刹那に瞬く星空と永遠に残る生命
文屋旅人
1 星空と生命
冬の夜、肌寒く刺さるような大気の中、上を見る。暗い夜空の海の中を、星が浮かんでいる。
じっと見ているだけでは、永久不滅と思われる星空。
が、その日一日だけでも、基準となる星を中心としてゆっくりと、時計のように回っていく。蝸牛に劣るとも錯覚してしまうくらい、ゆっくりとした変化が、一夜ごとに行われる。
更に、天の川が流れるような悠久の時間の果てには――さらなる変化がある。
星の灯火が消える日が来るのだ。
ベテルギウスは、数年前に超新星爆発の光を地球に届けた。僕の好きだった星だ。
もう、冬の大三角形は存在しない。
北極星の位置はわずかにぶれ、小さな星は消えたり生まれたりする。
それを、僕達は永遠に見続けている。
刹那に瞬く星空にあこがれながら、永遠に残る生命を持つ僕は空を見る。
僕が今いる場所は、昔から星がきれいな場所といわれていた。片田舎の町だ。
人はいない。僕以外、誰もこの町にいない。
町は朽ち果てるに任せて存在する、
僕の母も、僕の父も、そして僕の師匠も、もうこの町には来ない。
皆、倦んだ中で生きている。
僕も、そうだ。
雪が薄らと積もり、鹿が夜空に向かって啼く声しかしない。
僕が住んでいる場所とは違い、ここには生命の音しかしない。
囁く風は草木を擽り、走る水は岩礫を撫で踊る光は大気を包み、飛ぶ土は地表を跳ね、音を立てる。
自然と命が奏でる、交響曲。
果てがない星空に瞬くのは、刹那に輝く満点の星空。それを見る僕は、永遠の生命をあざ笑う。
さわわと風が吹く。倦んだ魂を、倦んだ体を、風が包み込む。
「――気持ちいいな」
風を浴びながら僕は呟いた。
人の歴史から取り残され、生命の歴史から取り残された人間と同じように、取り残されている。この町はそんな町だ。
道の端、うっすらと草が生えている。
寝床の様な心地よい場所だ。
どうせ、死ぬことはない。
だから、こんなところでも寝ても平気だ。どうせ消えない命。
少しくらい――粗雑に扱ってもばちは当たらない。
そう思って、そのまま目を閉じてみる。
続く
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