「どんぶり」
私はカツ丼にするか親子丼にするか悩んでいた。
実はこういうことだ。職場近くにあるこのお店は仕事で疲れたときや同僚や後輩たちとよく利用していた。定年を過ぎて退職してからも足げなく通っていた。
しかし、3年前に足が不自由になり車が運転できなくなった。かなり遠くにあるため車でなければ、このお店にはこれない。息子の家族とともに訪れたが、息子にそう何度も迷惑をかけられない。おそらく今回が生涯で最後だ。
息子が注文は決まったかと尋ねてくる。私が待たせるわけにもいかない。私は決まった意志を伝える。しかし、まだ私は決めかねていた。息子が店員を呼びつける。間もなく私は選択を迫られるだろう。
カツ丼か親子丼か・・・
カツ丼にするときはいつも仕事のことでくじけそうだったときに頼んで元気をもらった。今は退職して老後生活を気ままに楽しんでいる。しかし、足を怪我してからというもの疲れをより一層感じやすくなった。やはりここは元気をもらえるカツ丼か。
親子丼にするときは決まって家族にトラブルがあったとき。親子丼を食べて力をもらい様々な問題を解決してきた。今の家族に問題はない。むしろ幸せだ。なら幸せを噛みしめて親子丼か。
いよいよ店員が私たちのテーブルにきた。私の視線はカウンターにあった『本日のおすすめ』に引き付けられた。
私はつばを飲み込み、のどを湿らせて定員に注文する。
「天丼1つ」
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