言おうとして、言えないでいる。
「アトラは、ラプロトスティさんのどこに居たい?」
質問を変えてみる。
「……隣が、いいです。共に過ごし、共に高め合い、たまに
これが、本音なのだろう。貴族の重圧があるから隠してきた、アトラの
さあ、ここからがボクの大見せ場だ。貴族の問題をどう解決するか、何とかして考え付かなければ。知恵熱程度で休んでられないぞ、ボク。
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