誰も知らない楽園へようこそ

「結婚できない」「結婚しなければ」と、元カレの時は散々に聞かされてきたせいもあり、私自身は結婚に望みなど持たなかった。そもそもの話、今の世の中「結婚願望を持て」と言われても、私にとっては「危機感を持て」と同じくらいピンとこない話だった。

 事情が変わったのは、元カレと別れ、相方と付き合い始めてからである。彼は私以上に重いメガテニストで、小鳥が好きというこれまた珍しい人だ。歳の差はかなり離れているが、それさえも私は気にならない。いや、気にする方がおかしな話だとも思う。同じような趣味で惹かれ合い、語り合うことに年齢など関係ないからだ。

 だからだろうか、私は今まで以上に相手のことを考えるようになった。元々重い側面はそのままに、相手に合わせるようになったのだ。捨てられるのが怖くて、というのもあるが。ぐいぐい引っ張っていきつつ、引っ込むところは引っ込む形でついて行っている。心の底から安心できる相手だとしても。

 楽園には、「閉じた楽園」と「開いた楽園」の2種類があって、その行き方は誰も知らないし教えてもくれない。「閉じた楽園」は自分と相手と誰かが一人いればいいような、所謂「家族」と呼んでいいグループのことだ。「開いた楽園」はコミュニティと呼んでいいレベルの大規模なもので、最低10人はいなければならない。どちらも行き過ぎればガチのディストピアになるので注意が必要になる。

 私には距離感というものがあまり分からないのだが、少なくとも他の人たちは「本来の好み」とは別に、「流行り」などを話題にしていたし、愛想笑い(私が習得したのは大学以降。バイト中に)をしている時もあった。私はその輪に加わることなく遠巻きに見ている時もあった。

 一つ疑問に思うことがある。何故本音をネットで出すのかということである。寧ろ私はネットの方でこそ本音は慎むべきだと思うのだ。ネットは好き勝手に出来る楽園ではないと、私は考えている(元カレの時は怒りが抑えられずにキレたことがある)。私は本音を口に出さなければ生きていけない人間だから(リアルで口にすることの大半が本音)、仕方ないのだが。大抵の人はそうではないというのが不思議だ。

 楽園にたどり着くにはふた通りの選択肢があるが、どちらが楽かは分からない。本音をいつでも口にするか、周りに合わせるのか。どちらも与えられた役割を演じ切ることが重要になってくるので、そう簡単にたどり着くことはできない。あなたはどちらの楽園にたどり着けるだろうか。

 

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