一平、赤ちゃんになる


 あの流れ星の夜。


 私は、一平くんと思われる赤ちゃんを脱ぎ棄てられた彼の服に包んで家に連れて帰った。


 見ず知らずの赤ん坊だったら、真っ先に警察に連絡したと思う……だけど、この赤ちゃんが一平くんだっていう可能性も捨て切れないから……。

 警察に、どう説明する?

 一平くんをどこかの研究機関が連れてっちゃったりしない?

 それに、私、逮捕されちゃったりして……。


 いろんな考えが頭に浮かんで、私の頭がショートした。



 ボンッ!



 赤ちゃんのあやし方なんて、わかんない。


 首もまだすわっていない赤ちゃんの抱き方だって知らない。


 私は、大きな魚を抱えるみたいなポーズで一平くんを持ちながら、ただただ家までの道のりを歩いた。




 家に着いたのはだいたい夜の七時くらいだった。


「美波、遅かったね。連絡はもらってたから大丈夫かと思ったけど、」


「ママ……ねえ、この赤ちゃん!」


 すがるようにママに一平くんの顔を向けると、

「あら〜、いっくん、寝ちゃったのーー。」


(え……。)


 予期せぬことが、美波を除いた世界で起きているようだ。


「いっくん……?」


「え?いっくんでしょ、あなたの子ども。」




(えーーー!!わ、私の子ども!?)


 どういうことだろう。

 どうなってしまってる?



 一平くんと思われり赤ちゃんは、途中で泣き疲れて眠ってしまっていた。

 受難とは無縁みたいに、すやすや眠る。


(……可愛いなあ……。って、それどころじゃない! )


「ねえ、それより、いっくんを包んでる服? 何それ? あなたの? いっくん服着てないの? どうして?」

「これは〜……と、ちょっとタンマ!」


 私はとりあえず、赤ちゃんをママに渡して、自分の部屋にこもった。



 わからないことだらけで、どこから手をつけたらいい?


 まず、私がお母さんってどういうことだ。私、まだ中学生なのに。もちろん、赤ちゃんができるようなこと……未経験だし、だいたい父親は、誰よ!


 私は、ぱっと見は変わらない自分の部屋の家宅捜査を始めた。

 クラス写真、アルバム……そうだ、中学生の一平くんはどうなったのかな。


 私は、春に撮られたばかりのクラス写真を引き出しから引っ張り出して見た。


(……あれ、一平くんが……どこにもいない。)


 次に、スマホの写真フォルダを開く。


(なに、これ……。)


 スクロールして時間をどんどん遡る。

 今日、一平くんと撮った写真も、夏祭りの浴衣の写真も、隠し撮りした一平くんの横顔も……みんなみんな、消えている。


 代わりに、さっきの赤ちゃんと私のツーショットがどんどん出てくる。

 撮った覚えのない写真。

 私は、彼氏の一平くんがいないパラレルワールドに迷い込んでしまったとでもいうんだろうか……。


(父親は、誰よ〜〜!)


 部屋中を物色しても、手掛かりは出てこない。

 私は、泣きたい気分なのに、疲弊し切って涙も出ない。


(一平くん、助けて……。)


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