第114話 Side:A

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第114話 Side:A》


「飯・・・、メシ・・・、めし・・・!」


「清潔なタオル・・・、セイケツなタオル・・・せいけつなたおる・・・!」


アイザックとカペラ。求める物が違う2人でも、気持ちは一緒だった。血眼になりながらレグルスが持ってきた補給物資の入ったカバンを探していた。彼が来た道を辿ったり、草木を掻き分けたり、恐らく2人がここ最近で一番、生にしがみついていると言っても過言ではない程に必死だった。


「あったか?!」


「無いわ・・・。もしかして、ステュムパーリーに盗られたとか?」


もしそうなっては、奴らは巣に持ち帰る。その習性がある事を知っている2人は、近隣の高所を見渡した。が、近場には奴らの巣は無いのか、上空を旋回している。


「言葉が通じるわけがないしな」


見上げながらアイザックがそう呟くと、カペラはバカにするように口を開いた。


「聞いてみたら良いじゃないの」


もはやツッコミを入れる余裕はないのか、溜め息混じりに彼は空に向けて付き合ってみる事にした。


「おーい、ここら辺でカバンを見なかったかー?・・・これで満足か?」


『カバンならあっちでさっき見たぞー!』


ギョッと目を丸くするアイザックとカペラ。


「は・・・?」


男の声で返ってきたその言葉に耳を疑う。


「・・・マジ?でも、何か聞き馴染みがあるような・・・」


と、カペラが声の聞こえた方へと顔を向けると、その声の主は姿を現した。


「・・・お前か」


アイザックの言葉は、文字通り落胆だった。そこにはシャーク・レゴイースの姿があった。


「よっ!」


快活に挨拶をするも、2人からは嫌な視線が刺さる。


「何だ?カバンがどうかしたのか?」


しかし彼はそんな事は気にせずに話を進めた。あまりの間の抜け方に、もはや必死さは削がれた。


「レグルスが持ってきたカバンの中に、食料や清潔なタオルとかが入ってたんだよ。俺たちはそれを探してるんだ」


アイザックは探す人手を増やそうと、少しでも興味が引かれるように説明するも、シャークは余り関心がないようだった。


「ほーん・・・、まぁ、俺はさっき飯も食っちまったし、別段体が汚れてるってわけでもないしなぁ・・・」


と流し見る。


「・・・分かったよ、王国に戻ったら、うちで何か奢るよ。だから一緒に探してくれ」


「そうこなくっちゃ」


にしし、と笑う顔にももう見慣れた。それ程に、彼らは同期という仕事仲間の範疇を越え、一友人としての仲を築いていた。シャークがカバンを見た、という場所まで歩きながら辺りを見渡すが、いつの間にかステュムパーリーは1羽も飛んでいなかった。その様子に少し焦りを覚えるアイザックだが、空腹には勝てない。喚く腹の虫を抑え込みながら進むも、途中でシャークの様子が変わった。


「・・・あれぇ?」


「どうした?」


「いや、さっきこの辺にあったと思ったんだがなぁ」


頭をポリポリと掻きながら彼は見渡す。その場には乾いた枯葉が溜まっていただけだった。しかし、何かが置いてあったような形跡はある。サイズからして大きめの肩掛けカバンぐらいだろう。


「誰かが持って行ったとか?」


カペラが足跡を探すも、見つからずに軽い溜め息を吐くと、少し遠くから雄叫びが聞こえた。


『っしゃあああああああああああ!!!!!!!!!』


4人が顔を見合わせると、急いで向かうことに。そこにいたのは彼らの先輩であるジェスト・ランプだった。


「ジェスト先輩!」


アイザックの声に反応して振り向くジェストの顔は生き生きとしていた。それも引く程に。


「おう、どうしたお前ら!?」


元気過ぎる応答に圧されながらも、彼がカバンを見掛けなかったかと問うも、答えは首を横に振っていた。


「そういうのなら、アルタイルが何か知ってるんじゃないか?ほら、あいつ頭良いし」


頭の良さは関係ないんじゃ、という全員のツッコミは心の内に秘めるが、レグルスが口を開く。


「あの・・・、アイザックさん、こちらの方は・・・?」


「あぁ、紹介が遅れたな。こちらは突撃部隊の2期上のジェスト・ランプ先輩だ。ジェスト先輩、同期のレグルスです」


紹介されあった2人が握手をすると、カペラが口を開く。


「で、どうするの?アルタイルのところ行くの?」


するとシャークが何かを見付けて声を上げる。


「お、おい、あれ!」


指をさす方を見ると、そこには茶色のカバンを咥えたステュムパーリーが上空を悠々と飛んでいた。


「レグルス、あれか!?」


「は、はい、アレだと思います・・・!」


それを聞いたアイザックは足に《風》の魔力を、カペラは左手に装備している小型のボウガンに《水》の魔力を込めた。アイザックは飛び上がり、カペラは頭に狙いを定める。


「うおりゃあああああああ!!!!!」

「やぁあああああああああ!!!!!」


空中で体勢を変えて思いっきりかかとを振り下ろすアイザックと、小型のボウガンから矢を放つカペラ。2人の同時攻撃の一撃は、今までのどの攻撃よりも鋭かった。だが、攻撃が当たる直前に何かがステュムパーリーを掻っ攫うようにアイザックの前を通り過ぎた。


「何っ!?」


通り過ぎる一瞬の間だが、彼はそれが何なのかをはっきりと視界に捉えた。


「ルナールか!」


無事に着地をし、顔を上げる。ルナールは魔法を解くと、右手に掴んだステュムパーリーを放して地面に横たわらせた。


「あれまぁ、みんなお揃いでどうしたのよ?」


狐目が思わず開きそうな程に驚いている様子のルナールは一息吐き、ゴソゴソと魔法の媒介にしている《白狐のお骨》を皮袋にしまった。確かにここにはアルタイルとシャウラ以外は揃っているが、驚くべきはそこではないだろう。


「あれ?何でレグルスもいるの?」


マイペースに疑問ばかりを投げ掛ける彼女にレグルスがここにいる理由と、今自分たちが何をしているのかを事細かに説明するとジェストも驚いていた。


(そういえばほぼ説明してなかったな)


独特のスルースキルを持つジェストに、もはやツッコむ余裕は生まれなかった。


「それで、カバンを咥えてたこの仔を仕留めようとしてたわけね」


「あぁ、そういうことだ」


彼女が差し出すカバンを手に取り、開けるレグルスだが、中には何も入ってなかった。


『え・・・』


ひっくり返してみてもホコリ1つ落ちてこない事に、アイザックとカペラは愕然とし、声も出さずに乾いた地面に仰向けに倒れ込んだ。


「何だかよく分からないけど、元気出しなって。ほら、もう後1日でここでの生活は終わるんだからさ」


ルナールは2人を元気付けようと明るく振る舞うも、当の本人らは放心したように顔を背ける。まるで不貞腐れた子供のような態度に思わず笑ってしまった彼女は、この中でも年上の対応を見せた。


「良かったら、私の食糧を少し分けようか?」


その言葉にアイザックはガバッと起き上がるも、すぐに顔色を曇らせた。


「・・・いや、やめとくわ。今回の課題はあくまでサバイバルだ。私的な施しは受けねぇ」


「意外と冷静なのね」


辺なところに頑固な一面を出した彼に軽い溜め息を吐いたルナールは、呆れた表情で踵を返してゆっくりと歩いて行こうとした。


「どこ行くんだ?」


「今ので5羽目だったから、拠点に帰るのよ」


ふーん、と見送る。


(俺も後1羽・・・)


急に我に帰り、天を仰ぐ。腹が減っては戦はできぬ、と、どこかの偉い人の言葉を思い出すが、何も無いこの状況で空腹を満たす事はできない。


(さっさと倒して拠点に戻る方が良い、か)


走り回った事で余計な体力は使ったが、今朝ぐっすりと寝たおかげで魔力は残っている。


「みんなも先に戻っててくれ。どうせ5羽、既に倒してんだろ?俺は後1羽だから、倒してすぐ拠点に行くよ」


カペラ、シャーク、ジェストが戸惑いならも小さく頷くと、視線を合わさずにアイザックは親指を立てた。


「あのモードに入っちゃったらダメね。行こ、レグルス」


カペラも少し呆れた様子でレグルスの手を引き、その場を後にしようとする。心配そうなレグルスを尻目に、アイザックは集中し、息をゆっくり吐く。


(あまり大きくは動けない。仕留めるなら2撃・・・、いや、1撃がベスト)


ゆっくりと瞬きをし、イメージを固める。


「・・・よし、アレを試してみるか・・・」


と、アイザックは立ち上がり、上空を見上げた。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第115話 Side:A》へ続く。

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