男女問わず顔がいい子を侍らせたい!!

葉山藤野

第1話




私好みの私だけの顔のいい子達を侍らせよう。そう思い立ったのはものすごく疲れていたからなのかもしれない。お金が溜まりに溜まった結果からなのかもしれない。普段あんまり呑まないお酒をたらふく呑んでしまったからかもしれない。でも紛れもない私自身の本心からでた願望である。そんな私の私だけの私の為の話である。




「ジーン!!おはよう!」

「おはよう、ユーファ」



ユーファと呼ばれた美少女はジーンに向かって花がほころぶように笑ってから、ジーンとはこれで終わりと言わんばかりにくるりと方向変換し走り出す。そして彼女は道行く人たちへと挨拶をしていく。


毎朝ご苦労なことで、なんとまめなことかとユーファの行動にある意味感心してからジーンはユーファが進む方と反対方向の、目的地へと足を進めた。






前世というものがあった。地球という惑星で二十一世紀という時代を生きていた。そのときの考え方のせいか、ジーンは奴隷というものに対して消極的だった。だけど、それもこの瞬間からもうおさらばだ。ジーンは目の前のお店、奴隷商、通称”ヒイロの館”の扉を開いた。





「いらっしゃいませ、ジーン様」



一瞬で扉を閉じかけたのは仕方がない。内部は煌びやかだった。そこら辺の貴族の屋敷と負けず劣らず綺麗に磨き上げられ、ランプからは上品な光が差し込む。装飾品の価値はわからないが飾ってある絵画や壺は一級品だろう。贋作だとしても価値の高いものだと思わせる何かがここにはあった。


ここが奴隷商だと言われても信じられないくらいだ。


そんなところにいかにも怪しい男に名前を知られている上ににこやかに微笑まれてこの上なく怪しかったのだ。この人やばい、と警鐘が響いたような気がしたのだ。でも完全に扉を閉じて踵を返さなかったのはジーンの矜持だ。曲がりなりにも冒険者として名を馳せているジーンのつまらないプライドと、自分だけの楽園を築き上げるための一歩の出鼻を挫かないために。



「ふふ、ああ、これは申し訳ございません。そこまで驚かれるとは思わず。わたくし、この店の店主のリュウ、と申します。お気軽にリュウさん、もしくはリュウちゃんと呼んでくださいませ。」



「はあ、」



何だこいつ。危うく声に出そうになったのを飲み込んで、さてどうこたえようにも、上手い返しが見つからず、適当な返答で濁す。店主、リュウさんは特に気にしてはいないのかニコニコと営業スマイルを貼り付けたまま。このまま見つめあっても埒が明かない。ジーンは服の裾を握り締める。


ため息をつきたい気持ちをおさえて、ええいままよ!



「あの、よろしいですか?」

「ええ、もちろん。お客様はどの様な奴隷をお探しで?麻痺や毒、異常耐性が高い亜人族でしょうか?それとも魔力耐久性に優れた人族?もしくは耐久値が非常に高い…」



あ、心折れそう。顔がいい奴隷を買う以前にジーンは心が折れる音が聞こえた気がした。それはもう、パキンと大きな音の。



そう、ジーンが抱かれているであろう万人からの印象。それは”とてつもなく恐ろしい魔女”だった。

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